自衛隊発足以来、映画やマンガなどのエンタメ作品に自衛隊は多く登場している。かつては怪獣に手も足も出なかった自衛隊は、やがて頼れる組織として実力を発揮し、自衛官が主人公となる作品も登場するようになった。映画『シン・ウルトラマン』やドラマ『テッパチ!』(フジテレビ系)などは記憶に新しいところだ。その描かれ方は、まさに国民が持つ自衛隊のイメージの反映ではないだろうか?
その変遷を、自衛隊史を学生に教える際の教材にしているという防衛大学校の相澤輝昭准教授に語ってもらった。
エンタメ作品を通して自衛官の努力を知る
防衛大学校で自衛隊史を担当する相澤輝昭准教授は、授業の合間に毎回「エンタメ作品に見る自衛隊の描かれ方」という5分間ほどのミニ解説を行っている。自分たちが所属する組織の歴史や社会との関わり方を学ぶことは、防大に限らずどの世界でも重要である。
その自衛隊史の講義の中で、学生に興味を持ってもらおうという狙いとともに「自衛隊が国民にどのように受け止められてきたか」を知るため、映画や漫画などでの自衛隊の扱われ方を取り上げているという。
「われわれの先人が自衛隊のイメージアップのためにどのようなことをしてきたかを、エンタメ作品の中で見ることができます。今でこそ国民の約9割が自衛隊に好印象を抱いていますが(注)、これは一朝一夕に築かれたものではありません。先輩たちの努力の軌跡を知ることも、ミニ解説の重要な目的です」
編集部注:2018年「自衛隊・防衛問題に関する世論調査」(内閣府大臣官房政府広報室)より
冷戦の終結とともに身近な存在になっていく
戦後間もないころは、今では信じられないほど自衛隊へのネガティブなイメージが強く、エンタメ作品では頼りにならない集団として登場することも多かったが、国内外の情勢が変化するにつれ、国民の自衛隊に対する意識も変わっていったようだ。
その理由を相澤准教授は「1989年の冷戦終結とともに自衛隊の役割が変化し、国際協力や災害派遣など人々の目に見える活動が増加したことが大きいでしょう。また日本の周辺に現実の脅威が存在することが国民にもはっきりと見え、国防にあたる自衛隊が身近な存在になってきたこともあります」と語る。
また、自衛隊が出動する際も実際の法律に沿って命令が下されるなど、よりリアルに描かれた作品も登場するようになった。
「自衛隊のエンタメ作品への協力は、活動を幅広く国民に知ってもらう貴重な機会です。もちろん広報効果と本来任務への影響などは検討する必要はありますが、今後もより積極的に対応していくことが望まれるでしょう」
【相澤輝昭】
海上自衛官として掃海艦 『はちじょう』の艦長などを務めた。退官後は、外務省アジア大洋州局地域政策課専門員、笹川平和財団海洋政策研究所特任研究員を歴任。2020年より防衛大学校准教授
(MAMOR2022年7月号)
<文/古里学>