•  戦前から携わり現在も装備品製造を続けている企業が多いのが防衛企業の特徴だ。その道のりは順風満帆ではなく多くの課題を抱えているのも事実。

     各企業はどのような思いで国防の一翼を担っているのか。自社の製品にかける熱き想いと誇りについて企業側に話を聞いてみた。

    豊和工業株式会社「国防に貢献し、国の安全と平和を“まもる”」

    画像: 愛知県に本社がある豊和工業。戦前から旧軍の小銃類を製造し、戦後は小銃のほか猟銃や工作機械、清掃車両などの事業を展開。指針に「まもる」を掲げている

    愛知県に本社がある豊和工業。戦前から旧軍の小銃類を製造し、戦後は小銃のほか猟銃や工作機械、清掃車両などの事業を展開。指針に「まもる」を掲げている

     2020年から陸上自衛隊に配備された20式5.56ミリ小銃64式7.62ミリ小銃89式5.56ミリ小銃に続く3代目の国産小銃で、いずれも国内唯一のメーカーである豊和工業が製造している。

    「20式小銃の開発にあたり、国産の弾薬との適合性や動作の信頼性、耐久性の試験などを徹底しました。さらに南西諸島での使用を意識し、海水に強くてさびにくい表面処理や排水性に優れている点などが特徴です。

    画像: 陸自を皮切りに今後は海空各自衛隊にも配備される20式小銃。生産数を増やす取り組みを豊和工業は進めている

    陸自を皮切りに今後は海空各自衛隊にも配備される20式小銃。生産数を増やす取り組みを豊和工業は進めている

     当社が小銃開発を始めるきっかけは、当時の社長が『国を守る装備品は国産であるべき』という信念からであり、その気持ちを今も受け継いでいます。20式小銃の採用の際も欧州メーカー2社とのコンペとなりましたが、国産を死守・継続しています」と佐藤輝彦火器事業部長は語る。

     20式小銃については配備後に部隊への意見収集も行ったと続ける佐藤部長。「私たちの仕事は製造して終わりではなく、その後の改良などの支援も大切だと思っています」。

    東洋紡株式会社「世界最高レベルの防護衣を作りたい」

    画像: 防護性の向上だけでなく生理的負担の軽減も目指した18式個人用防護装備。過去の防護服を知るベテラン隊員からの評価も高い

    防護性の向上だけでなく生理的負担の軽減も目指した18式個人用防護装備。過去の防護服を知るベテラン隊員からの評価も高い

     1995年の地下鉄サリン事件や2011年の東日本大震災における福島第1原発での放水活動などで世間に知られることになった防護装備。自衛隊の防護装備に携わるのが老舗繊維メーカーの東洋紡だ。

     防護性や難燃性だけでなく、繊維状活性炭布により通気性と軽さを兼ね備え、当時の防護衣として画期的だった00式個人用防護装備から、より軽く通気性に富んで性能はアップさせるという難しい課題を克服し、陸・海・空各自衛隊で採用されている18式個人用防護装備を開発。

    機能繊維AC事業部部長福井弘生氏。「私たちは隊員の命を守るものを作っているのだという意識は常に忘れない」と福井部長。自衛隊からは東洋紡が開発する安全で快適な素材への期待感を強く感じている

     CBRN(化学、生物、放射性物質、核)に対応する先端技術の素材はもとより「縫い目から液体が浸透しないよう、細部に特殊な工夫を凝らしています。高度な縫製技術を持ったスタッフの技がそれを可能にしています」と福井機能繊維AC事業部長は語る。隊員目線の使いやすい防護衣を作るため、細部へのこだわりを忘れずに製造を続けている。

    ノースガラス株式会社「命を預ける装備に欠損は許されません」

    画像: 海外での実弾試験を行った同社の防弾ガラス。万が一の際に必要なものだからこそテストを徹底し納品している

    海外での実弾試験を行った同社の防弾ガラス。万が一の際に必要なものだからこそテストを徹底し納品している

     ノースガラスは1996年に設立された日本初の防弾ガラス専門メーカーだ。陸上自衛隊の車両や海上自衛隊の艦艇などに同社の防弾ガラスが使用されている。第1線で戦う自衛隊にとって、防弾ガラスの性能は命に直結するものだ。

    代表取締役社長 押山正氏。「より軽く、薄く、クリアに見えるガラス素材の開発を常に追求しています」

     押山代表取締役社長は、「酷暑や極寒など日本と違う環境にあっても隊員の安全を確実に守るため、海外各地で実弾テストを行います。自らの目で製品の耐久性を確かめ、改良、改善の歩みは止めません。防護性と視認性の向上など、これからも自衛隊の考えに寄り添って商品を開発していきたいです」と力強く語る。

    株式会社五光製作所「目に見えずとも国防の一翼を担う誇りがある」

    艦艇に装備される船舶用汚水処理装置。衝撃試験など自衛隊の設定する厳しい基準をクリアしたものを納品している

     輸送用機器、器具メーカーとして戦後間もない1948年に設立された五光製作所。現在は海上自衛隊に船舶用汚水処理装置や循環式汚水処理装置などを納品している。

     艦艇という狭い空間で隊員が健康で安全に長い航海を行うには、清潔なトイレや排水環境が必要不可欠。自衛隊が必要とする装置は長期間の航海や任務をこなすために耐久性、対腐食性に優れた材質を使用し、万が一の故障時用に予備パーツが付属されている。

    営業部部長梅澤良一氏。「自衛隊向け製品を製作していることは企業の信頼性向上につながっています」

    「生産コストなど苦労も多いですが、自分たちが自衛隊を支えていると皆が仕事に誇りをもっています」と梅澤営業部長は語る。

    防衛産業の裾野を広げる取り組みとは? 企業の新規参入を促進する防衛装備庁

    2024年10月に名古屋で開催された「防衛産業参入促進展」。航空関連などで実績のある企業が多く集まり活況を呈した

     防衛産業の発展には企業の参画をしやすくする取り組みも重要になる。近年、防衛装備庁は企業の新規参入を促進するイベントの開催や、中小企業のサポートなども実施している。担当者に防衛産業の裾野を広げる取り組みについて聞いた。

    中小と大手、自衛隊とのマッチングを促す展示会

     さまざまな課題に直面している日本の防衛産業だが、防衛省も手をこまねいているわけではない。その取り組みの1つが「防衛産業参入促進展」だ。

     これは優れた製品や技術を持つ有望な中小企業やスタートアップ企業を発掘し、防衛関連企業や防衛省・自衛隊とのマッチングを図り新規参入を促す展示会で、2016年からスタート。これまで23回開催され、延べ385社が出展。直近の24年12月開催の東京での展示会には40社が参加している。

    「これまでは国産ドローンや3Dプリンターのメーカーと自衛隊がマッチングされています。これからは事前のニーズ調査を行い、さらなるマッチングの精度を高めていきたい」と防衛装備庁の山㟢室長は話す。

    企業を資金面でサポート全国キャラバンも実施

    防衛装備庁防衛産業政策室山㟢室長。「隊員とともに装備品製造は防衛力の中核。共に国防を担うパートナーです」

     また中小事業者の資金面での悩みに応えるため、政府は23年に「防衛生産基盤強化法」を施行。
    企業による防衛装備品の安定的な製造などのための取り組みを促進すべく、設備投資などの計画の認定と財政措置を制度化した。

     防衛装備庁から委託された防衛基盤整備協会(注)では、認定の申請書の作成などの相談、手続きを手助けする「君シカオランサポートデスク」を開設し、企業からの相談を受け付けている。

     さらに全国を巡回し各種施策の説明や相談を行う「君シカオランセミナー」を23年11月末までに全国32カ所で実施、延べ約1000社、約1400人が参加した。このほかにも防衛装備庁では新規参入への一元的な相談窓口を設置し、裾野を広げる活動をしている。

    (注)外国企業が開発した装備品について、日本企業が契約を結び、設計図などの技術資料や使用許諾を得て生産すること

    防衛装備庁の詳細はコチラ!▶https://www.mod.go.jp/atla

    (MAMOR2025年3月号)

    ※記事内容は上記掲載号の発売時点のものです

    <文/古里学>

    どうなるどうする日本の防衛産業

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