わが国の防衛態勢は、近年、中国の海洋進出や頻発する北朝鮮のミサイル発射実験などを念頭に、日本の南西地域で自衛隊を増強する方針、いわゆる南西シフトが進んでいる。それに伴い、ここ10年の間に、島しょ部に新たな駐屯地・基地が次々と新設された。
石垣島にやって来た“自衛隊さん”たちは、どのような設備で、いかなる任務についているのか、案内しよう。そして美しい島を守る隊員たちにも話を聞いてみた。
石垣駐屯地:尖閣諸島の警戒監視にあたる南西防衛の最後の切り札
【石垣島の基本情報】
面積:約222平方キロメートル/人口:約4万9000人/主要産業:水産業、畜産業、農業、観光業
那覇から約400キロメートル離れた八重山諸島の中心地である石垣島。その北方約170キロメートルの海上には、日々厳重な警戒監視が必要な尖閣諸島が浮かぶ。その石垣島に2023年3月、陸上自衛隊石垣駐屯地が開設された。23年8月現在、陸上自衛隊で最も新しい駐屯地である。
島中央部に位置する石垣駐屯地は面積47ヘクタールで、隊庁舎3棟、弾薬庫4棟、車両整備場2棟、室内射撃場などが配置されている。ほかの南西諸島の駐屯地と同じく、正門ゲートの柱の上には魔よけや守り神として知られるシーサーが設置され、建物には赤瓦が使用されている。
駐屯地のエンブレムは、石垣島に生息する特別天然記念物カンムリワシの周りを八重山諸島を構成する32島を表現した羽根が取り囲んでいる図柄だ。
石垣駐屯地に駐屯する部隊は、新編された八重山警備隊、宮古島駐屯地の第7高射特科群隷下の第348高射中隊、主力が健軍駐屯地(熊本県)にある第5地対艦ミサイル連隊の第303地対艦ミサイル中隊などで、総勢約570人の隊員、車両約200両からなる。
石垣駐屯地に駐屯する主な部隊
台湾に最も近いミサイル部隊が空と海へにらみを利かせる
南西諸島にあるほかの駐屯地と同じく石垣駐屯地の部隊も、離島防衛の主力となる警備隊と対空戦闘部隊、地対艦ミサイル部隊で編成されており、駐屯地司令は警備隊長も兼ねている。
新編された八重山警備隊は対戦車小隊や情報小隊などで構成される本部中隊、普通科中隊、後方支援隊からなり、主要装備品は車上から戦車や舟艇を攻撃する中距離多目的誘導弾だ。
防空を担う第348高射中隊は、発射装置が自走式で機動力に富む03式中距離地対空誘導弾が主要装備品。
また、第303地対艦ミサイル中隊は12式地対艦誘導弾を装備した、台湾に最も近いミサイル部隊で、沖縄本島以外では奄美大島と宮古島に続いての配備である。
石垣駐屯地の隊員たち
「『ゆいまーる(助け合い)の精神』を忘れることなく、八重山の方々の安心安全のために努力していきます!」(八重山警備隊普通科中隊/中眞和樹3等陸曹)
「石垣島をはじめとする八重山の南ぬ島(ぱいぬしま)を防空するとともに、事態対処に万全を期しています」(第348高射中隊/井手郁也3等陸曹)
「島国である日本において、敵艦船を海上で撃破するという非常に重要な任務を深く認識して、訓練に励んでいます」(第303地対艦ミサイル中隊/相良克弥3等陸曹)
主要部隊の任務に欠かせない、代表的な装備品と担当する隊員を紹介
12式地対艦誘導弾
あらかじめプログラミングされたコースに従って山などを避けてう回し、洋上に出たら低高度で飛び目標に命中させるミサイル。土浦駐屯地(茨城県)や富士駐屯地(静岡県)、健軍駐屯地(熊本県)などに配備されている。
<SPEC>全長:約5m 胴体直径:約350mm 重量:約700kg(寸法はミサイル本体)
「いつ、いかなる場合でも射撃任務を完遂できるよう、訓練、整備をしています」(第303地対艦ミサイル中隊/円舘卓士2等陸曹)
03式中距離地対空誘導弾
旧防衛省技術研究本部が開発した、純国産の低空目標用の誘導弾。部隊や重要地域などの防空を行うため、対空戦闘を行う部隊などに装備される。発射装置を自走式にすることで、旧型の地対空誘導弾よりも高い機動性をもつ。通称「中SAM(ちゅうさむ)」。
<SPEC>全長:約4900mm 直径:約320mm 重量:約570kg
「レーダーで発見した航空機やミサイルを、すばやく撃墜できるよう訓練に励んでいます」(第348高射中隊/山口修治3等陸曹)
中距離多目的誘導弾
舟艇や装甲車などさまざまな目標に対処が可能な誘導弾システム。赤外線とレーダーを用いた捜索・標定機能により、効率的に目標を探知できるほか、車両への搭載や空輸、空中投下も可能。写真は搭載車両から発射される誘導弾。
<SPEC>全長:約1.4m 直径:約0.14m 重量:約26kg(数値は誘導弾本体)
「一発必中の精神をもって、日々の訓練に取り組んでいます」(八重山警備隊本部中隊/北野翔3等陸曹)
石垣島で働く隊員のおすすめスポットは?
石垣島で働き、生活をする自衛隊員たちが、生活者として島のお気に入りスポットを紹介してくれました。
隊員の常連も多くいる行列ができる鮮魚店
「海人」(うみんちゅ)の島、石垣島の人は、それぞれお気に入りの鮮魚店があるとか。中でも行列ができるお店として有名なのが「よしみ鮮魚店」。
「常連になった隊員もたくさんいます」とのことで、一番人気のマグロユッケやネギトロは売り切れ必至だ。
【よしみ鮮魚店】
住所:沖縄県石垣市登野城895 電話:0980-88-6534 営業時間:14:00~21:00(売り切れ次第終了)定休日:日曜日
一生に一度は行ってみたい日本百景の絶景スポット
日本百景にも選ばれている絶景スポットが川平湾だ。地元出身の隊員は「子どものころは毎日この風景を見て過ごしていました」と言うが、今もその美しさは見ていて飽きないという。
「石垣島出身の私の自慢の絶景です」(八重山警備隊本部/野底雄一郎2等陸曹)
石垣島最大の伝統行事見どころ満載の豊年祭
八重山諸島では、五穀豊穣を神に祈る豊年祭が行われている。開催日や内容などは地区によって違い、撮影禁止の所もあるという秘祭だ。旗頭持ちという役で参加した隊員は「伝統行事の一員になれた」と感激している。
「地域住民の人柄の素晴らしさも感じます」(八重山警備隊後方支援隊/菜原仁1等陸尉)
石垣島に住む島人(しまんちゅ)からひとこと
「30数年前に海に関わる仕事がしたくて神奈川から竹富島に移住。島の暮らしは満員電車に乗らなくてすむのが何より。新石垣空港ができてからは観光客が増え、フェリーが混雑するようになりましたが」(久保田文さん・58歳)
(MAMOR2023年11月号)
<文/古里学 写真提供/防衛省>