自衛隊の普通科は各地域に配備された普通科連隊を含めて、島しょ部への脅威や多様化する事態に合わせて迅速に対応するため、9種の部隊がある。それぞれの部隊の任務や特徴を紹介しよう。
普通科連隊:各職種の支援を受けながら協同で敵に向かう
陸上戦闘において第一線に前進し、敵陣地を確保する
普通科連隊の任務は陸上戦闘によって目的地を確保すること。第一線へと前進する際は、まず野戦特科が後方から155mmりゅう弾砲FH70などの火力で敵地を砲撃して支援。普通科部隊が高機動車、軽装甲機動車などで移動するときには、機甲科の戦車などが協同で作戦に当たる。
また敵と対峙する場合、離れた距離からは普通科の重迫撃砲中隊の120mm迫撃砲RTや普通科の迫撃砲小隊の81mm迫撃砲L16などの火力で敵地を攻撃、敵戦車などは後方から中距離多目的誘導弾や普通科の各対戦車小隊の87式対戦車誘導弾で撃破する。
普通科の各小銃小隊の01式軽対戦車誘導弾は戦車などとの近接戦闘に使用する。
120mm迫撃砲RT
日本国内で生産されている迫撃砲。装輪により車両でのけん引が可能。けん引する際は専用のフックを砲の先端に取り付けて移動する。
<SPEC>口径:120mm 砲身長:2.08m 重量:約600kg
81mm迫撃砲L16
本体重量が約38キログラムと非常に軽量な迫撃砲。分解して容易に持ち運ぶことができるため、山中など車両で運ぶことができない場所にも展開可能。
<SPEC>口径:81mm 砲身長:1.28m 重量:約38kg
中距離多目的誘導弾
舟艇や装甲車などさまざまな目標に対処が可能な誘導弾。車両への搭載のほか、航空機による空輸や投下も可能なため、離島にも即時に展開できる。
<SPEC>全長:1.4m 胴体直径:14cm 重量:約26kg(数値は誘導弾本体)
87式対戦車誘導弾
対戦車小隊に装備されている、敵戦車などを撃破するための中射程の対戦車誘導弾。国内初のレーザ誘導方式を採用。比較的軽量。
<SPEC>全長:約1.06m 重量:約12㎏(数値は誘導弾本体)
01式軽対戦車誘導弾
主として近距離域の戦車との戦闘において、敵戦車などを撃破するために使用する誘導弾。
<SPEC>胴体直径:約140mm 全長:約0.97m 重量:約11.4㎏ 発射速度:4発/分(数値は誘導弾本体)
機械化連隊:戦車と協同戦闘を前提とする普通科唯一の部隊
機甲戦闘力を生かし、敵を戦場に捉え、撃滅する
北海道東千歳駐屯地の第7師団隷下の第11普通科連隊は、戦車と共に戦闘する陸自普通科唯一の機械化連隊である。1954年に創設され、81年に完全機械化部隊となった。
6個の普通科中隊と重迫撃砲中隊で編成され、このうち第1普通科中隊など奇数ナンバーの中隊には89式装甲戦闘車が、第2普通科中隊など偶数ナンバーの中隊には73式装甲車が配備されており、戦車と行動を共にしながら戦闘に参加する。
機甲戦闘力を発揮し、敵を戦場に捕捉し撃滅させる役割を担う。後方からの迫撃砲によって前線部隊を支援する重迫中隊も戦車のスピードについていけるよう、96式自走120mm迫撃砲を有している。
89式装甲戦闘車
連続発射が可能な機関砲と機関銃が装備されている装軌車。砲撃下でも銃眼孔(小窓)から射撃できる。
<SPEC>全幅:3.2m 全長:6.8m 全高:2.5m 全備重量:約26.5t 最高速度:約70km/h 乗員:10人
73式装甲車
普通科隊員の戦場での移動に使う装甲人員輸送車。後部ハッチにある銃眼孔(小窓)から射撃できる。
<SPEC>全幅:2.9m 全長:5.8m 全高:2.21m 全備重量:約13.3t 最高速度:約60km/h 乗員:12人
96式自走120mm迫撃砲
120mm迫撃砲RTなどの火器を搭載した自走迫撃砲。無限軌道による機動性と、装甲防護性に優れる。通称「ゴッドハンマー」。
<SPEC>全幅:2.99m 全長:6.7m 全高:2.95m 全備重量:23.5t 最高速度:約50km/h
水陸機動連隊:陸上総隊直轄で水陸両用作戦を担う唯一の部隊
占領された島しょを速やかに奪回し、敵を排除する
万が一、島しょ部などを占拠された場合、速やかに上陸・奪回・確保を任務とする水陸機動団の主力部隊として2018年に編成された水陸機動連隊は、長崎県佐世保市の相浦駐屯地に所在し、本部管理中隊と3個の中隊および対戦車中隊からなる。
占拠された島しょ部を奪還する際は、海上自衛隊と連携し、輸送艦より戦闘上陸大隊の保有する水陸両用車などで上陸する。また航空科部隊の保有する輸送ヘリコプターから隊員が海上などに降下して敵地に接近していく。任務の特徴から隊員は全員が水泳能力を持っており、また多くの隊員がレンジャー資格を保有するなど、唯一無二の部隊として活躍する。
即応機動連隊:各職種をパッケージ化し、機動力抜群
不穏な事態に対し、素早く部隊を展開し対応する
普通科部隊を中心に、重迫撃砲を扱う特科の火力支援中隊と機甲科の機動戦闘車部隊などが一体となり、複数の職種を1つにまとめてパッケージ化した部隊が即応機動連隊で、各種事態に対し緊急対応するのが役目。2018年に発足、現在北部、東北、中部、西部の各方面隊に即応機動連隊があり、今後さらに数が増える予定だ。
主要装備品の16式機動戦闘車は、10式戦車よりはるかに軽量なので輸送機での空輸が可能なだけでなく、高速で車道を走行でき、機動性に優れている。連隊内には高射小隊や施設作業小隊も編成されている。
中央即応連隊:陸上総隊の直轄化にあり緊急対応する
増援部隊になるほか、海外派遣部隊の先遣隊にもなる
陸上総隊の直轄下にある中央即応連隊は、国内での不測事態発生時に方面隊の増援部隊となるだけでなく、国際平和協力活動などで海外に派遣される部隊の先遣隊として、主力部隊到着までの活動基盤の準備などに携わる。
所在地は栃木県宇都宮駐屯地。現地情勢が混沌としている海外に派遣されることが多いため、現地の邦人の保護や輸送を行うことがあり、IED(即席爆発装置)にも対応できる輸送防護車を装備。これまでにジブチでの海賊対処への取り組み、ハイチ・南スーダンPKO、アフガニスタンでの邦人輸送のため海外派遣されている。
輸送防護車
地雷の爆風を逃がす車体を採用した装輪装甲車。輸送機に搭載して空輸できるため、海外派遣も可能。
<SPEC>全幅:2.48m 全長:7.18m 全高:2.65m 全備重量:約14.5t 最高速度:約100km/h 乗員:10人
普通科大隊/空挺団:空中から目的地に降下する日本唯一の落下傘部隊
千葉県習志野駐屯地に所在する第1空挺団は、航空機から落下傘で目的地に降下する空中機動作戦など、多種多様な任務を遂行する日本で唯一の落下傘部隊である。
高い即応力と機動力が特徴で、特殊な任務に携わるため陸曹以上は空挺レンジャー課程を修了しなければならない。2020年に初めて女性空てい隊員が誕生して話題となった。
対舟艇対戦車隊:普通科だがミサイル攻撃で火力支援を行う
陸上自衛隊が導入している対戦車ミサイルの中で最も射程の長い96式多目的誘導弾システムを運用し、戦車や領土内に近づこうとする敵の輸送船や上陸用舟艇への攻撃を任務とする部隊。
普通科の部隊ではあるが、野戦特科職種のように火力戦闘を専門とする。2つの部隊があり、北海道の倶知安駐屯地と大分県の玖珠駐屯地に駐屯している。
96式多目的誘導弾システム
上陸前の敵の舟艇や、地上戦闘における戦車などを遠距離から撃破できる。誘導弾が赤外線で目標を捜索し、その画像を射手が見て誘導弾を命中させる。
<SPEC>胴体直径:約160mm 全長:約2m 重量:約60kg(数値は誘導弾本体)
普通科中隊/警備隊:3つの離島に配備され島しょ部の守りを固める
陸上自衛隊では、対馬、奄美、宮古の3島に、離島に対する攻撃に対処する役割を担う、普通科の部隊を基幹とする警備隊を置いている。一番新しい宮古警備隊は、南西諸島周辺の軍事的脅威の高まりに対応し、沖縄以西の離島防衛体制を強化するため、2019年に新編された。少人数で離島に侵入、破壊活動を行う敵部隊に対処する。
普通科教導連隊:全普通科のモデルとなる教育支援の部隊
富士教導団(本部は富士駐屯地)隷下の普通科教導連隊は、富士学校の教育訓練や調査研究を支援し、また全国の普通科の指標となるべき部隊として、静岡県滝ヶ原駐屯地に駐屯している。1956年の創設で、本部管理中隊、4個普通科中隊と重迫撃砲中隊で編成される。最新の装備を保有し、富士総合火力演習では主力部隊となる。
※マンガは有事発生の想定で描いたフィクションです。また、セリフは実際と異なります。
<文/古里学 マンガ/竿尾悟>
(MAMOR2022年1月号)