自衛隊発足以来、映画やマンガなどのエンタメ作品に自衛隊は多く登場している。かつては怪獣に手も足も出なかった自衛隊は、やがて頼れる組織として実力を発揮し、自衛官が主人公となる作品も登場するようになった。
この記事では当時の作品を例にして、自衛隊史を学生に教える際の教材にしているという防衛大学校の相澤輝昭准教授に、1950〜70年代の国民が抱いていた自衛隊のイメージを語ってもらった。
エンタメ黎明期の自衛隊は、誤解と偏見にあふれていた?
この時代の自衛隊は好意的には描かれていません。多くの作品で自衛隊は怪獣のやられ役や謎の集団として登場しています。
特撮では「さまざまな作戦で怪獣に対抗するが、最後は蹴散らされてしまう」のが定番でした。国民の間には太平洋戦争での旧日本軍のマイナスイメージが色濃く残っていたのだと思われます。
この時代にエンタメ作品で自衛隊の正しい姿をアピールするなど願うべくもなく、映画の制作に自衛隊が協力した例は東京都市大学・須藤瑤子先生の『自衛隊協力映画』(大月書店)によれば戦闘機パイロットを描いた『今日もわれ大空にあり』(1964年・東宝)など数作しかありません。これは日本を舞台に戦闘機などの装備品を描こうとすれば自衛隊が登場せざるをないといった側面もあったのだと思います。(相澤輝昭氏談)
1954年《映画》 ゴジラ
核の恐怖も描いた特撮を超えた名作
ゴジラ(DVD)
配給:東宝 監督:本多猪四郎 製作:田中友幸 原作:香山滋
出演:宝田明、平田昭彦ほか
発売・販売元:東宝
価格:2750円
作品解説
1954年11月3日公開。水爆の影響で突如南洋から出現した体長50メートルの怪獣ゴジラが首都・東京を破壊するストーリーには、太平洋戦争での広島、長崎の原爆、ビキニ環礁の水爆実験などの世相が強く反映されている。
登場する主な装備品
M24軽戦車
アメリカ軍の戦車で、日本では自衛隊の前身の保安隊に供与。昭和「ゴジラ」シリーズでは、おなじみのやられ役で登場。
F-86F戦闘機
自衛隊に供与されたアメリカ海軍の戦闘機。劇中では、ゴジラに果敢に挑み攻撃するも、あっという間に蹴散らされてしまう。
自衛隊は出るがクレジットはなし
グローバルな知名度を誇るメイド・イン・ジャパンの怪獣キャラクター「ゴジラ」。その映画の冒頭には、いきなり「賛助 海上保安庁」と出てくる。自衛隊は出てこないかというと、M24軽戦車やF−86F戦闘機、『くす』型護衛艦など、陸・海・空各自衛隊の装備品がゴジラと戦っている。
自衛隊は、映画が公開された1954年の7月に発足したばかり。どんな組織なのか分からない時期の制作のため、クレジットに名前が出ていないのかもしれない。
1963〜65年《漫画》 サブマリン707
海自潜水艦が怪事件に挑む
サブマリン707(漫画)
発行元:小学館
発売元:ビーグリー
価格:544円〜(全6巻)
作品解説
洋上で撃沈された船に乗っていた3人の少年が海上自衛隊の潜水艦に救出され、その乗組員となり、さまざまな謎の組織と対決する小沢さとるの海洋冒険漫画。1963年から2年間『週刊少年サンデー』(小学館)で連載された。
登場する主な装備品
潜水艦『おやしお』
謎の敵船を追う潜水艦として登場。現在は同名艦を練習艦として運用。
専門用語の解説がミリタリー好きに響いた
海上自衛隊の速水洋平1等海佐が艦長を務めるサブマリン707。戦闘シーン満載の海洋冒険漫画だが、海中での敵の動きを読む駆け引きなど、潜水艦のリアルな心理戦も描かれる。本編と一緒に掲載された専門用語の解説記事は、当時のミリタリー好きの少年たちに大きな影響を与えた。
戦後の日本に潜水艦を登場させるためには、自衛隊という舞台が必要だったのだろう。
1964年《映画》 今日もわれ大空にあり
防衛庁が初めて制作協力した作品
今日もわれ大空にあり(DVD)
配給:東宝
監督:古澤憲吾
出演:三橋達也、佐藤允ほか
発売・販売元:東宝
価格:2750円
作品解説
航空自衛隊浜松基地に所属する4人の若手パイロットが、当時の新鋭機であるF-104のパイロットを目指す青春ドラマ。新任の隊長との厳しい訓練や、仲間同士の絆など、隊員として成長する姿が描かれた。
登場する主な装備品
F-104
アメリカ・ロッキード社が開発した戦闘機。航空自衛隊の主要戦闘機として活躍し、1986年に全機が退役。
戦闘機の迫力ある映像が満載
防衛庁(当時)が、エンタメ作品で初めて協力した映画。冒頭に自衛隊の協力に対する感謝のテロップが流れている。パイロットの成長を描いた青春ストーリーだが、戦闘機の多種多様なアクロバット飛行の映像を数多く使用されている。撮影当時の航空自衛隊の日常や、訓練風景を知ることができる貴重な映像資料にもなっている。
1971年《小説》1979年《映画》 戦国自衛隊
戦国時代に自衛隊が戦闘を行う
戦国自衛隊(小説)
作者:半村良
発行元:KADOKAWA/角川文庫
価格:380円(電子書籍版のみ)
戦国自衛隊(DVD)
配給:東宝・東映 監督:斎藤光正
出演:千葉真一、夏木勲ほか
発売・販売元:KADOKAWA
価格:1980円
作品解説
半村良が1971年に発表した小説を79年に角川春樹事務所が映画化。2005年にも『戦国自衛隊1549』として新設定で映画化。21人の自衛官が演習での移動中に戦車ごと戦国時代にタイムスリップし、武将たちと戦うというストーリー。
登場する主な装備品
12.7mm重機関銃
戦車や装甲車などに搭載される重火器として装備されている機関銃。劇中では合戦時に使用される火器の1つとして登場。
60式装甲車
戦後日本で初めて開発された装甲人員輸送車。タイムスリップした自衛隊部隊の主要装備品として登場し、合戦で使用される。
日本人同士が戦う姿に自衛隊は協力を拒否
自衛隊が実際に戦う場面を描く手段として、タイムスリップを利用している。映画化の際は、タイムスリップするとはいえ日本人同士(自衛官と戦国武将)が戦う内容に防衛庁(当時)が協力に難色を示したため、戦車をはじめとした装備品はレプリカを作成している。
主人公の自衛官は冷静沈着な指揮官だが、戦国時代で野心に目覚める人物として描かれている。
1977年《小説》1978年《映画》 野性の証明
元自衛官を主役にしたドラマ
野生の証明(小説)
作者:森村誠一
発行元:KADOKAWA/角川文庫
価格:792円
野生の証明(DVD)
配給:日本へラルド映画=東映
監督:佐藤純彌 出演:高倉健、薬師丸ひろ子ほか
発売・販売元:KADOKAWA
価格:1980円
作品解説
森村誠一による1977年発表の小説を、角川春樹事務所が映画化。主演は高倉健だが、薬師丸ひろ子のデビュー作としても有名。大量虐殺事件の生き残りの少女と特殊部隊出身の元自衛官が巨大組織と対峙する。
登場する主な装備品
V107
救難機や輸送機として運用された回転翼が2つあるタンデム式のヘリコプター。劇中でも隊員の輸送シーンなどで登場。
自衛隊は悪の集団として描かれた
「お父さん、怖いよ。なにか来るよ。大勢でお父さんを殺しに来るよ」のコピーが有名な作品。武装した大勢の隊員が押し寄せてくるなど、自衛隊は不気味な集団として描かれている。
そのため防衛庁(当時)が協力を拒否し、撮影はアメリカ軍の訓練施設で行われた。ただ自衛隊員役の俳優は陸上自衛隊第1空挺団に体験入隊するなど、リアリティーは追求したようだ。
【相澤輝昭】
海上自衛官として掃海艦 『はちじょう』の艦長などを務めた。退官後は、外務省アジア大洋州局地域政策課専門員、笹川平和財団海洋政策研究所特任研究員を歴任。2020年より防衛大学校准教授
(MAMOR2022年7月号)
<文/古里学>