わが国の防衛体制は、近年、中国の海洋進出や北朝鮮のミサイル発射実験などを念頭に、日本の南西地域での自衛隊の活動を増強する方針が進んでいる。
これに伴い部隊の新設や新装備の導入が進み、補給や輸送に関わる体制も変化の時を迎えた。新時代に対応する自衛隊の補給と輸送の取り組みを紹介しよう。
南西地域にどう運ぶ? 新時代の輸送と補給
わが国の安全保障政策は、おおむね10年後までの基本指針を定めた「防衛計画の大綱(防衛大綱)」を策定している。これに基づき、これまで自衛隊は日本列島に均等に防衛力を配備する「基盤的防衛力」の方針で各部隊を配置してきた。
だが、近年頻発する北朝鮮のミサイル発射実験や中国の海洋進出など南西地域の脅威が増してきたため、2013年閣議決定の防衛大綱では、わが国の防衛力を南西方面にシフトし、陸・海・空各自衛隊が共同で任務に当たる「統合機動防衛力」強化の方針を打ち出す。
これにより、自衛隊は日本の南西地域に基地・駐屯地を新設するなど防衛力を増強している。
南西シフトが進むと補給や輸送への取り組みも変わる。南西地域は奄美大島から与那国島まで全長約1200キロメートルにおよび、広範囲に物資を届ける対策が求められる。
そのため、防衛省では輸送や補給に関わる部隊新設や新装備導入を進めている。また日本政府は22年に策定した「国家安全保障戦略」に基づき、全国の港湾と空港の整備を行う「公共インフラ整備」を計画中だ。
これは有事の際に自衛隊が展開しやすいよう、一般の港湾施設に大型艦艇も接岸できる岸壁を設け、一般の空港は輸送機や戦闘機が利用できる駐機場の整備や滑走路の延長などを計画したもので、自治体との交渉が進められている。
迅速かつ大規模輸送で民間企業の力を活用
有事の際の輸送力を増強するため、民間企業の力を活用する取り組みが進められている。鉄道では全国物流便という事業で貨物列車を利用し、船舶では民間フェリーや貨物船を利用して補給品や装備品を輸送している。
またPFI(Private Finance Initiative)と呼ばれる、国が民間企業の資金、能力を活用する行政手法も採用した。
防衛省は普段は民間の会社が所有、維持、管理、運航する民間船舶フェリー『はくおう』(注1)や『ナッチャンWorld』(注2)の2隻と、有事や災害派遣、訓練などで優先的に運航サービスが提供される契約を締結。
これら船舶は装備品の輸送のほか、隊員の活動拠点としても利用されている。
(注1)かつて敦賀~小樽航路で運航していたフェリーで、現在はチャーターなどで特別に運航されている。
(注2)かつて青森~函館航路で運航していた高速フェリー。現在はチャーターなどで特別に運航されている。
共同部隊の“自衛隊海上輸送群(仮称)”を新編予定
統合運用の下、陸・海・空各自衛隊の共同部隊「自衛隊海上輸送群(仮称)」が2024年度末、新編予定だ。
そのねらいは、防衛省が掲げる島しょ防衛の体制強化にある。従来は陸上自衛隊の隊員や装備品などを遠方に運ぶため、海上自衛隊の輸送艦や航空自衛隊の輸送機などを利用していたが、輸送艇を運用する新部隊の発足で、離島への補給品輸送や部隊のより迅速な展開が期待できる。
このため19年より陸自隊員を海自の術科学校に派遣し、艦艇の運航や船舶機関の運転・整備に必要な知識・技術を習得した人材を育成中だ。
艦艇を運航できる隊員を育成するには一定の乗船経歴が必要で、毎年選抜された陸自隊員が海自隊員と共に同じカリキュラムで教育を受講している。
海上自衛隊は2028年度に“新型補給艦”を就役予定
長期での外洋航行や災害派遣など、補給艦(注3)に求められる任務、能力が増加しているのに対応し、基準排水量1万3500トンの『ましゅう』型補給艦より大きい1万4500トン型の補給艦が2028年度に就役予定だ。
この新型補給艦は補給で使用する燃料の積載容量が増えるだけではなく、航空荷取扱所(無人機格納を含む)の設置や、艦内での貨物移送装置の自動化による省人化が図られている。
さらに、フェリーのように車両が岸壁から自走で船内に入るための開閉式のサイド・ランプを持っていることも特徴だ。
従来はクレーンを使用していた貨物搭載も、フォークリフトなどで搭載可能になり、省人化・省力化が図られている。
(注3)海上自衛隊では、洋上でほかの船舶に武器弾薬や燃料などの物資を供給することに特化した艦を補給艦と呼び、人や物資を輸送するための艦を輸送艦としている。
(MAMOR2024年3月号)
<文/古里学 写真提供/防衛省>