災害や有事では多くの自衛官が必要となるため、自衛隊は予備自衛官制度を採用している。普段は社会人や学生として生活を送っている予備自衛官・即応予備自衛官が、いざというときに招集され、自衛官として任務に就く制度だ。
予備自衛官制度3種類の手当、訓練日数等を解説
即応予備自衛官
役割:第一線部隊の一員として、常備自衛官(注)と共に任務に就く
訓練日数:30日間/年
員数:7981人
手当(注)など:
即応予備自衛官手当 1万6000円/月
訓練招集手当 1万400 ~1万4200円/日
勤続報奨金(注) 12万円/1任期(3年)
雇用企業への給付金:
即応予備自衛官雇用企業給付金(注) 4万2500円/月
即応予備自衛官育成協力企業給付金(注) 56万円/人
雇用企業協力確保給付金(注) 3万4000円/日
採用まで:元自衛官、元自衛官出身の予備自衛官の志願者から選考で採用また、予備自衛官補から公募予備自衛官になった志願者から選考し、教育訓練を経て、さらに選考で採用
注:常備自衛官=常駐の自衛官のことを即応予備自衛官と区別して常備自衛官と呼ぶ。
注:手当=労働の報酬として与えるお金のことで、予備自衛官制度では、予備自衛官や即応予備自衛官に任官したことに対して、また各種訓練招集に応じたことに対して、各種手当が支払われる。
注:勤続報奨金=即応予備自衛官の1任期である3年間を良好な成績で勤務すると支払われるお金。
注:即応予備自衛官雇用企業給付金=即応予備自衛官が、年間30日の訓練および災害などの招集にいつでも出頭できる環境を整えてもらうために、雇用企業に支給される給付金。
注:即応予備自衛官育成協力企業給付金=予備自衛官補(一般)から任用された予備自衛官(一般公募予備自衛官)が、即応予備自衛官への任用に必要な知識および技能を修得するための教育訓練に安心して参加するためには、本人の意思および努力に加え、雇用企業の協力を得ることが必要不可欠であることから、雇用企業の積極的な協力を得るために、任用者1人につき支給される給付金。
注:雇用企業協力確保給付金=予備自衛官または即応予備自衛官が、防衛出動、災害派遣などに招集されたことで、平素の勤務先を離れざるを得なくなった場合に、その日数分の職務に対する理解と協力の確保に役立てるため、支給される給付金。
予備自衛官
役割:第一線部隊の出動時に、駐屯地の警備や後方支援などの任務に就く
訓練日数:5〜20日間/年(自衛隊法には年に20日以内と定められているが、実際は年に最低5日訓練に参加すればよい)
員数:4万7900人
手当など:
予備自衛官手当 4000円/月
訓練招集手当 8100円/日
雇用企業への給付金:雇用企業協力確保給付金 3万4000円/日
採用まで:元自衛官の志願者は選考で、予備自衛官補の志願者は教育訓練を経て採用
予備自衛官補
役割:教育訓練のみを行い、教育訓練修了後に予備自衛官として任用される
訓練日数:
一般採用50日間/3年
技能採用10日間/2年
員数:4621人
手当など:教育訓練招集手当 7900円/日
採用まで:主として自衛官未経験の志願者が、志願試験(筆記試験など)に合格して採用
「予備自衛官」「予備自衛官補」とは
予備自衛官制度には3つの種類がある。1つは「予備自衛官」で、自衛隊を退職した元自衛官が、または自衛隊未経験者の場合は所定の教育訓練を受けた後に任官する。
この、自衛隊未経験者が予備自衛官になるための制度が2つめの「予備自衛官補」だ。予備自衛官補には、50日間の訓練が定められた「一般公募」と、医療、法務、通信、語学などの有資格者が10日間の教育訓練を受ける「技能公募」がある。
予備自衛官補を経て任官した人は、元自衛官の予備自衛官と区別して、それぞれ「一般公募予備自衛官」、「技能公募予備自衛官」と呼ばれている。
技能公募に該当する資格は制度ができた当初から段階的に増えており、語学技能の対象となる語学も以前は英語、ロシア語、中国語、韓国語のみだったが、現在はフランス語、スペイン語など4つの言語が追加された。
「即応予備自衛官」とは
そして3つめが「即応予備自衛官」。予備自衛官は陸・海・空3自衛隊に、予備自衛官補は陸・海2自衛隊にあるが、即応予備自衛官は陸上自衛隊のみの制度だ。
予備自衛官は主に後方支援任務を行うのに対し、即応予備自衛官は第一線部隊の一員として任務に就くため、以前は自衛隊を退職した元自衛官しか志願できなかった。しかし、人員の安定的な確保のために2019年に制度が新設され、一般公募予備自衛官も即応予備自衛官に任官できるようになった。
自衛隊勤務経験がなくても応募可能
第一線部隊の一員として任務に就くには、担当する装備品や任務に合わせて「装輪操縦」や「火器整備」といった「特技」と呼ばれる専門資格が必要なのだが、自衛隊での勤務経験がない一般公募予備自衛官は特技を取得していない。
常備陸上自衛官ー例えば「自衛官候補生」や「一般曹候補生」として入隊した隊員の場合は、入隊後の約3カ月間で自衛官の基礎となる教育訓練(前期教育)を受け、その後の約3カ月間で各職種の専門教育(後期教育)を受けながら特技を取得する。
一般公募予備自衛官は、予備自衛官補の50日間で自衛官の前期教育に該当する教育訓練を受けているのだが、後期教育に該当する訓練は経験していない。そこで一般公募予備自衛官は、後期教育に該当する訓練を約40日間受け、特技を取得したのちに即応予備自衛官へ任官する。
この訓練は「基本特技教育訓練」と呼ばれ、「基本軽火器(注)」、「基本迫撃砲(注)」のどちらかの特技を取得する。
これまでの災害派遣でも一般公募・技能公募予備自衛官が活動し、成果を上げている。一般公募の即応予備自衛官も同様に、これからの日本を支える力となっていくだろう。
注:基本軽火器、基本迫撃砲=特技の「基本軽火器」とは、小銃や軽機関銃など比較的重量の軽い火器の、また「基本迫撃砲」とは、普通科部隊が装備する81ミリ迫撃砲L16などの基本的な取り扱い技能のこと。
一般人が即応予備自衛官になるまで
STEP1:予備自衛官補に志願
志願資格(一般):18歳以上34歳未満
予備自衛官補の「一般」に志願。入隊試験に合格・採用されたのち、50日間の教育訓練を受ける。
STEP2:一般公募予備自衛官に任官
年に5日間の訓練を受けながら、第一線部隊の出動時には後方支援の任務にあたることも。
STEP3:一般公募即応予備自衛官に志願
志願資格:1士〜2曹は50歳未満 1曹〜2尉は51歳未満
STEP4:基本特技付与のための教育訓練に参加
合格・採用されたのち、コア普通科連隊での教育訓練を受ける。
教育訓練期間:2年から最大で3年以内の間に約40日間(ただし1年間に参加できる訓練日数は最大20日間)※やむを得ない場合は1年を超えない範囲内で延長可
STEP5:即応予備自衛官として必要な基本特技を取得
基本軽火器特技もしくは基本迫撃砲特技を取得する。
一般公募即応予備自衛官として任用
任用後は、コア普通科連隊の即応予備自衛官として勤務。防衛招集、治安招集、国民保護等招集、災害等招集、訓練招集において活動する。
自衛官が一般公募即応予備自衛官に期待すること
国防のために活動できる人材を求む
【陸上幕僚監部 人事教育部 人事教育計画課 予備自衛官室 征矢恵介2等陸佐】
即応予備自衛官手当などの各種手当や雇用企業に対する給付金などの処遇は、一般公募予備自衛官から任官した即応予備自衛官も、これまで採用していた元自衛官の即応予備自衛官と全く変わりません。
即応予備自衛官に任官すれば、どちらも同じ任務を行い、また常備自衛官と同じ活躍を期待しています。国防に対する熱い思いがあり、常備自衛官と一丸となって活動できる人材をお待ちしています。
即応予備自衛官は災害対応においても必要不可欠
【東京地方協力本部 予備自衛官課 即応予備自衛官班長 高木孝征1等陸尉】
東京地本ではまだ一般公募の即応予備自衛官は誕生していませんが、2020年秋に東北方面隊に4人、西部方面隊に1人が誕生し、メディアでも紹介され反響がありました。
今後発生が予想される首都直下地震、南海トラフ地震といった大災害に対応するためにも、また国防の観点からも、彼らの存在は必要不可欠です。雇用企業の皆さまにも安心して従業員を送り出してもらえるよう、説明を行っていきます。
(MAMOR2021年1月号)
<文/岡田真理 撮影/江西伸之>