•  装備のハイテク化が進んだ現代でも人間が中心の歩兵部隊の重要性は変わらない。しかし、世界情勢に合わせ、各国の歩兵部隊は変化しつつある。そのトレンドとは何か。海外の軍隊事情に詳しい、軍事ジャーナリストの竹内修氏に伺った。

    戦後の統治に欠かせない歩兵部隊の存在と役割

    画像: アメリカ軍向けに製造された高機動多用途装輪車両、ハンビィー。1985年より量産が始まり、1991年の湾岸戦争で実戦に大量投入されたことで、国際的に知られるようになった 写真/U.S. Army pictures

    アメリカ軍向けに製造された高機動多用途装輪車両、ハンビィー。1985年より量産が始まり、1991年の湾岸戦争で実戦に大量投入されたことで、国際的に知られるようになった 写真/U.S. Army pictures

     マンパワーが武力となる歩兵部隊には、それゆえにほかの部隊では対応できない任務がある。現代の陸上戦闘では、歩兵部隊は戦車などの騎兵部隊、りゅう弾砲など火力を有する砲兵部隊と協同して作戦を遂行する。圧倒的な火力を誇る戦車でも、至近距離の敵歩兵には対応しづらく、砲兵部隊も攻撃には弱い。そのため3職種が連携し、お互いの弱点を補完し合うことにより作戦のスムーズな遂行が可能になる。

     また目的地の占領、奪還後も歩兵部隊の任務は続く。戦後その地域の安定化、継続した統治はテクノロジーではなく人間にしかできないので、その任を担うのも歩兵部隊の役割となる。

    「太平洋戦争終了後の日本では、まだ警察が機能していたのですが、それでも占領軍は数十万人ともいわれる歩兵部隊を日本に上陸させました。それに対し近年の対アフガニスタン、イラクでのアメリカ軍は、空爆や特殊部隊の活躍により歩兵部隊の戦闘はあまりなく、その分進駐した人数が少なかったため、戦後の治安は回復せず混乱が続きました」。竹内氏はそう語る。戦争目標の達成には戦地の秩序回復が必要で、そのためには歩兵部隊が現地で存在感を発揮することが欠かせないというのだ。

    求められるのは機動力とより効率的な部隊の運用

    画像: アメリカ陸軍の装輪装甲車に選定されたストライカー。それまでハンビィー(上の写真)のみで移動していたアメリカの陸軍歩兵に、弾丸に対する防護力、火力、戦える機動力を与えた 写真/U.S. Army pictures

    アメリカ陸軍の装輪装甲車に選定されたストライカー。それまでハンビィー(上の写真)のみで移動していたアメリカの陸軍歩兵に、弾丸に対する防護力、火力、戦える機動力を与えた 写真/U.S. Army pictures

     このように現代でも重要性の高い歩兵部隊だが、最近では各国ともより機動力を強化する傾向にある。アメリカ軍の歩兵旅団戦闘団は、兵員は高機動多用途装輪車両で移動、さらにストライカー旅団戦闘団(注:ストライカー装輪装甲車を装備した3個歩兵大隊と騎兵、砲兵、工兵、支援の各1個大隊で構成される戦闘団)の3個歩兵大隊は、火力を持つ装輪装甲車で現地へ向かう。

    画像: 16式機動戦闘車

    16式機動戦闘車

     陸自の即応機動連隊にも、装輪の16式機動戦闘車が配備されている。戦車よりは軽量で輸送しやすい上に一般道を高速で走行できるなど、歩兵部隊が機動力に優れた車両を導入することが多くなった。

     大規模な戦力、兵員を投入して多大な消耗が生じるかつての戦争と違い、現在では小さな紛争段階で事態を収拾するというのが国際的な流れとなっている。そのために有事に即応できるよう、歩兵部隊には高速化が求められるようになった。

     また軍の任務が国防や地域の安定化だけに限らず、災害派遣などの非軍事作戦に投入される機会が多くなったため、限られた予算、人員の中で効率よく部隊を運用するためには、移動や輸送にかかる時間を減らしたり、指揮通信能力を強化する方向にあると竹内氏は説明している。「特に日本は少子化が進んで自衛隊員を増やすのは難しい状況にあります。しかし日本の周辺事情は複雑化する一方、自然災害は年々頻発しています。隊員個人にかかる負担をどれだけ軽減できるかが、これからの普通科の課題ですね」。そう締めくくった。

    竹内修氏

    【竹内 修】
    海外の軍需企業などへの取材に基づく記事を執筆。著書に『全161か国 これが世界の陸軍力だ!』(笠倉出版社)など

    「普通科」あっての陸上自衛隊!

    <文/古里学 写真提供/防衛省>

    (MAMOR2022年1月号)

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