•  長年、忍者ブームが続いています。

     放映中のNHK大河ドラマ『どうする家康』では、服部半蔵とその一党が活躍し、また、忍者で町おこしを試みる地方自治体は後を絶ちません。

     また、日本を訪れる外国人観光客に人気なのが「忍者体験」だそうです。さらに、忍者の歴史や文化を研究する国立大学まであります。研究者によると、「忍び」には、現代に通じる深い意味がこめられているとか。

     そこで、マモルでは真面目に忍者について学ぼうと思います。今回は、忍者が使った各種道具について。

     映画やアニメでもよく目にするアイテムです。武器はもちろん、潜入に使う便利なアイテム、携帯食、薬など、任務遂行に必要不可欠な忍者道具には、さまざまな工夫が施されていました。

    調剤や調理などに長けていた忍者

    画像: 江戸時代後期の忍術に関する書籍『甲州流忍法伝書老談集』(こうしゅうりゅうにんぽうでんしょろうだんしゅう)に伝わる「兵糧丸」(ひょうろうがん)のレシピ。材料は餅米、うるち米、ハス肉(ハスの実)、山薬(ナガイモ)、桂心(シナモンの樹皮)、ヨクイニン(ハトムギの種子)、ニンジン(朝鮮人参)、そして氷砂糖とある

    江戸時代後期の忍術に関する書籍『甲州流忍法伝書老談集』(こうしゅうりゅうにんぽうでんしょろうだんしゅう)に伝わる「兵糧丸」(ひょうろうがん)のレシピ。材料は餅米、うるち米、ハス肉(ハスの実)、山薬(ナガイモ)、桂心(シナモンの樹皮)、ヨクイニン(ハトムギの種子)、ニンジン(朝鮮人参)、そして氷砂糖とある

     忍者はサバイバル能力の1つとして、薬学や栄養学にも通じていた。それを示す証拠が、携帯食の「忍者食」だ。「『兵糧丸』(ひょうろうがん)と呼ばれる忍者食は現代にもレシピが残っていて、携帯でき栄養価も高いものです」と解説してくれたのは、三重大学人文学部教授で国際忍者研究センター副センター長の山田雄司教授。

     忍者は生薬や薬効があるとされる動植物に対する知識が豊富で、兵糧丸以外にも和薬の調合・製造に取り組んでいたという。この和薬を売り歩く商人として庶民の間に深く入り込むことができたため、情報収集の手段としても使われていたのだ。

    「例えば『紫金丹』(しきんたん)は整腸作用のあるタンニンや鎮静作用のあるジャコウが使われ、常備薬として重宝されました。ほかに整腸や腹痛に効果がある『陀羅尼助』(だらにすけ)などが忍者の薬として知られています」(山田教授)

    画像: 生薬から作られた気付け薬「敬震丹」(けいしんたん)のパッケージ。現代にも製法が伝わる。犬伏製薬(徳島県)から販売中で全国の漢方薬局などで購入可能(参考小売価格10片 2530円〜)(写真提供/犬伏製薬)

    生薬から作られた気付け薬「敬震丹」(けいしんたん)のパッケージ。現代にも製法が伝わる。犬伏製薬(徳島県)から販売中で全国の漢方薬局などで購入可能(参考小売価格10片 2530円〜)(写真提供/犬伏製薬)

    画像: 「敬震丹」の中身(写真提供/犬伏製薬)

    「敬震丹」の中身(写真提供/犬伏製薬)

    忍者の特技であった火の取り扱い法

    画像: 画像/伊賀流忍者博物館提供写真を許諾のうえ加工して使用

    画像/伊賀流忍者博物館提供写真を許諾のうえ加工して使用

     忍者は使いようで強力な武器になる火の扱いに秀でており、彼らの火の取り扱いには独特の工夫が凝らされていると山田教授は話す。

    「忍者が持ち歩いていた道具の『打竹』(うちたけ)は、竹の筒に空気穴を開け、中にひも状の火種を仕込んでどこでも火をつけられるようにした1種のライターです。これに火薬を入れ爆竹のように使った『百雷銃』(ひゃくらいじゅう)もありました」

     持ち歩いた火種は、敵の建物に忍び込んで放火したり、たいまつなどさまざまな方法で活用した。もう1つ忍者が習得していたのが生物の行動や雲などの動きから天候を予測する「観天望気術(かんてんぼうきじゅつ)」だ。

     山田教授はその理由をこう語る。「火をつけても雨で消えてしまっては意味がありません。火を活用するには天気や風向きなど気象が読めなければなりませんでした」。

    大国火矢(だいこくひや)

    画像1: 画像/伊賀流忍者博物館

    画像/伊賀流忍者博物館

     矢の先端に火薬を詰めた筒が付けられており、導火線に火をつけてから弓で射て、敵陣で着火する仕組み。

    胴の火(どうのひ)

    画像2: 画像/伊賀流忍者博物館

    画像/伊賀流忍者博物館

     銅製の容器に火種を入れ、火を起こしたまま携帯する。寒さをしのぐカイロとしても使用していた。

    百雷銃

    画像/伊賀流忍者博物館

     小さな筒にそれぞれ火薬が入っていて、これを火縄でまとめている。火縄銃の発射音に似た音がし、敵を驚かせるのに使ったといわれている。

    打竹

    画像: 写真提供/嵩丸

    写真提供/嵩丸

     短く切った竹に火種を入れて携帯する。酸素が尽きないよう穴が開けられている。

    忍者はどのような道具を使っていた?

     アニメや時代劇にはさまざまな道具を使いこなす忍者が登場し、なかでも手裏剣で敵を倒す姿を思い浮かべる人も多いだろう。

     だが山田教授は「手裏剣は16世紀はじめに存在していましたが、鉄製で重く携帯には向いていません。物を投げるなら近くの石を投げるほうが効率よく、両手を体の前で水平に構えて擦るように手裏剣を連射するような描写は創作なのです。まきびしと同じように敵の足止めに投げるなど、敵をかく乱するために使っていたといわれています」と話す。

     忍者の道具は敵地に潜入する際も使いやすい携行できるサイズのものが発展したようだ。

     続けて「棒状の手裏剣やナイフのような道具は、敵に見つかった際の攻撃以外にも、建物に潜入するときに壁に突き刺して足掛けとしたり、穴を掘る道具として使ったりと、さまざまな使い方ができました」と山田教授。

    手裏剣

    画像: 写真提供/伊賀流忍者博物館

    写真提供/伊賀流忍者博物館

     手の裏(内側)に隠して投げる剣が語源ともいわれる。毒を塗り殺傷能力を高めた使用方法もあった。

    かぎ縄

    写真提供/伊賀市デジタルミュージアム

     縄に金属の爪を付けた道具。高所に引っ掛けて登るために用いたり、木と木の間を渡るなど多目的に使用。

    まきびし

    画像2: 写真提供/伊賀市デジタルミュージアム

    写真提供/伊賀市デジタルミュージアム

     敵の足止めなどに使う。尖ったテトラポット形で、材質は鉄、竹、木などさまざまな素材がある。

    大鋸(おおのこ)

    画像3: 写真提供/伊賀市デジタルミュージアム

    写真提供/伊賀市デジタルミュージアム

     両刃の先が尖ったのこぎりで、潜入の際は生け垣や柵などを切るために使った記録がある。

    矢立(やたて)

    画像4: 写真提供/伊賀市デジタルミュージアム

    写真提供/伊賀市デジタルミュージアム

     筆箱と筆記具のセット。記録用に使い、筆の部分に刃を仕込んで武器にしたものもあった。

    忍者刀

    画像: 画像/伊藤銀月著『忍術の極意』 功人社刊より

    画像/伊藤銀月著『忍術の極意』 功人社刊より

     武士が使う太刀より短く、塀を乗り越える際につばを足場にする使い方も。さやに付けたひもは長めで、登ったあとに手繰り寄せて刀を回収するためなどに使用。

    がんどう

    画像5: 写真提供/伊賀市デジタルミュージアム

    写真提供/伊賀市デジタルミュージアム

     内側の鉄輪部分にろうそくを固定して使う照明。現代でいえば懐中電灯のような使い方をしていた。

    水蜘蛛(みずぐも)

    写真提供/伊賀市デジタルミュージアム

     両足に着けて水面を走る描写は創作で中央の板に座り下の「水かき」とともに浮き輪のように使用する。

    水かき

    写真提供/伊賀市デジタルミュージアム

     水蜘蛛とともに用い足に装着して推進力を得る道具。ダイビングで使うフィンと同じような役割。

    【山田雄司氏】
    三重大学人文学部教授。国際忍者研究センター副センター長。専門は日本古代・中世信仰史で、忍者・忍術研究で日本をリードする存在。著書に『戦国 忍びの作法』(G.B刊)、編集書に『忍者学大全』(東京大学出版会)など

    三重大学国際忍者研究センターとは?

    三重大学が2017年に設立した国際的な忍者研究の拠点。伊賀地域を中心に、忍者に関する史料の研究や実験検証の情報発信などをしている。

    (MAMOR2023年10月号)

    <文/臼井総理 画像/伊賀流忍者博物館提供写真を許諾のうえ加工して使用 写真提供/伊賀市デジタルミュージアム(特記を除く)>

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