他国軍艦の来訪に対し、敬意を表明するため空包を発射する「礼砲」は国際的な儀礼様式で、各国で行われている。わが国では海自が行っており、海自の港湾などの警備を担う陸警隊(りっけいたい)の全隊員が、使用する観音崎礼砲台の管理・運用をしている。国を代表する任務について、同隊の砲台長に語ってもらった。
国際儀礼の成功に向け定期的に砲台を整備し訓練
外国の艦艇が日本の港へ入る際に敬意を伝えるために21発の礼砲を撃ち、それに応えるように撃ち返す「礼砲交換」は頻繁に行われるわけではない。
「礼砲は国際的な儀礼であり、失敗は許されないので、日ごろからそのための準備をしておく必要があります」と、砲台長を務める山本浩士2等海曹は言う。
横須賀市にある観音崎礼砲台で運用されている31番砲、32番砲、33番砲と名の付いた3基の砲台は、1940年代に製造された年代物。現在のような自動で発射する大砲とは違い、砲台の整備や運用などはほぼ人力で行われている。
「取り扱いに練度が必要な砲台なので、年に1、2回は発射訓練を実施します。とくに砲弾の装てん訓練は入念に行い、座学の勉強会も定期的に開いています」
メンテナンスにも力を入れている。
「80年以上の歴史があるので、劣化している部分もあります。予備品がないため、部品が壊れると特別に製造しなければなりません。ですから、細心の注意を払って取り扱い、定期的にサビを落としたりしながら維持しています」
礼砲を成功させるにはチームプレーが重要
では、実際の礼砲交換はどのように進行するのだろうか?
「観音崎にある通信施設に双眼鏡を持った隊員がスタンバイし、迎え入れる他国の軍艦が浦賀水道に入ってきたことを確認したら、司令に報告します」
報せを受けた司令が陸警隊長に「行え!」と指示。相手が撃った21発目の音を聞き終えたら答礼を開始する。32番砲を予備とし、31番砲と33番砲とで5秒に1発ずつ、交互に礼砲を放つ。
「予備も含め、各砲台は砲台長や砲弾の装填手などの隊員が7人で運用しています。相手国に礼を欠くことがないよう、礼砲を成功させるには、全員が気持ちを1つにしたチームプレーが求められます」
プレッシャーはあるものの、任務を完遂した後は達成感を感じると山本2曹は顔をほころばせた。
<文/魚本拓 写真/村上由美>
(MAMOR2023年6月号)
※記事内容は上記掲載号の発売時点のものです