•  最近、文芸界をにぎわす元・自衛官作家たち。そこで、陸・海・空各自衛隊出身の小説家3人にエンタメ作品における自衛隊の描き方を聞いてみた。

     さらに、防衛省・自衛隊はなぜエンタメ作品に協力をするのか、その効果を防衛省に尋ねてみた。

    元海上自衛官・時武里帆

    女性艦長と自衛官の姿を通し艦艇の任務内容を楽しく描く

    護衛艦『あおぎり』艦長に抜擢された早乙女碧2佐の奮闘を描く

    『試練―護衛艦あおぎり艦長 早乙女碧―』
    発行元:新潮社
    価格:781円

     デビュー作『ウェーブ~小菅千春三尉の航海日誌~』は、自衛隊の知識ゼロで泳げない女子大生が海上自衛隊に入隊する、といった自分をモデルにした作品です。

     2008年に直接戦闘を行う護衛艦に女性自衛官が勤務できることになり、女性艦長も誕生しました。「私がチャレンジするのはこれだ!」と思い書いたのが現在のシリーズです。

     執筆時はリアリティーを追求しすぎないことを意識しています。リアルさを求めると自衛隊が舞台だと突飛なことができなくなってしまうからです。難しい専門用語の使用はなるべく避け、自衛官の行動など手続き的なことはクリアにしながらも、エンタテインメント性を高める工夫をしてドラマを書いています。

    画像: 女性艦長と自衛官の姿を通し艦艇の任務内容を楽しく描く

    【時武里帆】
    1971年神奈川県生まれ。94年、海上自衛隊入隊。練習艦『みねぐも』(現在は除籍)に勤務後、退職。2014年、小説家としてデビュー

    元陸上自衛官・砂川文次

    隊員1人ひとりの個性を描いて作品の深みを増す

    仮想の日本を舞台に北海道で勃発したロシア軍との戦いを、自衛官の主人公の視点で描く

    『小隊』
    発行元:文藝春秋
    価格:1650円

     経験や知識がある分、自衛隊は書きやすい題材ですが、自分はヘリコプターのパイロットで、一般の方にはあまりなじみがないと考え、小説では、読者がイメージしやすい普通科(外国の軍隊では歩兵に相当)などの隊員を登場させています。

     また、自衛隊が登場する小説といえば、「一丸となって任務にまい進する強い組織」として一面的に描かれることが多かったのですが、実際は、隊員には10人10様の個性があります。それを十把ひとからげに描くのではなく、1人ひとりのキャラクターが際立つよう意識して書いていますね。

     任務への責任感が強かったり弱音を吐き出して叫んだり、隊員の個性を描くことが作品のリアリティーや面白さにつながるのかと思います。

    【砂川文次】
    1990年大阪府生まれ。陸自在職中の2016年『市街戦』でデビュー。退官後の22年『ブラックボックス』(講談社刊)で第166回芥川賞受賞

    元航空自衛官・数多久遠

    教育資料作りのような感覚で自衛隊の小説を書き始めた

    航空方面隊司令官などを補佐する副官・斑尾怜於奈2尉の成長を描く

    『航空自衛隊 副官 怜於奈3』
    発行元:角川春樹事務所
    価格:770円

     作家になるというよりも、教育用資料を作ろうと思って在職中から小説を書いていました。幹部自衛官として部下や周りの隊員を見てみると、みんな自分の専門分野にはくわしくても、それ以外の職種や分野の重要性をあまり理解していません。興味を持ってもらう手段として小説を選びました。

     もし絵が上手だったら、漫画を描いていたかもしれません。今は一般の人に防衛に関心を持ってもらう手段として小説を書いています。

     気を付けているのは、読者にも分かるように書くこと。原稿はまず担当編集者に読んでもらい、理解できるかチェックしてもらいます。面白く読んでもらうために、事件などは大げさに書き、楽しく読んでもらうことを意識しています。

    【数多久遠】
    小説家、軍事評論家。航空自衛隊在職中から小説を書き始める。退官後、2014年に個人出版した『黎明の笛』(祥伝社刊)を改稿してデビュー

    防衛省・自衛隊はなぜエンタメ作品に協力するのか?

    協力で正しい自衛隊の姿を伝え、さらに身近に感じてもらいたい

    画像: 「観客や読者がミスリーディングしないよう、自衛隊本来の姿を作品を通して伝えたい」と話す安居院課長。好きなエンタメ作品は『トップガン』 撮影/SHUTO

    「観客や読者がミスリーディングしないよう、自衛隊本来の姿を作品を通して伝えたい」と話す安居院課長。好きなエンタメ作品は『トップガン』 撮影/SHUTO

     誰もが楽しめるエンタテインメント作品を通じて自衛隊を知ってもらい、防衛省や自衛隊をもっと身近に感じてもらうこと、それがエンタメ作品の制作に協力する理由だと防衛省大臣官房広報課の安居院公仁課長は語る。

    「まずは自衛隊が出る作品を楽しんでもらいたいです。そして登場する装備品の魅力を感じてもらいたい。その上で、自衛隊を正しく知ってもらいたいです」

     過去には自衛隊に対する誤った情報が発信されるような作品もあり、苦い経験もあったという。ロケ地や資料提供など協力の仕方は作品によりケースバイケースだが、場合によっては企画段階に制作側からアドバイスを求められることもある。

    「これからも、できる限り協力はしていきます。今、自衛隊に好感を持ってもらえるようになったのも、私たちの先人が人知れず苦労したから。自衛隊への理解をさらにより一層高めていくために、できることはどんどんやっていきたいですね」

    (MAMOR2022年7月号)

    <文/古里学>

    エンタメ作品で描かれる自衛隊変遷史概論

    This article is a sponsored article by
    ''.