わが国の防衛態勢は、近年、中国の海洋進出や頻発する北朝鮮のミサイル発射実験などを念頭に、日本の南西地域で自衛隊を増強する方針、いわゆる南西シフトが進んでいる。
それに伴い、ここ10年の間に、島しょ部に新たな駐屯地・基地が次々と新設された。そこで今回、防衛計画課の防衛部員に話を聞いてみた。
なぜ今、南西防衛が注目を集めているのか?
自衛隊の部隊編成や装備品の取得・配備などを担当する防衛省整備計画局防衛計画課の河島慎吾防衛部員は、2015年に防衛計画課で勤務の後に異動、22年、再び同課へと戻ってきた。
その10年の間で、日本を取り巻く安全保障環境は大きく変化したと実感していると語る。それはどういうことか、具体的な数字で見てみよう。
12年当時、中国機に対する自衛隊機の緊急発進回数は306回、中国海警局(沿岸警備隊)の船舶による尖閣諸島周辺での年間接続水域(注1)入域日数は79日だった。それが今では中国機に対する緊急発進回数は722回(21年度)、入域日数は336日(22年)に急増。
北朝鮮は、13年までの20年間で弾道ミサイルの発射回数は8回(18発)だったのが、22年は1年間だけで31回(59発)発射。クリミア併合時(注2)にはミサイルを使用しなかったロシアも、ウクライナ侵略では5000発以上のミサイルを発射している。このように他国の軍事活動の活発化、弾道ミサイルによる脅威は確実に高まっている。
しかし、奄美大島から与那国島までの全長約1200キロメートルに及ぶエリアには、16年まで沖縄本島以外に陸上自衛隊の部隊は配置されていなかった。日本の地理的特性と厳しさを増す安全保障環境において、自衛隊が地域と国際社会の平和と安定に寄与するためには、南西防衛に注力するのは必然といえよう。
しかし河島防衛部員によると、防衛力の南西シフトは最近になって急に始まったわけではないという。
「自衛隊が各種任務を実施するためには、適切な装備品を取得し、部隊の運用体制を確立しなければなりませんが、それは一朝一夕にできるものではなく、中長期的な見通しに立って行う必要があります。
多くの島しょを有するということを踏まえて、13年の25防衛大綱で南西地域での防衛態勢の強化をうたって以来、着実に防衛力の整備を行っているのです」
(注1)領海の基線からその外側24海里(約44キロメートル)の線までの海域のこと。基本的には公海と同じで、どこの国の船でも自由に航行できるが、密輸など怪しい船を見つけた場合には「領海(12海里)に近づくな」と警告したり、監視したりできる。
(注2)2014年、ウクライナ領のクリミア半島が突如独立を宣言し「クリミア共和国」を樹立。その翌日にロシアに併合されたが、国際連合やウクライナ、そして日本を含む西側諸国などはウクライナ憲法に違反するなどを理由に、これを認めていない。
陸・海・空3自衛隊が連携。進む南西シフトとは?
それでは南西シフトは、具体的にはどのように行われているのだろうか。
島しょ部において、継続的な情報収集・警戒監視・偵察活動と総合的な対応能力を発揮するには、かつてのような大規模な陸上兵力による備えから、陸・海・空3自衛隊が連携しながら、最小限の必要な兵力でスピーディーに事態に対処できるよう、部隊や装備品を配備しなければならない。
それまで空白のエリアといわれていた南西地域に、沖縄本島以外で初めて陸上自衛隊の部隊が配置されたのは16年の与那国駐屯地である。
以降、19年3月に宮古警備隊が新編、20年3月に第7高射特科群が長崎県竹松駐屯地から宮古島駐屯地に移転、同月に第302地対艦ミサイル中隊が新編。
航空自衛隊は那覇基地に第9航空団や警戒航空団第603飛行隊を新編、海上自衛隊も潜水艦や新型護衛艦を増強している。今後は、23年度に沖縄本島勝連分屯地に地対艦誘導弾部隊を新編、与那国駐屯地に電子戦部隊を移駐する予定。
今後は、沖縄本島の第15旅団を師団へ改編し、普通科連隊を1個から2個へ増強、沖縄訓練場の敷地内に補給処支処を新設、与那国駐屯地へ地対空誘導弾部隊の配備などを計画している。
こうした南西地域での防衛力の強化は、「日本周辺の安全保障環境がより厳しさを増すなかで、力による一方的な現状変更を許容しないという、わが国の強い意思の表れ」だと河島防衛部員は言う。
(MAMOR2023年11月号)
<文/古里学 写真提供/防衛省 地図/国土地理院の地理院地図より>