70年以上、戦争を経験していないと国を守る意識は育たない、という意見がある。一方、教育なくして国防意識は生まれない、という意見もある。世界には義務教育の中に「国防」に関する授業がある国も多いという。
どちらも正解だろう。いずれにしても教育は大切だ。歴史を学び、今の世界情勢を正しく学べば、
自ずと国防意識は芽生えるのではないだろうか。そこで元1等海佐であり、大阪府立狭山高校の校長をつとめた竹本三保氏に、日本の国防教育について話を伺った。
【竹本三保】
元1等海佐。青森地方協力本部長、中央システム通信隊司令などを歴任し、2011年に退官。12年4月に大阪府立狭山高校の校長となり、現在は竹本教育研究所所長(写真提供:本人)
国防教育の機会がほとんどない日本の教育現場
日本の学校の教育現場ではどのように国防を教えているのか? 海上自衛隊を退官後、公募で大阪の府立高校の校長を5年間務めた竹本三保氏にうかがった。
竹本氏が大阪府立狭山高校の学校長になったのは2012年のこと。学校での国防教育に関して聞くと「全くありませんでしたね。地域差はあるかもしれませんが、平和教育(紛争解決の手段として、平和な状態を維持するためにどうすればよいかを教える)は行われていても、国防に関しては触れられていませんでした」。
教員の中には自衛隊というだけでネガティブな反応を示す人もいたが、阪神・淡路大震災や東日本大震災における自衛隊の活動を知った生徒の中には人のために何かをやりたいという子どもが多くいたという。
そうした中で竹本氏は、本物を見せることで生徒の成長を促す「機会教育」の一環として、学校近くの陸上自衛隊の駐屯地から現役自衛官に自然災害に対する備えや実際に災害派遣での経験などを語ってもらう「防災講話」や、海上自衛隊が支援をしている南極地域観測で持ち帰った南極の氷を展示するなど、生徒たちに自衛隊員の姿を見てもらうとともに、本来任務である国防に関して考える機会を作ったという。
「災害派遣に赴く自衛隊に国民は大きな信頼を寄せています。教育の現場でも災害に対する備えの大切さを教える『防災教育』の機会が増えました。備える大切さという点では国防も同じではないでしょうか。万が一の時に備えて、国を守ることについて伝える教育も重要だと思っています」と竹本氏。
国により特徴ある国防教育。教育を義務化した国も
日本ではあまり行われてこなかった国防教育だが、諸外国はどうなのだろうか。世界各国で行われている国防の教育や、士官学校にくわしい太田文雄氏に話を聞いてみた。
「例えば1979年まで戦争が行われていたベトナムは、また戦争が起こるのではという危機意識が強く、国防教育の水準も高いです。憲法で『祖国への忠誠と祖国保護及び軍事義務』が市民の義務とされており、教育の1科目として『国防』があり、中学校以上の授業で『国防教育』という科目が必修。また中学、高校では学期中に数日、大学だと約1カ月、国防教育センターで軍事教練を受けます」
多くの国では、憲法上に国防や愛国の義務などが明記されており、それに基づいて国民への国防教育が行われていると太田氏は話す。
「祖国防衛や侵略への抵抗が憲法に明記された中国では、小学校以上で国防教育、高校で軍事訓練を義務化した国防教育法が2001年に制定されました。フランスでは16歳になった全国民に団結と義務感の向上のため国防や治安維持分野などを含めた公共奉仕の義務が課せられています。アメリカも、国家のために理系分野と外国語教育を強化する『国家防衛教育法』が存在し、国防教育に力が入れられています」
国防に関する教育のほか、国を守ることを国民の義務としている国もある。スイスでは全家庭に『民間防衛』という小冊子を配布し、核シェルターの整備を兵役に就いていない国民で編成された市民防衛団が行うなど、軍事的な任務以外を国民が担当している。
またスウェーデンも民間防衛は義務化され、防火、医療、清掃など各分野で特別訓練が実施され、国民の一人ひとりが非常時に対応する任務が決まっており、どの任務に就いているかは他者には漏らしてはいけないことになっている。ほかにも多くの国で戦死者を追悼する軍隊記念日や祖国防衛の日、戦勝記念日など、国防にまつわる記念日、祝日も設けられている。
<文/古里学>
(MAMOR2022年12月号)