自衛隊では、階級ごとにどの役職に就けるか、大まかなキャリアが決まっている。階級が上がるにつれ、重要な役職に就くチャンスが広がり、自分の目標やそこに到達するまでの期間が明確になるのも、階級制度の大きなメリットだ。
各役職とその役職に就く隊員の階級を紹介しよう。
統合幕僚長、陸・海・空各幕僚長【将】:将の中でも最上位に位置する4つ星の階級
※【】部分が階級名

統合・陸上・海上・航空各幕僚監部のトップである幕僚長は、軍事専門的見地から防衛大臣を補佐する
階級の最上位の「将」のうち階級章に4つの桜がつくトップ・オブ・トップは、約24万人の巨大組織、自衛隊の中に陸・海・空各幕僚長と統合幕僚長のたった4人しかいない。
各幕僚長より上位には内閣総理大臣や防衛大臣などがおり、その防衛大臣を補佐して、部隊に対して防衛大臣の命令を執行するのが各幕僚長の主な役割。
各幕僚長は、外国軍では大将に相当し、警察では警察庁長官にあたる立場で、現場の最高責任者となる役職。この地位に就くには、幹部候補生学校を出てから最短でも30年ほどかかる。
陸上総隊司令官、自衛艦隊司令官、航空総隊司令官、航空支援集団司令官【将】:陸・海・空各自衛隊を一元的に指揮・統括する組織の長

自衛艦隊司令官の着任時。主戦力である自衛艦隊を指揮・統括するのは海将だ
陸上自衛隊の5つの方面隊を統括して迅速かつ柔軟に一元的な部隊運用を行う陸上総隊の指揮官は陸上総隊司令官。
護衛艦や航空機、潜水艦などの部隊を編成し、それらを運用する自衛艦隊の指揮官は、自衛艦隊司令官。航空自衛隊の戦闘機部隊などの防空任務を行う部隊を一元的に指揮・統括する航空総隊の指揮官は、航空総隊司令官。
在外邦人輸送などを指揮する航空支援集団の指揮官は、航空支援集団司令官。これらの司令官は、それぞれ陸将、海将、空将が任に就く。その任務の重要性から、実際に大きな部隊を指揮・管轄した実績が評価されなければ配置されないポジションだ。
総監【将】:総監は担当エリアを防衛する長として、部隊を統括する役職

陸上自衛隊の方面総監は、日本全域の一角を担う、重要なポジション。着任時には儀じょうで出迎えを受ける
陸上自衛隊は全国を5つのエリアに分けて、方面隊という最大規模の部隊を配置している。その方面隊を統括する方面総監には陸将があたる。同じく海上自衛隊には全国に5つの地方隊、航空自衛隊には4つの航空方面隊があり、それぞれ総監には海将、司令官には空将があたる。
なお、方面総監、地方総監などの各総監は、中央官庁でいうところの主要な局の局長と同等のクラスになる。2023年には大湊地方隊の総監に初めて女性幹部が起用され、任官と同日付で海将補から海将へ昇任した。
師団長、旅団長(陸上自衛隊)【将、将補】:各職種がそろった師団・旅団を率いるのは将・将補

部隊を訪問する師団長。将クラスの階級になると、専用車両が用意され副官などの補佐役が付く
陸上自衛隊の5つの方面隊は師団・旅団などで構成される。その師団には地上戦闘の骨幹として、小銃などを扱う普通科連隊や部隊の整備・補給を行う後方支援連隊、陣地構築や橋・道路の建設・修復を行う施設大隊などの職種(担当する任務の種類)の部隊が集まっている。
たとえば関東・甲信越・東海エリアを管轄する東部方面隊の第1師団は東京、神奈川、千葉、埼玉、茨城、山梨、静岡の1都6県のエリアを担当している。こうした巨大部隊であるため、そのトップである師団長は陸将、旅団長には陸将補がついている。
飛行隊長(航空自衛隊)【2佐】:パイロットを束ねる飛行隊長は2佐クラスが務める

飛行隊長は部下のモチベーション維持や勤務時間の管理なども行う必要がある 写真/近藤誠司
航空自衛隊のF-2、F-15などの戦闘機を運用する全国に12個ある飛行隊の長が飛行隊長だ。
空自のパイロットは、2佐までは実際に自らが航空機を操縦し、1佐以上は空自の中枢でデスクワークに従事することが多くなる。
そのため、飛行隊の隊長は、基本的に2佐が務める。飛行隊長は、隊長として部下の指導なども行う側面もある。管理職としての立場でありながら、自らも現場を飛び回るプレーイングマネジャー的な存在となっているのだ。
群司令(海上自衛隊)【将補、1佐】:任務や機能ごとに部隊を束ねる群司令は将補と1佐

慰霊行事を執り行う群司令。行事や式典では、隊員に訓示を読み上げるなど、群を代表する存在だ
海上自衛隊には、護衛艦隊(海上防衛を担う護衛艦部隊)、航空集団(哨戒機などの航空機を運用する部隊)、潜水艦隊(潜水艦の運用とその教育を行う)、掃海隊群(機雷の除去や敷設などの機雷戦や水陸両用作戦を担当)などの部隊があり、護衛艦隊、航空集団、潜水艦隊の隷下には、さらに第1護衛隊群などの「群」に分かれ、各地の港・基地に所在している。
護衛隊群を統括する群司令には将補があたっているほか、潜水隊群やシステム通信隊群などでは1佐が群司令を務める。
艦長、艇長(海上自衛隊)【2、3佐】:艦艇の責任を負う、最高の権限を持った役職

艦橋の右側には艦長専用の席があり、赤と青色のカバーがかけられている 写真/近藤誠司
海上自衛隊の艦長、艇長の階級は、指揮する艦艇の種別、乗員数など艦艇の規模により異なる。一般的に『あわじ』などの掃海艦は2佐が艦長に、『えのしま』などの掃海艇は3佐が艇長を務める。
護衛艦の艦長の多くは2佐が占めているため、2佐は海自の幹部自衛官の1つの目標といわれ、海上自衛官の中では、2佐といえば艦長クラスという共通認識があるようだ。それ以外にも、『いずも』などのヘリコプター搭載型護衛艦や『こんごう』などのイージス艦を指揮する艦長は1佐の隊員が務めている。
連隊長(陸上自衛隊)【1佐】:連隊を指揮するトップは1佐クラスの階級が必要

式典で敬礼を受ける陸上自衛隊の連隊長。連隊が一丸となり任務を達成するため、日々任務にあたる
連隊は、複数の大隊もしくは中隊により編成される。たとえば、普通科連隊の場合、おおむね4個程度の普通科中隊と、長い射程を持つ迫撃砲(山なりに弾を発射する大砲)を装備した重迫撃砲中隊、情報・通信・衛生などを担当する本部管理中隊、連隊を指揮する連隊本部などが所属している。
連隊は約1000人規模で組織されており、それを1佐が連隊長として束ねている。
大隊長(陸上自衛隊)【2佐】:大隊の指揮官は2佐が務める

陸上自衛隊の大隊は職種ごとに分かれたている。大隊長は、その道のプロフェッショナルだ
大隊は、複数の中隊などで編成される部隊。大隊には、戦車中隊などで構成される戦車大隊、機動戦闘車中隊や偵察中隊などで構成される偵察戦闘大隊、特科中隊などで構成される特科大隊、施設中隊で構成される施設大隊などがあり、各大隊の人数は部隊の規模や性質によっても変わる。
おおよそ150人から300人程度の規模である大隊を一括して指揮する大隊長は、2佐があたっている。
中隊長(陸上自衛隊)【3佐、1尉】:複数小隊からなる中隊の指揮者は3佐、1尉

複数の小隊をまとめ、現場レベルで任務を支える中隊長。個々の隊員にまで気を配り、中隊を動かす
複数の小隊などから構成される中隊は、小銃による地上戦闘や火砲による遠距離からの砲撃、地上から上空への迎撃、陣地構築といった、基本的な作戦行動に直結する任務を担う。
普通科中隊の場合、小銃小隊、迫撃砲小隊、対戦車小隊などさらに細分化され、それらの小隊を指揮して地上戦闘を担うのが普通科中隊の隊長だ。各職種の中隊ごとに中隊長が置かれ、約100人規模の隊員が所属する。それらの隊員をまとめる中隊長は、3佐か1尉が担当している。
小隊長(陸上自衛隊)【2、3尉】:小隊は尉官、その下の分隊は陸曹が指揮する

最も小規模な小隊・分隊の隊長は、個々人の隊員の指導のほか、隊の役割に合わせ細かな指揮を行う
自衛隊が作戦を遂行する小規模の部隊に小隊があり、その隊長は2・3尉などの尉官が務める。
小隊を構成し、10人前後で行動する分隊は、小銃を使用する小銃分隊や迫撃砲を使用する迫撃分隊など、使用する武器や役割ごとに分けられ、1つの小隊はおおよそ2、3個分隊で構成されている。分隊は10人以下の隊員で構成され、小銃小隊の場合、分隊長は曹長、1曹が指揮する。
自衛隊の各階級の昇任に必要な任期

自衛隊では、各階級に昇任するにあたって最低限必要となる在職期間がある。これに加えて、昇任試験や勤務成績などが加味され、最終的に昇任するかどうか決定される。
(MAMOR2024年12月号)
<文/古里学 写真提供/防衛省>
※記事内容は上記掲載号の発売時点のものです