陸上自衛官の中でも一握りの者だけがなれるレンジャー。高いハードルの素養試験をクリアした後には、さらにハードな教育課程が待っている。それを修了した隊員には陸自最強の証しであるレンジャーき章が授与される。
レンジャーになるための訓練とは
敵の目を欺きながら襲撃、伏撃、情報収集などを行い、主部隊の作戦を助けることを任務とするレンジャー。隊員になるには、11週にわたる過酷なレンジャー教育課程を修了しなければならない。教育訓練は各師団・旅団の普通科連隊が担任する。教育期間中、学生は2人1組となり、食事、入浴まで常に一緒。1人のミスは2人の連帯責任となる。また教官の指示に対し一切反論や口答えは許されず、返事は「レンジャー!」のみ。
教育期間の前半は体力と各種技術を徹底的に養成する基礎訓練で、連日、懸垂、腕立て、長距離走、ロープによる下降などの体力錬成が行われ、締めくくりは誰もが地獄という小銃を持っての10マイル走になる。基礎訓練が修了すると実戦を想定した行動訓練に移る。学生は3段階9つの実戦行動を行うが、後半に進むほど想定シナリオは難度を増していく。
そのラストがレンジャー名物の長距離潜入を伴う遊撃行動だ。学生は40~50キログラムの荷物を担ぎ、山中を4日間不眠不休で踏破して任務を達成する。レンジャー資格を獲得しても、もらえるのはレンジャーき章だけ。待遇面の優遇もないが、レンジャーとしての誇りを手にするのだ。
レンジャーが語る、レンジャーになるまでの険しい道のり
教官との約束を果たして教育訓練に2度参加
2006年にレンジャーに!
【第34普通科連隊本部管理中隊梅原大資2等陸曹】
梅原2曹は、レンジャー養成訓練に2度挑戦している。「1度目は訓練中に肩を脱臼してしまい、途中で断念しました。そのときに主任教官に、もう一度戻って来いと言われて、再挑戦を約束しました」。教育訓練できつかったのは基礎訓練の体力調整。10キログラムの重量のレンジャー旗を持って走る訓練は特につらかったという。
厳しい訓練を経験して自分の弱さと向き合った
2019年にレンジャーに!
【第34普通科連隊本部管理中隊 佐藤 篤3等陸曹】
レンジャー隊員のカッコよさに憧れて目指したという佐藤3曹。しかし自分の力不足から、想定訓練中にバディに荷物を持ってもらうなど迷惑をかけたときは、本当に申し訳なく思ったという。
「全員で任務を完遂することがレンジャーの基本。訓練で自分の弱さと徹底的に向き合ったことで、自分に厳しく人に優しくなりました」
任務に合わせた各種レンジャーがある
全国の普通科連隊で実施されているレンジャー教育だが、部隊によっては独自の特色を持ったレンジャーを育てている。その部隊にしかないレンジャーを紹介しよう。
幹部レンジャー
レンジャー教育の教官を育てる幹部レンジャー課程は、静岡県の富士学校普通科部で実施。学生は各地からの選抜で、レンジャーだけでなく指導者としての教育も行われるので、教育期間は13週と長い。
山岳レンジャー
長野県の松本駐屯地の第13普通科連隊では、山岳地帯での戦闘や人命救助を任務とする山岳レンジャーを育てている。雪深い3000メートル峰をフル装備で踏破するなど、連隊ならではの厳しい訓練を行う。
冬季遊撃レンジャー
北海道の真駒内駐屯地の冬季戦技教育隊は、ゲリラ戦に加えて雪中戦を展開できる隊員教育を行っている。対象はレンジャー課程を修了し、自衛隊内のスキー検定で2級以上の隊員で、真冬に雪山で訓練を行う。
空挺レンジャー
千葉県の習志野駐屯地にある第1空挺団は、落下傘で敵地に潜入するのを任務とする。隊員全員がレンジャーを目指すため、「空挺レンジャー」の課程が設置されている。陸自随一の精鋭部隊で、訓練は過酷そのもの。
<文/古里学 撮影/江西伸之(レンジャーの顔写真、山岳レンジャー)、長尾浩之(空挺レンジャー) 写真提供/防衛省>
(MAMOR2022年1月号)