高性能の戦闘機も、前線に弾薬や燃料を運ぶ輸送機も、滑走路がなければ任務を果たすことができない。敵に滑走路が狙われる理由はそこにある。よって攻撃されて破損した滑走路は、すぐさま復旧せねばならないのだ。その任務を担う航空施設隊が、実際の爆薬を使って模擬滑走路を爆破して復旧を行うという、大がかりな訓練を行っている。中部航空施設隊がメインとなり、最新鋭の機器を導入して行った滑走路被害復旧訓練をリポートしよう。
「被害復旧訓練」に密着。訓練内容を段階別に解説する
実爆をともなう滑走路被害復旧訓練は、各航空方面隊の航空施設隊が年に1回行う大規模な復旧訓練だ。取材時は、模擬滑走路の爆破、被害状況の調査、各種復旧作業が3日がかりで行われた。甚大な被害を被った滑走路の復旧の様子を3回に分けてお届けする。今回は後編だ。前編・中編では、爆破、被害状況調査、がれきの取り除き、埋め戻しまでをリポートしてきたが、いよいよラストの工程にとりかかる。
地盤の強度を計測
航空機の着陸の衝撃に耐えられる強度かチェック
弾痕に土砂を流し込み押し固めたら、次はコンクリートを流し込む作業となるのだが、地盤の強度が不十分だと、航空機の離着陸に支障が出る可能性がある。そのためコンクリートを流し込む前に、簡易支持力測定器(キャスポル)という機器を使って、埋め戻した弾痕の状態を調べる。
キャスポルは、三脚の間についた重りを地面に落下させて衝撃を与えることで、地盤の強度を計測することができる機器だ。計測の結果、滑走路として必要な地盤強度が確保できれば、コンクリートの流し込みの工程へと作業は進行する。
コンクリートの流し込み
復旧訓練の最終段階は時間との戦いが待ち受ける
いよいよ復旧作業は最終段階に。ここで被弾した滑走路の早期復旧の切り札となる早強コンクリートミキサー車の出番である。通常のコンクリートは、航空機の離着陸の衝撃に耐えられる強度まで固まるには数週間程度かかるが、早強コンクリートはわずか数十分で凝固する特殊なコンクリートだ。
早強コンクリートは、現場の気温や湿度などによって、固まるまでの時間が変わってくる。早強コンクリートミキサー車は、コンピュータ機器を搭載しているため、気温や湿度などの状況を入力することで、材料となる早強セメントや水、砂利などの適切な配合割合が分かるだけでなく、ミキサーのスピードを最適な状態で保つことができる、まさに「走るコンクリート工場」といえる装備品だ。
2020年に導入されたことで、材料も装備品も格段に進化しているといえるだろう。早強コンクリートミキサー車の操縦手である中部航空施設隊第3作業隊の間山修3等空曹は、迅速な復旧作業に大切なことは、9割が準備だと断言する。
「早強コンクリートは、便利な反面、油断するとすぐ固まってしまうので、時間との勝負である上に絶対に失敗できない作業です。そのため事前に天候などの当日の状況を予測して、作業の段取りや進行を確認しておくことが大切になります」
かき混ぜられたコンクリートは、ショベルローダを使って弾痕まで運搬される。流し込まれた生コンを隊員たちがトンボやコテなどを使ってきれいに、手際よく延ばしていく。隊員たちのテキパキと、そして繊細なその手つきは職人技といっていい。
取材当時、多数の小弾痕が全面に広がった模擬滑走を復旧する各種作業は、想定より短時間で終了した。最新鋭の重機がこの素早い復旧を後押ししたのはもちろんだが、それ以上に隊員たちのチームワークの良さとプロとしての確かな技量なくして、この復旧訓練の成功はあり得なかっただろう。
【早強コンクリートミキサー車】
<SPEC>全長:約10.5m 全幅:約2.5m 全高:約3.2m 車両重量:約14.6t 最高速度:約90km/h
<文/古里学 写真/荒井健>
(MAMOR2021年12月号)