•  約80年前の就役当時、世界の軍艦の最先端を行っていた大型戦艦「大和」は、その戦闘力や防御力のすごさがクローズアップされがちだが、実は艦内の厨房も最新技術にあふれていたのだ。

     乗員の士気を高めるために、食事にも重きをおいていたことがよく分かる。ウェブサイト『乗りものニュース』の柘植優介氏が厨房や設備について教えてくれた。

    調理員は選び抜かれたエリート

    画像: 戦艦大和(出典:パブリックドメイン)

    戦艦大和(出典:パブリックドメイン)

     全長263メートル、基準排水量6万4000トン、乗組員は約2300人から多いときで約2500人(約3300人が乗っていた沈没時を除く)という世界最大の戦艦「大和」。艦内には冷房やエレベーターが設置され、物資不足の折も豪華な食事が提供されることで、「大和ホテル」とやっかみ半分で揶揄されたともいわれている。

     各国の海軍艦艇での食事は、艦長は艦長室で、士官は士官食堂で、従兵による給仕付きで食べるというのが今の各国海軍に至る伝統となっているが、旧海軍の艦艇に詳しい柘植優介氏によると、「大和」などでは晴れた日には甲板上でテーブルに布のクロスを敷き、軍楽隊のBGM付きで優雅に食事をすることもあったそう。

     海軍軍人は、平時は遠洋航海などで外国に行く頻度が高いため、各国のVIPと会食する機会が多いことなどから、日ごろから正式なコース料理に慣れ、マナーを身に付けるという意味もあったのだという。

    最新鋭の電化製品を導入。量も質も超ド級だった

     士官以上の階級の食事は民間人の専用コックが担当していたが、2000人以上いる下士官兵員の食事は「烹炊所」と呼ばれる厨房で、1班約10人の烹炊員(自衛隊の給養員のような任務)が4班体制で作っていた。

     艦艇の厨房は狭い中で効率よく大量に調理でき、火事と食中毒は絶対に出さないというのが設計上の基本の考えとなる。「大和」の場合、当時の最新鋭の機器と技術を使ってその課題を克服した。

     厨房には洗米機2基や6斗炊きの蒸気炊飯器2台、1時間に400リットルものお茶を作る茶湯製造機2台、2斗炊蒸気粥窯など、大型で自動化された調理器具を配備。

     さらに大型発電機を備えていたため、蒸気以外にも電気を熱源にした調理機器も多く導入され、フードプロセッサーとなる電気万能烹炊器5台や電気保温器など、多くの人がかまどでご飯を炊いていた時代に現代の家庭にもありそうな電化製品が取りそろえられていた。

     電気冷凍冷蔵庫は22万3400リットルの容量があったため、「大和」の乗組員は長い航海中でも生鮮食料品を口にすることができた。また消火用に製造していた二酸化炭素を利用して、1日最大5000本ものラムネも作れたそう。殺菌にも細心の注意を払っており、3台の大型食器消毒器もあった。

    「最新鋭の機器を扱うため、『大和』の烹炊員は主計科(注)の優秀な隊員をピックアップして専門課程で学ばせてから赴任させていたそうです。余談になりますが、長期に及ぶ航海のストレスを解消するため、旧海軍は旧陸軍よりも食事内容が良く、特に『大和』はほかの艦艇と比べて抜きんでて豪華でしたが、中でもオムライスは士官しか食べることができなかったため、下士官らの憧れのメニューだったといわれています」と柘植氏。

     給仕する従兵も、オムライスをうらやましく眺めていたことだろう。

    (注)旧海軍において、会計や庶務のほか炊事関係も受け持っていた

    【柘植優介氏】
    ウェブサイト『乗りものニュース』編集部副編集長。過去にはミリタリー雑誌の編集長を務めた経験も。旧軍や自衛隊だけでなく、自動車や電車、航空機など、乗り物全般に関して幅広い知識を持つ 
    撮影/田中秀典

    (MAMOR2024年10月号)

    <文/古里学 写真提供/防衛省>

    「隊員食堂」の調理場に潜入!

    ※記事内容は上記掲載号の発売時点のものです

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