日々、厳しい任務に取り組む自衛隊員の健康と鋭気を生み出す隊員食堂。本誌マモルでは連載ページ「隊員食堂」で全国の隊員食堂の自慢メニューを紹介しているが、本記事では、その調理場に注目!
陸・海・空さまざまな任地の中から、特徴のある調理場に潜入してみた。
前編の記事はこちら→https://mamor-web.jp/_ct/17716829/
海栗島分屯基地の調理場:民間人は入れない離島で食べる絶品料理

隊員食堂は、窓から海が見え、暖かな日差しが差し込む明るいスペースで、最前線にいる緊張感を思わず忘れてしまう空間なのだとか。隊員たちが息抜きできる貴重な場所だ
【海栗島分屯基地隊員食堂情報】
喫食数/非公表
特徴/約50席ある食堂の窓からは、韓国・釜山が望め、国境展望食堂といわれている
人気メニュー/とんちゃん空上げ
ぜひ読者にも食べてもらいたいと田畑士長がお勧めする「とんちゃん空上げ」。コチュジャンを混ぜた甘辛ソースは、ご飯も進む味だ
朝鮮半島が目と鼻の先、対馬列島の北端に浮かぶ海栗島は、日本で唯一自衛官しかいない島だ。島内の航空自衛隊海栗島分屯基地(長崎県)にはレーダーサイトがあり、24時間態勢で国境近辺の領空を監視している。隊員食堂は席数約50席の広さがあり、朝食は1人、昼食は3、4人、夕食は2、3人の給養員が交代で調理している。

空自基地では熱源としてボイラー(蒸気)を使用することが多い中、数少ないオール電化の調理場。コンロをはじめ、炒めものや汁ものを調理する大釜も電気を熱源としている
食材は、週に3回程度の船便で運ばれているが、悪天候による欠航は免れない。そのため天気予報をチェックして、早めに納入してもらうなどしている。しかしそうしたハンディをものともせず、西部航空方面隊の調理競技会では見事に優勝。その料理のおいしさは折り紙付きだ。
最近、栄養士の資格を持つ女性隊員や、調理経験の長い技官などが加わったと言う田畑士長。「以前にも増して調理場は活気に満ちています」
給養員である田畑空士長にイチ推しメニューを尋ねると、「『とんちゃん空上げ』ですね。あごだしつゆに漬け込んで揚げた唐揚げに、対馬の郷土料理『とんちゃん』(注)のたれと甘辛ソースをかけて食べます」とのこと。隊員の活力の源となる1皿だ。
(注)豚肉をみそやしょうゆベースの甘辛たれに漬け込んで、野菜と一緒に焼いた料理。第2次世界大戦後に、対馬在住の韓国人によって広められたといわれる
礼文分屯地の調理場:吹雪の中、食材を人力で運ぶ

礼文分屯地の隊員は、除雪車に導かれるようにして、雪道を徒歩通勤することもあるという。給養員は決まった時間に朝食を出すため、天候によっては前日から泊まり込むそう
【礼文分屯地隊員食堂情報】
喫食数/約30食
特徴/4卓のテーブルが1列に並んだ全16席のこぢんまりとした食堂
雰囲気/混み合うこともないため、隊員はおのおののペースで食事時間を満喫している
人気メニュー/ポークカレー(野菜くずでだしを取り、野菜のうまみが感じられる)

メニュー作成時などは栄養士の調理指導のもと、数人で和気あいあいと作業をすることもあるが、調理中は基本1人なので、黙々と作業に明け暮れることになるという
最北の地・稚内から西へ60キロメートルの海上に浮かぶ礼文島で、北の守りにつく陸上自衛隊礼文分屯地(北海道)の調理場を任されているのは2人の自衛官だ。席数16席の小さな隊員食堂であるため、調理器材も限られており、裁断機の代わりに家庭用スライサーを使ったりしながら毎回30食分ほどを調理する。

幸崎2曹の食堂お勧めメニューは、「ほっけのアーモンドフライ」。パン粉の代わりにスライスしたアーモンドを衣に付けて揚げた1品だ
4時30分から18時30分までの間の2交代制なので、食材の仕込み、調理から食器洗い、清掃などを全て1人で行わなければならない。また北の離島ということで天候には大きな影響を受ける。
離島であるために入手できない加工品も多々あるが、一から手作りしたメニューを数多く作って提供していると、幸崎2曹は胸を張る
「食材は毎週火曜と金曜の納品ですが、悪天候だとフェリーが欠航するだけでなく、真冬には港から駐屯地までの道路が雪で通行不能になることもあります。その場合は、アキオや背負子を使って人力で食材を運ぶ準備もしています」と語るのは、礼文管理班調理係の幸崎2等陸曹だ。礼文島ならではの厳しい環境の中では、前日から泊まり込んで悪天候に備えることもあるそうだ。
ジブチ拠点の調理場:猛暑も断食もあるが、チームワークで乗り切る

奥にコンテナ型の冷蔵庫や冷凍庫が置かれた調理場。暑さで食材が傷むことがないよう冷蔵・冷凍保管をする。また快適に調理ができるよう、エアコンも常に稼働しているそうだ
【ジブチ拠点隊員食堂情報】
喫食数/約180食
特徴/席数は約80席。柱ごとに扇風機を取り付けているが、複数台エアコンが設置されているので、暑さはなく快適
雰囲気/日本の曲が流れ、日本にいるかのようにリラックスして食事をしている
人気メニュー/カレー、豚の角煮、スパイスの効いた唐揚げ

約80席ある隊員食堂には、行事などの写真を掲示したり、日本の曲を流したりして、日本から遠く離れたジブチに勤務する隊員が楽しく食事できる環境を作っているという
自衛隊ジブチ活動拠点の調理場で最大の敵といえば、やはり暑さだ。アフリカの赤道近くの国のため、気温は50℃を超えることもある。食材はドバイなど海外からの輸入がほとんどで、コンテナ型の大型冷凍冷蔵庫で保管する。

猛暑の中、調理場のエアコンが故障したピンチの際には、いくつもの氷の塊をそばに置いて、風を送りながら調理したこともあったとか
シーフード料理の場合は、現地の魚にスパイスなどをたっぷり使って調理しているという。調理場で働くのは、支援隊司令の鈴木1等陸佐のもと、監督官と業務委託先の社員と現地人のスタッフ約20人で、毎回約180食ほどを提供している。
「食堂で隊員に人気なのはお肉がたっぷり入った濃厚ビーフカレーですね。豚の角煮やスパイスが効いた唐揚げも好評ですよ!」と鈴木1佐
「多国籍の調理チームなので、調理場には日本語、英語、フランス語の3カ国語のラベルを張っています。意思疎通が難しいときには、身ぶり手ぶりでコミュニケーションをとりますね」と、海外ならではの苦労を語る鈴木1佐。
また現地の人はイスラム教徒が多く、ラマダンの時期には約1カ月間、日中は断食になるのだが、それでも調理場で熱心に働いてくれ、日没後には皆で食事をとりながらジブチの文化や料理の話に花が咲くそうだ。
(MAMOR2024年10月号)
<文/古里学 写真提供/防衛省>
※記事内容は上記掲載号の発売時点のものです