•  高性能の戦闘機も、前線に弾薬や燃料を運ぶ輸送機も、滑走路がなければ任務を果たすことができない。敵に滑走路が狙われる理由はそこにある。よって攻撃されて破損した滑走路は、すぐさま復旧せねばならないのだ。その任務を担う航空施設隊が、実際の爆薬を使って模擬滑走路を爆破して復旧を行うという、大がかりな訓練を行っている。中部航空施設隊がメインとなり、最新鋭の機器を導入して行った滑走路被害復旧訓練をリポートしよう。

    「被害復旧訓練」に密着。訓練内容を段階別に解説する

     実爆をともなう滑走路被害復旧訓練は、各航空方面隊の航空施設隊が年に1回行う大規模な復旧訓練だ。取材時は、模擬滑走路の爆破、被害状況の調査、各種復旧作業が3日がかりで行われた。甚大な被害を被った滑走路の復旧の様子を3回に分けてお届けする。今回は中編だ。

    ⇒前編はこちら

    弾痕の周囲を切断

    最新鋭の優れモノ登場。滑走路をまたたく間に切断

    力強く正確にコンクリートを切断していくホイルソウ。1つの小弾痕の周囲を四角くカットするのに適した装備品だ

     復旧作業はまず、弾痕の周囲に散らばっているコンクリート片や土砂を取り除くことから始まる。ブルドーザーが模擬滑走路の表面から作業や重機の通行のじゃまになる破片を滑走路の外に押し出すと、次に弾痕の周囲のコンクリート舗装を四角にカットする作業へと進む。これにより、いびつだった弾痕の形が整えられ、復旧作業が行いやすくなる。

     2020年までのカット作業は、道路工事の現場などでも見かける手押し式のコンクリートカッターを使用していたが、今回の訓練では最新鋭の重機・ホイルソウが初めて導入された。ホイルソウは、機器の前面に取り付けられた直径約1メートルの巨大な円形カッターを高速で回転させてコンクリートを切り取っていく重機だ。これにより従来の装備よりもはるかに作業時間の短縮と効率化が可能になった。

    画像: 周囲をカットされた弾痕。爆発により飛び出た鉄筋やはがれたコンクリートをまとめて切断・除去していく

    周囲をカットされた弾痕。爆発により飛び出た鉄筋やはがれたコンクリートをまとめて切断・除去していく

     実際の作業は、2台のホイルソウが弾痕を挟んで平行に並び、同時に滑走路表面をカットしていく。カッターが地面に当たった瞬間、高音とともにカッターを覆うバケットの隙間から猛烈な白煙が舞い上がる。2台のホイルソウが弾痕の左右を同時に進んでいくと、今度は向きを90度変えて進み、あっという間に四角い溝を滑走路に刻んでいく。

    ブルドーザーや油圧ショベルも扱う村越3曹は「ホイルソウは動きが特殊なので、安全にいちばん気を使っています」と語る

     ホイルソウの操縦を担当した中部航空施設隊第1作業隊の村越仁美3等空曹によると、今回のホイルソウ担当者は計4人で、2人ずつ交代しながら作業に当たったとのこと。

    「最初にカッターの刃を地面の正しい位置に当てないと、きれいでムダのないカットができなくなるので、作業にとりかかるときがいちばん気を使います。また機器ごとにクセがあるので、それも見つけて動かしていかなければなりません」

     パワーばかりに目が行く重機だが、その操縦は意外に繊細で、センスが必要だと村越3曹は強調した。

    画像: 最新鋭の優れモノ登場。滑走路をまたたく間に切断

    【スキッドステアローダ(ホイルソウ)】
    <SPEC>全長:約2.8m 全幅:約1.9m 全高:約2.1m 全備重量:約3.7t 最高速度:約11.4km/h

    がれきを細かく粉砕

    抜群の機動性が威力を発揮。油圧ショベルの進化系

    画像: アーム先端のブレーカーでコンクリート盤を粉砕。大きながれきがあっという間に細かい破片へと変化していく

    アーム先端のブレーカーでコンクリート盤を粉砕。大きながれきがあっという間に細かい破片へと変化していく

     小弾痕の周囲を四角くカットしたままではコンクリートの塊が大きいうえに鉄筋なども絡まっているので取り除くことは難しい。そこでコンクリート片を細かく破砕して除去しやすいようにする。その作業を担うのが油圧ショベル。巨大なアームの先端を、コンクリート粉砕用のブレーカーや、破片や土砂をすくうバケットなどのアタッチメントに付け替えることによって、さまざまな作業を行える重機である。

     今回の訓練では、現有の装軌式の油圧ショベルに加え、新しくホイール式と呼ばれる装輪の重機も加わった。新しい重機だけに、航空施設隊でもこのホイール式を所有している部隊はまだまだ少なく、今回は民間からのリースにより同型機を確保した。

    「事前に訓練していましたが、大小さまざまながれきを短い時間でうまく破砕するのは大変でした」と語る松本3曹

     ホイール式油圧ショベルを操縦した中部航空施設隊第1作業隊の松本翔吾3等空曹は、「何よりも機動力があるのがホイール式の優れた点。公道も走れるので必要な場所に早く行けるし、現場でも小回りがきくので、作業時間の短縮につながります。騒音が少ないのもいいですね」とその利点を挙げる。

    画像: がれき粉砕後の弾痕。大きさをそろえることで、その後の作業が格段にはかどる。うまく砕くには熟練の技量が必要だ

    がれき粉砕後の弾痕。大きさをそろえることで、その後の作業が格段にはかどる。うまく砕くには熟練の技量が必要だ

     現場では、ホイルソウのカットが終了すると、すぐさまブレーカーを装着したホイール式油圧ショベルが登場。浮き上がっている大きなコンクリートをブレーカーで次々と粉砕していく。作業中は1カ所にとどまるのではなく、装輪のメリットを生かしてあちこちに移動し、もっとも破砕しやすい場所からブレーカーを当てていく。松本3曹によると、ブレーカーの先端を対象物の表面に真っすぐ当てるのが早く細かく破砕するコツで、そのための訓練はかなり必要とのこと。

    「滑走路の復旧は、限られた時間内にいくつもの異なる作業を順番に行うので、1つの作業が遅れるとその後全ての工程が影響を受けてしまいます。いかにスピーディーに効率良く作業を進めることができるか、部隊での訓練から常に念頭においています」

    画像: 抜群の機動性が威力を発揮。油圧ショベルの進化系

    【油圧ショベル(ホイール式)】
    <SPEC>全長:約7.5m 全幅:約2.5m 全高:約3.4m 車両重量:約13.9t 最高速度:37km/h

    がれきを取り除いた弾痕の埋め戻し

    重機が連携して穴を埋める。最後の整地は人の手で

    画像: コンクリート片の粉砕だけでなく、がれきの除去や整地にも威力を発揮する油圧ショベル。アーム先端のバケットを器用に使い砂利をならす

    コンクリート片の粉砕だけでなく、がれきの除去や整地にも威力を発揮する油圧ショベル。アーム先端のバケットを器用に使い砂利をならす

     ブレーカーで粉砕したコンクリート片や滑走路上に転がっているものはショベルローダが場外へ押し出すが、弾痕の穴の中に残っている破片や土砂、水はバケットを装着した油圧ショベルがかき出していく。細かな作業が得意な油圧ショベルと多くの土砂を運べるショベルローダの連携により、すっかりがれきが取り除かれてぽっかりと穴が開いた弾痕。そこに今度はショベルローダが埋め戻し用の砂利を運んで、穴の中に流し込んでいく。

    豪快にがれきを押し出すショベルローダ。工事現場でおなじみの重機だが、その有用性は滑走路復旧の現場でも同じだ

     穴いっぱいに盛り上がった砂利を、油圧ショベルがバケットを器用に使って平らにならしていく。この間にも、多数の弾痕それぞれで違う作業が行われているので、模擬滑走路上をホイルソウや油圧ショベル、ショベルローダなどの重機のほか隊員らが所狭しと動き回り(P28、29写真)、その間を縫って砂利を積載したダンプカーが走っていく。

     どれも巨大な重機だけに、接触すれば大きな事故になるが、お互いの動きをじゃましないように、かつ素早く作業する隊員たちの技量はまさに神業の領域だ。

     弾痕を砂利で埋め戻して平らにならした後は、油圧ショベルがアームを大きく上下させて砂利を突いて固める。航空機が着陸する際の衝撃にも耐えるよう、ただ埋めるだけではないのだ。

     最後に隊員たちが、ランマー(上下に激しく振動する地固め用の器材)や整地用のトンボなどを使って、表面をきれいに整えていった。さすがに細かくていねいな作業は、人力に勝るものはないようだ。

    画像1: 重機が連携して穴を埋める。最後の整地は人の手で

    【ショベルローダ】
    <SPEC>全長:約6.7m 全幅:約2.3m 全高:約3.3m 車両重量:約8.2t 最高速度:約34km/h

    画像2: 重機が連携して穴を埋める。最後の整地は人の手で

    【油圧ショベル】
    <SPEC>全長:約9.5m 全幅:約2.8m 全高:約2.9m 車両重量:19.5t 最高速度:約5.5km/h

    被弾した滑走路を速やかに復旧せよ!

    <文/古里学 写真/荒井健>

    (MAMOR2021年12月号)

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