•  長年、忍者ブームが続いています。

     放映中のNHK大河ドラマ『どうする家康』では、服部半蔵とその一党が活躍し、また、忍者で町おこしを試みる地方自治体は後を絶ちません。

     また、日本を訪れる外国人観光客に人気なのが「忍者体験」だそうです。さらに、忍者の歴史や文化を研究する国立大学まであります。研究者によると、「忍び」には、現代に通じる深い意味がこめられているとか。

     そこで、マモルでは真面目に忍者について学びます。

     忍者といえば「忍法、〇〇の術!」という忍術を思い浮かべる方も多いのでは? それは実在したのだろうか? 本当にあるのなら、ぜひ習得したいもの。今回は、チチン・プイッ! と学べる忍術や体術についてです。

    忍者の忍術とはどのようなもの?

    画像: 伊賀市では忍者の身体能力の高さを伝える演舞などが披露されている(写真提供/伊賀流忍者博物館)

    伊賀市では忍者の身体能力の高さを伝える演舞などが披露されている(写真提供/伊賀流忍者博物館)

     忍術とは、忍者が任務を果たすために用いる技術の総称だ。

    「武術的側面が強調されることも多い忍術ですが、総合的なサバイバル術とみなすほうが適切でしょう。各種武器の使いこなし、情報収集や伝達、潜入、調薬や医術、人間の心理を読む、天候や天文を見るなど幅広い知識、技術が忍術に含まれます」と解説してくれたのは、三重大学人文学部教授で国際忍者研究センター副センター長の山田教授。

     一例を挙げると、伊賀の忍者は火術と呪術が得意だったと伝えられている。火術は火を扱うもの。呪術は人を化かす手品のようなものも含まれるが、主な術は自らの心をコントロールする方法だと山田教授は話す。

    「鼻から細く息を吸って1分かけて吐く『息長』(おさなが)という呼吸法が伝わっています。これはリラックス効果や集中力アップなど、自分の精神を整える方法です」

    身軽な忍者の体術は現代のパルクール!?

    画像: 建物の屋根伝いに走る忍者。音を立てないよう、つま先を立て静かに移動する(写真提供/伊賀流忍者博物館)

    建物の屋根伝いに走る忍者。音を立てないよう、つま先を立て静かに移動する(写真提供/伊賀流忍者博物館)

     攻撃されてもひらりと身をかわし、壁や屋根を登り、木から木へと跳び移る忍者の姿を想像する人は多い。実際の忍者はどのような身のこなしだったのだろうか。

    「伊賀、甲賀など『忍者の里』と呼ばれる場所は多くが山中で、彼らは木に登って枝打ちをしたり、野山を歩き回って生活していたことから、日々の生活が鍛錬になっていたのではないでしょうか」と山田教授。

     任務で長距離を移動することも多かった忍者は、持久力を高める『二重息吹』(ふたえのいぶき)という呼吸法を用いていた。

     これは「吸う、吐く、吐く、吸う、吐く、吸う、吸う、吐く」という拍子で呼吸をすると酸素摂取量が増えるとされ、三重大学の検証でも持久力の向上が確認されている。続けて山田教授はこう話す。

    画像: フランスで生まれた、町中の障害物を走る・跳ぶ・登るなどの動作で走り抜けるパルクール。その動きは忍者のようといわれている (写真提供/株式会社トリデンテ)

    フランスで生まれた、町中の障害物を走る・跳ぶ・登るなどの動作で走り抜けるパルクール。その動きは忍者のようといわれている (写真提供/株式会社トリデンテ)

    「戦国時代の成人男性の体格は平均で身長約150センチメートル、体重約40キログラムといわれています。小柄な上に俊敏な忍者は身体能力の高い集団であったと思われます。20世紀初頭、フランスの元兵士が生み出したというパルクールという競技がありますが、忍者に向いているかもしれませんね」

    「忍」の核心に迫る!

     忍者について学んでいくと、アニメや映画などで描かれるのとは違う姿が浮かび上がってきた。その本質は、現在、民を守る任務に就く人々の本質と変わらないのではないだろうか?

    江戸時代の忍術書『万川集海』では、かなりの紙幅を割いて「正心」の重要性や精神統一法などを説く(写真提供/伊賀ポータル)

     情報収集能力やサバイバル能力に秀でていた歴史の中の忍者たち。任務を果たすため長い期間敵地に潜入し、隙を見て敵を混乱させることもできた彼らは、どんな存在だったのか。山田教授はこのように話す。

    「忍者に関する史料に松本藩(長野県)に仕えた忍者が、江戸時代に忍者の歴史や修行法などについて記した『芥川家文書』(あくたがわかぶんしょ)があります。これによると忍者修行の第1は『本を読むこと』。忍者には知識が大事で、あらゆることに長けていなくてはならないということを示しています。第2は『歩くこと』とされ、派手な“忍術”がメインではないことが分かります。忍者は頭と身体と心を鍛え、サバイバル能力が高く、さまざまな仕事を忠実にこなす存在です」

     さらに山田教授は、忍びの心構えを現代に生きる私たちも生かすべきだと語る。

    「『忍』という文字には、耐え忍ぶ、がまんするという意味合いが込められています。自己主張がぶつかることの増えた現代、それぞれが少しずつ耐え忍ぶことで『和』が生まれるのではないでしょうか」

    「また忍者の教えには『正心』というものがあります。忍者の任務には、時には人をだまし放火をするなど非道徳的な行為もありました。これらは国のため、民のための行為であり、それを私利私欲で行ってはならない、常に正しい心を持つという教えです。また、忍の漢字は刃に心と書きます。これは、危機に瀕しても動じない『不動心』を表しているともいわれます」

    「私は、忍びの心は日本発の平和理念だと考えています。海外でもNINJAとして親しまれ、多くの作品に登場する忍者に興味を持ってもらうことをきっかけに、忍びの心を理解してくれる方が増えることを願っています」

    【山田雄司氏】
    三重大学人文学部教授。国際忍者研究センター副センター長。専門は日本古代・中世信仰史で、忍者・忍術研究で日本をリードする存在。著書に『戦国 忍びの作法』(G.B刊)、編集書に『忍者学大全』(東京大学出版会)など

    三重大学国際忍者研究センターとは?

    三重大学が2017年に設立した国際的な忍者研究の拠点。伊賀地域を中心に、忍者に関する史料の研究や実験検証の情報発信などをしている。

    (MAMOR2023年10月号)

    <文/臼井総理 画像/伊賀流忍者博物館提供写真を許諾のうえ加工して使用(特記を除く)>

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