•  日本を含むインド太平洋地域の国々に繁栄と安定をもたらすべく、日本が提唱した外交方針「自由で開かれたインド太平洋(略称:FOIP<Free and Open Indo-Pacific>)」。その実現の一環として、24年6月に行われたのが「乗艦協力プログラム」である。

     毎年内容を変えて行われており、2024年度は6月20日にグアムを出港して26日に横須賀へ入港、そして東京、横浜でも研修を実施するトータル11日間のコースが組まれた。

     マモル特派員は護衛艦『いずも』に同乗。航海の最後に、各国からの参加者に「乗艦協力プログラム」の感想と、今回の経験を今後どう生かしていきたいかをインタビューした。

     代表して東ティモール、シンガポール、サモア独立国、パプアニューギニア、ラオスのシップライダーたちの生の声をお届けする。

    東ティモール:今回の交流を生かして、各国との「架け橋」になりたい

    【東ティモール国防軍海軍 ヌノ サンチェス・ダ コンテイサオ少尉】

    「今回のプログラムの中で特に参考になったのは、各国の紹介や課題発表です。私自身プレゼンするにあたって、東ティモールは小さな国であり、自分の国にばかり多くの問題があると考えていましたが、太平洋島しょ国各国、そのほか東南アジア各国にもそれぞれ悩み、問題があることを知ることができ、とても勉強になりました。

     この航海を機に、私自身が、私の国と、今回交流を深めた各国との架け橋になりたいと思っています。今回のシップライダープログラムで『いずも』に乗せていただいたことに感謝します。本当にありがとうございました」

    【東ティモール民主共和国】
    2002年、インドネシアから独立。海上兵力は強化中であり、総人員は250人規模。艦艇は哨戒艇3隻。24年にオーストラリアから2隻の艦艇を導入予定

    サモア独立国:IUUは地域共通の問題。近隣諸国との協力を深めたい

    【サモア警察 ティロマイ マリリン・ガトロアイ巡査】

    「この航海を通じて、IUU(注)が地域諸国の抱える共通の課題であることを知ることができたのはとても大きかったです。このプログラムは、多くの国々からの参加者と知見を共有できる貴重な場でした。

     サモアに帰り、得た情報を紹介することによって、自国の課題解決への助けにしたいと考えます。特に、人的、物的、金銭的な各種リソースの不足が、サモアの課題解決への障害となっている現状、これを改善するため、近隣諸国や各組織とのパートナーシップ、助け合いを通じて、海洋安全保障に関わる問題に取り組むことの重要性を理解しました」

    (注)IUU=Illegal(違法)、Unreported(無報告)、Unregulated(無規制)の略で、「密漁」をはじめとする不法な漁業のこと

    【サモア独立国】
    軍隊はなく、有事にはニュージーランドが支援する。国家警察であるサモア警察に海上部門があり、オーストラリアから供与された哨戒艇などを保有する

    シンガポール:貴重な機会に感謝。地域諸国による共同対処強化を

    【シンガポール海軍 ナターシャ・ウォン ユン テン大尉】

    「まずは、防衛省・自衛隊がこのような貴重な機会を与えてくださったことに感謝します。プログラムの全てが貴重で役に立つものでした。

     海賊対処など、共通の脅威に対しては、地域間諸国における共同対処が重要であることは言うまでもありません。自国に戻ってからは、本プログラムで得た知識、例えば国際海洋法条約など、さまざまなことを意思決定の場で活用できるよう努めていきたいと考えます。

     私たちは引き続き、共通する海洋安全保障上の課題に立ち向かうべく、志を同じくするパートナーとの協力を強化していきます」

    【シンガポール】
    フリゲート艦や潜水艦などを保有。2009年、チャンギ海軍基地にIFC(情報融合センター)を設置し、同志国との情報共有を通じて海洋安全保障の維持強化を図っている

    パプアニューギニア:各国の課題点を共有、再確認。近隣との連携強化を進言したい

    【パプアニューギニア国防軍海上部門 ペドロ チャラキ・ダリッド士官候補生】

    「乗艦中、多くの日本文化に触れられたこと、そして参加メンバーを通じてほかの国の文化にも触れることができ、大変有意義でした。各国の海軍、海上警察が抱える課題を知ることができたのも興味深い点です。

     特に、海賊やIUUが共通の問題として認識されていることを確認できたことはとても大きな収穫です。帰国後は、本プログラムで得た知識を、領海やEEZ(注)における実際の哨戒活動に生かすとともに、近隣諸国との共同の取り組みをさらに増やすよう、上層部に進言していきたいと考えています」

    (注)排他的経済水域(Exclusive Economic Zone)。領土沿岸(低潮線)から200海里(約370.4キロメートル)の海域を指し、この領域内にある水産、鉱物資源などの経済的権利を優先できる

    【パプアニューギニア】
    海軍兵力は200人規模。オーストラリアから供与された哨戒艇4隻を保有。2023年、アメリカ軍との防衛協力協定を締結し、アメリカ軍は6つの拠点を使用可能に

    ラオス:普段触れない海軍種の活動を理解。幅広い交流ができた

    【ラオス人民軍陸軍 ケトハム・カウァン大尉】

    「全てのプログラムが有意義で、参加することによって知見が開けました。特に、日ごろ関係のない海軍種の人々がどのような活動をし、何に注力しているのかを知ることができたのは大きいと思います。

     また、カンボジア、ベトナムといった近隣諸国はもちろんのこと、普段接する機会が少ない、それ以外の幅広い国々のメンバーと交流を持てたことを、とてもうれしく思います。ラオスに戻って、今回、自分が得たものを共有したいと考えています」

    【ラオス人民民主共和国】
    内陸国のため海軍を持たないが、陸軍に河川部隊があり、メコン川などで警戒を行う哨戒艇を保有している。ちなみに内戦で消滅した旧ラオス王国には「海軍」があった

    海上自衛隊を代表する艦、『いずも』乗組員の誇り

     また、護衛艦『いずも』の中心人物たちに、今回の「乗艦協力プログラム」を受け持つにあたっての心構えや準備における苦労、さらには『いずも』の今後について尋ねた。

    護衛艦『じんつう』、『おおなみ』、『きりしま』各艦長を経て2024年5月から『いずも』艦長を務める石寺1佐。人を思いやる心と任務完遂を追求する姿勢を部下に求める

     ゲストを迎える立場から艦長・石寺1等海佐は、その意義を次のように述べた。

    「本プログラムを通じて、海洋秩序の維持、インド太平洋地域の繁栄と安定に寄与できることは非常に光栄です。乗組員一同、各国の背景を理解、尊重し、一人ひとり丁寧におもてなしすべく、準備をしてきました。私自身、参加者との絆を深める機会を得たことは大変うれしく思います」

     さらに石寺艦長は、乗組員が中心となって企画したイベントについても、「日本を知ってもらうことで、利害関係を超えた人と人とのネットワークを作ろうと、乗組員も積極的に協力してくれました」とも語った。

    護衛艦『しらぬい』を経て『いずも』乗組員になった砲術士の富永2尉。立入検査隊の指揮官補佐も兼務。本プログラムでは広報係補佐として準備に奔走

     さらに、砲術士の富永2等海尉は、各プログラムの運営にあたって気を配った点について話してくれた。

    「一番は安全、かつ快適にゲストが過ごせるように取り計らうことを重視しました。今回、訓練を行いながらの接遇となりましたので、安全管理や保全管理に万全を期し、ゲストが不便のないよう、また乗組員も交流しやすいようにサポートしました」

    護衛艦『きりしま』、『はるさめ』、『たかなみ』を経て、『いずも』のぎ装員になった伊藤曹長。以来、『いずも』に乗り続ける生き字引的存在

    『いずも』の曹士をまとめる立場の先任伍長・伊藤海曹長は、交流プログラムを通じて乗組員にも成長を促したかったという。

    「知識で知っているのと、実際に触れ合って知るのとでは大きく違います。各国のシーマンたちと直接会って話して、肌で感じ、視野を広げてほしい。そのために、交流プログラムの開催時間など、乗組員にも積極的に関わってもらうための工夫をしました」

     このプログラムの成功は、主催した防衛省スタッフはもちろん、協力を惜しまなかった乗組員たちの助力があってのこと。そして護衛艦『いずも』は、次なるステージへ向かう。石寺艦長は語る。

    「年度内には、F−35B戦闘機を搭載するための第2次改修が予定されています。『いずも』は海自を代表する艦として常に国民の皆さまからの期待も大きいものと理解しています。今後もそれに応えられるよう、乗組員一同、努力を続けます」

    自衛官の苦労を味わえた航海後記

     航海中一番の楽しみは食事。毎食メニューも工夫され、味はどれもおいしかった。体を動かす隊員に合わせてなのか、少し味が濃いめのものが多かった印象。割り当てられた部屋は幹部用で、2段ベッド2台の4人部屋。風呂は「海水風呂」で、思った以上にしょっぱいが、とても温まる。

     ただ、最後に軽く真水のシャワーで流さないと少しべとつく。トイレは、使用後バルブをひねって海水を流す以外、陸上のトイレと変わりない。そして何より印象的だったのが艦上からの眺め。太平洋のど真ん中、水平線上には陸地もほかの船も全く見えない。爽快感と同時に寂しさも感じた。

     乗組員の日々の苦労とちょっとした楽しみ、両方を味わえた航海だった。彼らの献身で、日本の海は守られているんだなと、改めて実感した。

    (MAMOR2024年11月号)

    <文・写真/臼井総理>

    マモル特派員が見た笑顔あふれる艦上交流

    ※記事内容は上記掲載号の発売時点のものです

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