一般的に戦闘機は、ほかの航空機に比べて搭載燃料が少なく長時間飛ぶことができない。空に給油所があれば、基地に戻らず給油でき、長時間任務を継続できるわけだ。
そこで、飛行中に給油しようと登場したのが空中給油・輸送機。さらに輸送機へ空中給油すれば、輸送距離を延ばすことができる。
現在、メインで活躍する日本のKC-767の外観は普通の旅客機のよう。しかしKC-767は空中給油機だけではなく、輸送機としても運用されるマルチパーパス・プレーヤーなのだ。
ウクライナ支援やスーダンに派遣された報道も記憶に新しい。その各機能を説明しよう。
KC-767とは?
2010年より運用を開始した航空自衛隊のほか、イタリア空軍も運用するKC-767は、アメリカ・ボーイング社の中型ハイテク旅客機B767-200ERを改造したもので、航続距離が長いという特徴がある。
また、自衛隊が運用する航空機の中では、政府専用機に次いで2番目に大きい。給油できる空自の航空機は、戦闘機のF-15、F-35、F-2と、輸送機のC-130Hの一部、C-2だ。
KC-767の各機能を徹底解説!
1:コックピット
コックピット内には、空中給油・輸送機独自の装置が配置されている。
その1つが、キーボードと液晶ディスプレーで構成された情報端末「MCDU(Multi- Function Control Display Unit)」で、飛行管理システム(注1)と連動して飛行日時や経路などの飛行計画の入力、操作ができる。
また、ブームオペレーター席の3次元カメラの映像を共有するディスプレーなども搭載。給油開始のためのメインスイッチは機長席にあり、給油をする最終判断は機長が行う。
(注1)飛行条件に応じて、運航コスト上最適な速度や経路を計算し、それに基づき離陸から着陸までエンジン出力調整や操縦などの飛行管理を自動的に行う装置(国土交通省 用語解説ページより)
2:ブームオペレーター席
コックピットの後ろ側に給油ブームを操作するブームオペレーター席がある。
進行方向と逆向きに2席あり、ブームオペレーターは写真の奥側に着座、手前側は訓練時に教官が座る。
かつてのKC-135空中給油・輸送機では、窓から目視で作業をしていたが、KC-767ではブームオペレーターがヘッド・マウンテッド・ディスプレー(HMD)を装着し、HMD内に映し出された受油機の映像を見ながらジョイスティックを操作し、給油を行う。
3‐1:貨物輸送スペース
コックピット、ブームオペレーター席と分厚い壁で仕切られた機内の大部分がカーゴスペースとなる。
使用時には19枚のパレットを敷いて、最大30トンの貨物を積載することができる。
このカーゴスペースのほかにも機体下部の前方と後方に貨物室があり、前方はパレット3枚もしくはコンテナ6個、後方はコンテナのみ4個が搭載でき、ほかの基地で飛行前点検や飛行間、飛行後点検をするときに必要な整備器材などが収納されている。
3‐2:人員輸送スペース
輸送任務は、荷崩れなどのトラブルを考慮して、貨物か人員のどちらかの輸送に限られる。人員輸送の場合は、座席を設置したパレットをカーゴスペースに設置することで、約200人が搭乗できる。
ただKC-767は自衛隊の運用ではもともと貨物機なので、窓が左右の主翼の所に1つずつしかない。また機体の壁がカーブしているので、特に体格の大きい人が壁際の席に座る際には、そのカーブに沿った体勢で座らなければならない。
4:給油位置指示灯
機体下部前方に、受油機に正確な位置を指示する給油位置指示灯「PDL(Pilot Director Light)」が設置されている。
ライトは2列で、受油機から見て左列の前に「U」(Up:上へ)、後ろに「D」(Down:下へ)、右列前に「A」(After:後ろへ)、後ろに「F」(Forward:前へ)の文字が点灯する。
受油機はブームオペレーターが出すこのシグナルを見ながら位置を微調整し、緑のライトが点灯すると正しい位置についたことになる。
5:2次元3方向カメラ
受油機は、給油機のコックピットの死角である機体後方下部から接近してくる。それをカバーするために、胴体下部に2次元3方向カメラ「SACS(Situational Awareness Camera System)」が設置されている。
KC-767の左右と後方の3方向を映し出すこのカメラの映像を見ることによって、KC-767の操縦士は自機の周りを飛行している航空機の状況や、戦闘機の編隊の状況などをくまなく確認することができる。
6:3次元立体視覚カメラ
2次元3方向カメラのさらに後方に設置されているのが3次元立体視覚カメラ「BARCS(Boom Air Refueling Camera System)」だ。
これはブームオペレーターが給油ブームを操作するために使う。このカメラで撮った画像は、ブームオペレーターが頭部に装着したヘッド・マウンテッド・ディスプレー内に遠近感が分かる立体映像として映し出される。
夜間でも映像はくっきりと見ることができる。
7:給油ブーム
ブームオペレーターは、3次元立体視覚カメラの映像を見ながらラダベータを操作して給油ブームの動きを調節し、正しい位置にきたら給油ブームの先端からノズル(テレスコーピングチューブ)を伸ばして、受油機が操作して開けた給油口に挿入し、燃料を注入する。
給油口の大きさは直径約20センチメートルほどしかない。また、受油機の機種によっても給油口の位置が異なるため、ブームオペレーターには細心の注意が求められる。
(MAMOR2023年8月号)
〈文/古里学 撮影/山田耕司(扶桑社) 写真提供/防衛省〉