•  MAMORが昨年実施したアンケートの結果を見ると、日本の若者の国防意識は決して高くないようです。しかし、わが国にも、国防のために役立ちたいと10代から自衛官になるための学校に自ら入学する若者もいるのです。

    ※「日本が侵略されたら戦う?」戦わないは7割、若者の意識に変化はあったのか(2022-11-02配信)

     同年代の者が青春を謳歌する“遊び盛り”の若者たちが、なぜあえて苦難の道=厳しい訓練、団体生活、規則に縛られた生活を選んだのか。元海上自衛官の作家、時武里帆さんが学生の秘めた思いに迫ります。

    医師・看護師・保健師を目指し、自衛官の資質も養う機関

    画像: 防衛医科大学校のキャンパスは約29万平方メートル。敷地には一般の人も診療を受けられる防衛医科大学校病院が併設されている

    防衛医科大学校のキャンパスは約29万平方メートル。敷地には一般の人も診療を受けられる防衛医科大学校病院が併設されている

     医師である幹部自衛官=医官を育成する専門機関として1973年に開設された防衛医科大学校。現在は医師に加え看護師・保健師である幹部自衛官=看護官、技官を目指すコースも設立され、各地にある自衛隊病院や部隊で勤務する人材を輩出している。

    医師・看護師・保健師の自衛官を目指す

    画像: 学年が上がると学生は研究室に所属し、専門性を高める。検査など基本的な診療能力を磨く 写真:防衛省

    学年が上がると学生は研究室に所属し、専門性を高める。検査など基本的な診療能力を磨く 写真:防衛省

     防衛省の教育機関である防衛医科大学校には医学科、看護学科があり、看護学科は自衛官コースと技官コースに分かれる。学生は埼玉県所沢市にある校内で集団生活を送るが、技官コースは外から通学もできる。

    画像: 実習では自衛官の医師・看護師・保健師に必要な救命技術の方法なども学ぶ(写真:防衛省)

    実習では自衛官の医師・看護師・保健師に必要な救命技術の方法なども学ぶ(写真:防衛省)

    画像: 医学生舎は原則2人1部屋で使用。机や本棚など勉学に必要なものは完備されている

    医学生舎は原則2人1部屋で使用。机や本棚など勉学に必要なものは完備されている

     医学科は6年制で、看護学科は4年制。それぞれ併設された防衛医科大学校病院での実習も行われる。専門科目と並行して自衛官としての訓練教育を行い、災害医療や戦傷病など、医官・看護官として必要な知識を習得する「防衛医学」、「防衛看護学」が必修科目だ。

     待遇は特別職国家公務員。授業料や衣食住の生活費が無料のほか毎月の手当(11万7000円)と年2回の期末手当が支給される。

    画像: 部活動は授業後、約3時間の自由時間を使って行われる。体を動かせる貴重な時間だ

    部活動は授業後、約3時間の自由時間を使って行われる。体を動かせる貴重な時間だ

    画像: 部活動は22の体育系と18の文化系に分かれる。体力向上のため1年生は体育系の部に入部すると決まっている

    部活動は22の体育系と18の文化系に分かれる。体力向上のため1年生は体育系の部に入部すると決まっている

     卒業後、国家試験に合格すると医学科は約6週間の幹部候補生学校、2年間の初任実務研修を経て約2年間、部隊で勤務。さらに2年間の専門研修後、部隊などで勤務する。看護学科の自衛官コースは幹部候補生学校を経て部隊勤務、技官コースは防衛医科大学校病院で勤務する。

    防衛医科大学校生101人に聞きました

    画像: 防衛医科大学校生101人に聞きました

     一般大学の医学部に進学するには多くの学費がかかる。学費や生活費がかからない防医大のシステムに魅力を感じ入学した学生が多いが、入学後に学ぶ「防衛医学」や「防衛看護学」の授業を通し、国防意識が変化した学生も多い。

    防衛医科大学校で変わった“国を守る”気持ち 強くて優しい医師になるために

    画像: 6年間同じキャンパスで医師を目指し努力する学生たち。時に励まし合いながら医師に必要な知識と自衛官の資質を学び、共に成長していく

    6年間同じキャンパスで医師を目指し努力する学生たち。時に励まし合いながら医師に必要な知識と自衛官の資質を学び、共に成長していく

     医師・看護師・保健師になるという強い目標を持ち勉学に励んでいる防衛医科大学校の学生。いきなりの集団生活に戸惑いを感じながらも、仲間と切磋琢磨しながら、日々、成長している。防医大での生活や将来への思いなどを学生に聞いてみた。

    「授業を通して徐々に芽生えた、医師である自衛官としての決意」

    【医学科 4学年 山本葉菜学生(やまもと はな)】
    2000年生まれ。19年入学の医学科46期生。埼玉県出身。小学生のころからの夢である医師を目指し防医大に入学。災害医療に関心を持っている

    学費の負担がない防医大は魅力的

     山本葉菜学生が医師になりたいと思ったきっかけはテレビドラマ。小学6年生のときに見た女医を目指すヒロインに心引かれ、自らも医師を志した。「私大の医学部は学費が高く、ほかに学校はないかと探すうち、母が防医大を見つけてくれました」。

     山本学生は地方協力本部の説明会に参加し、実際に先輩たちから話を聞き、学校生活や訓練の写真などを見せてもらううち「楽しそう」と受験に積極的になった。

     しかし入校当初の集団生活は大変だった。制服のアイロン掛けやベッドメイクにはかなりのレベルが求められ、時間にも厳しい。生活指導のストレスが原因なのか山本学生は顔に帯状疱疹ができるアクシデントに見舞われた。普通の1人暮らしの大学生だったらパニックになるところだが、ここは防衛医大。すぐに適切な処置が受けられ、良かったと思った。

     山本学生が1番印象に残っているのは、1年生時に行われた防大での研修。1週間防大で生活したが、携帯電話の使用は制限され、慣れない生活環境で指導されることも多く、研修期間中は1日中、気を引き締めていた。

     そのとき山本学生の世話役だった防大の女子学生は、今では一緒に遊ぶ仲だという。同じ1学年で先輩に怒られ小さくなっていた世話役の彼女も今では4学年。山本学生も4学年で、これから病院実習などが始まる。専門の希望を聞くと外科との答え。しかし、今は循環器や消化器内科などに興味が出てきて迷っているそうだ。

    強い医官を目指し災害医療に興味

     部活道では躰道部に所属している。躰道とは空手から派生した武道で、体軸の変化により3次元的な攻防を展開。動きには後方宙返りなど器械体操的な要素も含まれる。競技人口が少ないため、大学から始めても皆同じラインに立てるのが魅力で入部した。運動は苦手だった山本学生だが、今夏の埼玉県の大会で実戦(組手)の部で優勝。法形(形)の部では3位という好成績を収めた。

     陸・海・空3自衛隊の中では陸自を希望し、将来は気軽に相談しやすい医師を目指したいという山本学生。医官となって活躍中の先輩たちから話を聞くうち、災害医療にも関心を持った。自衛隊の医官として国防に携わる医師像に近づくには、優しさや誠実さだけでなく、時には厳しさや強さも必要と考えるようになった。今は患者と向き合い、笑顔で接することを心がけ、気軽に相談しやすい医師を目指したいと話す。山本学生の人柄と笑顔ならきっとそれが可能だろう。

    【時武里帆】
    1971年神奈川県生まれ。94年、海上自衛隊入隊。練習艦『みねぐも』(現在は除籍)に
    勤務後、退職。2014年小説家デビュー。最新作は『試練 護衛艦あおぎり艦長 早乙女碧』(新潮社刊)

    <文/時武里帆(学生インタビュー)、古里学 写真/伊藤悠平>

    (MAMOR2022年12月号)

    若者はなぜ国を守るための学校に入ったのか?

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