•  15歳から18歳という、遊びたい盛りの青春期を、わが国を守るために、勉学と訓練に費やす若者たちがいます。

     その学び舎は、高機能化・システム化された防衛装備品を運用する自衛官となる者を育成する陸上自衛隊高等工科学校。親元を離れ、校内の生徒舎で規律正しい団体生活を送りながら、日々、奮闘する生徒たちにとって、年に1度の「開校祭」は、解き放たれて楽しむ貴重な時間です。

     開校祭では、日ごろのクラブ活動の成果や、生徒会主催のイベントを披露。その“青春の爆発”を3本にわたってお届けします。

     前編中編に続き、後編となる今回は、グラウンドで開催されたダンスバトルや、文化系クラブの活動をご紹介します。

    若いパワーがあふれ皆が楽しそうにダンス

    画像: 優勝したダンスチームのパフォーマンス風景。ダンスが終盤になると、チームメンバーが観客や君津高校ダンス部に駆け寄り、ダンスの輪に入るよう促した。それゆえエンディングは総勢200人ほどで踊るにぎやかな演技となった

    優勝したダンスチームのパフォーマンス風景。ダンスが終盤になると、チームメンバーが観客や君津高校ダンス部に駆け寄り、ダンスの輪に入るよう促した。それゆえエンディングは総勢200人ほどで踊るにぎやかな演技となった

     午後からグラウンドで始まったのは、生徒会主催のイベント「対称区隊ダンスバトル」。今年は千葉県にある君津高校のダンス部が審査員として招かれた。

    ダンスバトルは生徒会の主催。生徒会メンバーがビデオ撮影をするなど奔走。写真は右奥より、近藤隆稀生徒(3学年)、佐藤洋翔生徒(3学年)、生徒会長の千島悠翔生徒(3学年)、大山未來翔生徒(3学年)

    「対称区隊」とは、1年から3年までの各学年の同じクラス番号を1つの「区隊」とすること。

     例えば、1年1組と2年1組、3年1組が「1区隊」となり、それぞれの学年の有志によってチームを編成し、全11チームが創作ダンスを競う。

     ダンスバトルでのパフォーマンスは、各チームともジャンルとしては、足のステップと手の動きを音楽に合わせるエアロビクスダンスのようだ。

    ダンスでパワーを爆発させる生徒たち。優勝を目指しキレッキレのユニークなダンスを披露する生徒の姿も。会場内は笑いに包まれた

     1チームは約70~80人ほどと大人数で編成され、各チームが衣装に工夫をこらしている。急造のチームで、しかも練習時間もそれほどとれないため、動きがそろわないところがあるものの、若いパワーがあふれ、何より誰もが楽しそうにパフォーマンスしていたのが好印象だ。

    「バトル」とはいえ、生徒たちはほかのチームにも惜しみなく手拍子をとり、観客たちの間では各チームのコミカルな演技に大きな笑いが起きていた。

    画像: 君津高校ダンス部によるパフォーマンス。大観衆を前にしながらも、R&Bの曲をバックに堂々としたヒップホップダンスを熱演した

    君津高校ダンス部によるパフォーマンス。大観衆を前にしながらも、R&Bの曲をバックに堂々としたヒップホップダンスを熱演した

     全チームのダンスが終わると、それぞれのリーダーがコメントを発表。練習時のエピソードや結果への期待などをおのおのが口にした。

     そして、生徒会による結果発表。1区隊が見事優勝を勝ち取った。

    画像: 優勝した1区隊のメンバー。ダンスは自習時間を使い約2週間、練習した。写真は前列左より、大沼裕輝生徒、藤原昴生生徒、松田宇宙生徒、今村天慧生徒、後列左より根本真之介生徒、リーダーを務めた石田生徒、小野龍平生徒

    優勝した1区隊のメンバー。ダンスは自習時間を使い約2週間、練習した。写真は前列左より、大沼裕輝生徒、藤原昴生生徒、松田宇宙生徒、今村天慧生徒、後列左より根本真之介生徒、リーダーを務めた石田生徒、小野龍平生徒

     1区隊のリーダー・石田煌真生徒(3学年)は、「学年に関係なく、皆が積極的に意見交換し、ダンスを創作したことが優勝につながったと思う」と得意顔。

     また、「75人ものチームを統率するのは難しかったけど、この経験を生かし、将来は、皆の意見をちゃんと聞いてまとめられる指揮官になりたい」と、抱負を語った。

    裏方も含め生徒たちでつくり上げる開校祭。やさしく来場者の誘導を行う江戸完任生徒(3学年)

    Family Voice「息子の成長を感じて感動しました」

    ダンスバトルで優勝した1区隊のリーダーを務めた、石田生徒のご両親と妹さん

     夏休み以来、石田生徒と「1カ月半ぶりに会った」という福井県から来た母は、

    「彼がリーダーとして、後輩や同学年のメンバーをうまくまとめて、盛り上げていたのが分かりました。そこに息子の成長を感じて感動しました」と語る。

    学校の中庭で久しぶりに家族そろって昼食をとる、及川生徒(写真右から2番目)とご家族。開校祭で配られたこの日の弁当は幕の内弁当だった

     ダンスバトルに出場した及川秀雄生徒(3学年)の父は、「息子にとって最後の開校祭なので、家族全員で札幌から来ました。入学以来、彼の表情が柔らかくなり、ここでの生活で、ちょっとは大人になったのかなと感じます」と話した。

    埼玉県から訪れ25キログラムの背のうの装着を体験する岸生徒の母

     来年、富士野営訓練を行う岸虹輝生徒(2学年)と同じ体験をしてみようと、鉄帽をかぶり、25キログラムの背のうを装着した母は、「この重装備で25キロメートル行進などをするのは大変そうだけど、息子ならできる!頑張ってほしい」と語った。

    アプリを披露した「サイバー・コンピュータ部」

     特定クラブとして、プログラミングやホームページの制作、サイバー学習、IT学習など、カリキュラムを組んで活動を行うサイバー・コンピュータ部。

     開校祭の展示では、コンピュータに任意のパスワードを来場者に打ち込んでもらい、それを見破るアプリ「パスワード・クラッカー」を公開し、その仕組みや危険性を説明。

    「将来は、サイバー防護の最前線で、最新の技術に触れる部署につきたい」と一様に語る、左から後藤晃誠生徒(2学年)、斎藤誠和生徒(2学年)、加藤翔生徒(2学年)。

    大所帯の名門クラブ「茶道部」

     茶道部は、神奈川県高等学校文化連盟にも参加する名門のクラブ。そのため、部員の数も40人超という大所帯だ。

     週1回のクラブ活動での稽古には、上下関係をなくして、皆で積極的に取り組んでいるという。

     開校祭では、茶道の所作を実演。つめかけた多くの来場者に、金光美治生徒(左・2学年)、伊佐早礼生徒(2学年)が心を込めてたてた抹茶と和菓子が振る舞われた。

    鉄道愛が感じられる発表「鉄道研究部」

     入り口では、「陸上自衛隊高等工科学校駅」と印刷された入場券を原田拓睦生徒(2学年)から手渡された。

     室内には2畳ほどの面積に敷設されたレールを列車が走り、壁には「あなたの鉄分(鉄道オタク度)は?」と書かれた鉄道クイズが何枚も。

     また、シミュレーションゲーム『電車でGO!!』による運転士の体験コーナーや、これまで発行したマニアックな鉄道情報満載の部誌の展示も。鉄道愛が感じられる発表の場となっていた。

    学校新聞やSNSを手掛ける「広報・写真部」

     学校新聞「わかたけ」に掲載する記事の取材・執筆を行う新聞班と、校内行事などの撮影を行う写真班が共に活動する広報・写真部。

    「定期イベントなどを取材して記事を書いています」と、峰岸友希生徒(右・2学年)。写真班の高須結翔生徒(3学年)は「僕はよくサッカー部の写真を撮っています」という。

    広報・写真部が発行している学校新聞の「わかたけ」

     写真班では、「わかたけ」への写真提供だけでなく、工科学校が配信するX(旧Twitter)で使用される写真撮影も行う。

    目を引く黒板アート「美術部」

     ひときわ人目を引いたのが、3年生の部員全員で富士野営訓練での思い出の風景を描いた、横幅4.5メートルに及ぶ黒板アート『風に吹かれて』。チョークを削って水で溶かして塗る、などの技巧を凝らした作品だ。

     その絵を前にして、佐藤史裕生徒(2学年)が、京都の寺院『瑠璃光院』を題材とした絵を制作中。

     絵画制作の実演?そう問うと、「いや、開校祭までに間に合わなかったので、まだ描いてるんです」と、恥ずかしそうに笑った。

     また、「小さいときから絵を描くのが好きでした」という吹原雨京生徒(3学年)は、展示されていた『ZAQRO PHONK』と題した作品の制作に30時間ほどを費やしたとか。

    eスポーツの体験コンピュータを設置「eスポーツ部」

     コンピュータゲームなどで対戦を行うスポーツ競技「eスポーツ」。昨今はやりのこの競技のクラブの展示は、5台のコンピュータが設置され、シューティングゲームが体験できた。

     部員たちは練習時間の少なさにもめげず、横須賀市の地区大会への挑戦を目指す。

     写真は左奥から川口航世生徒(2学年)、村瀬瑛太生徒(2学年)、岩本樹龍生徒(2学年)。

    5種類の実験を発表「科学部」

     展示室では、5種類の実験を発表。例えば、キャベツから抽出した色素に、酸性とアルカリ性の物質を加えた際の色の変化の違いや、磁石が生む力=磁力を示す実験などを行い、来場者に説明。

    「全部員が全ての実験を行えるように練習しました」と、山下賢人生徒(左・1学年)。山本昊良生徒(1学年)は「実験の解説も全員ができます」と話す。

    (MAMOR2024年2月号)

    <文/魚本拓 撮影/増元幸司 写真提供/防衛省>

    開校祭アルバム

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