•  高性能の戦闘機も、前線に弾薬や燃料を運ぶ輸送機も、滑走路がなければ任務を果たすことができない。敵に滑走路が狙われる理由はそこにある。よって攻撃されて破損した滑走路は、すぐさま復旧せねばならないのだ。その任務を担う航空施設隊が、実際の爆薬を使って模擬滑走路を爆破して復旧を行うという、大がかりな訓練を行っている。中部航空施設隊がメインとなり、最新鋭の機器を導入して行った滑走路被害復旧訓練をリポートしよう。

    「被害復旧訓練」に密着。訓練内容を段階別に解説する

     実爆をともなう滑走路被害復旧訓練は、各航空方面隊の航空施設隊が年に1回行う大規模な復旧訓練だ。取材時は、模擬滑走路の爆破、被害状況の調査、各種復旧作業が3日がかりで行われた。甚大な被害を被った滑走路の復旧の様子を3回に分けてお届けする。今回は前編だ。

    模擬滑走路を爆破

    ミサイル攻撃を想定した、滑走路に広がる多数の弾痕

    画像: ミサイルなどによって攻撃された状態を再現するため、爆破される模擬滑走路。複数回に分けられ、多数の弾痕が刻まれた 写真提供/防衛省

    ミサイルなどによって攻撃された状態を再現するため、爆破される模擬滑走路。複数回に分けられ、多数の弾痕が刻まれた 写真提供/防衛省

     重機の操作といった各部隊が行っている個別の訓練では、実際の爆破の被害状況までは体感することができない。限りなく本物に近いリアルな現場での経験を積むと同時に、各種土木機器、資材、装備品の運用状況の検証、またスピーディーに進行するためのチーム作業の段取り確認などを目的として、毎年、実爆をともなう滑走路被害復旧訓練が行われる。

     訓練はその年によって違う航空方面隊の航空施設隊が担当となり、今回は中部航空施設隊を中心に訓練部隊が編成された。訓練全体を統括する滑走路被害復旧隊の下に、弾痕の復旧作業を行う復旧小隊と、重機類を操縦する器材小隊が置かれるが、例えば被害を観測するドローンの運用部隊は南西航空施設隊から、敵の爆弾のうち爆発しなかったもの(不発弾)の処理担当は小松基地の武器弾薬小隊からと、関連部隊が集まり訓練に臨んでいる。訓練が行われた白河布引山演習場(福島県)は陸上自衛隊が管轄する演習場。訓練に使用した模擬滑走路は本物と同じ構造で、中部航空施設隊がこの日のために造ったものだ。

    以前まで行われていた、敵航空機からの爆弾投下を想定した実爆訓練の弾痕。直径は約10メートル、深さは約3メートルある 写真提供/防衛省

     訓練初日はまず、演習場内の模擬滑走路の爆破から始まる。2018年までの訓練では、敵航空機からの爆弾投下によって大きな弾痕被害を受けたことを想定した被害の復旧を実施していた。しかし、近年、日本を取り巻く安全保障環境は大きく変化している。これらの変化に対応していくため、今回は、ミサイル攻撃を想定しての訓練となった。発射されるミサイルの種類によっては、広範囲に多数の小弾痕が広がることも考えられ、その分被害範囲は航空機からの爆弾投下よりも拡大する恐れがある。今回、中部航空施設隊では初めて、小弾痕による被害を想定して訓練を行ったのだ。

     爆破は、最初に模擬滑走路に穴を開け、そこに爆薬を設置する。周囲の安全を確認した後、遠隔操作で爆破。小弾痕用の爆薬とはいえ、爆破音とともに火柱が上がって空中にコンクリート片や土が舞い上がり、その威力は予想以上にすさまじい。爆破は6回にわたって繰り返され、終わった後には模擬滑走路いっぱいに多数の弾痕が残された。

    被害状況の調査

    ドローンの導入で迅速で安全、確実な調査が可能に

    吹き飛んだコンクリートが散らばり、弾痕は地中の鉄筋がむき出しになった小弾痕。地下水が溜まり、作業の困難さがうかがえる

     滑走路被害復旧の第一歩は被害状況の調査から始まる。2018年までは、最初に現場より離れた場所から目視や双眼鏡で確認した後に、現場へ進出し被害状況を把握していた。その際に不発弾がないか注意しながら行動する必要があり、また放射線や毒ガスなどの目に見えない脅威が想定される場合は、特殊防護衣を着用しての現場進出となっていた。しかし近年ドローンの導入により、迅速かつ安全に調査が行えるようになった。

    画像: ドローンから撮影された映像は、指揮所の解析班のパソコンに伝送され、測量されたデータは地形の凹凸が分かる3D地図の作製に使用される

    ドローンから撮影された映像は、指揮所の解析班のパソコンに伝送され、測量されたデータは地形の凹凸が分かる3D地図の作製に使用される

     ドローン運用チームは7人。指揮官以下、操縦要員が2人、ドローンから送られてきたデータの解析係が2人、さらにドローンが飛行する現場への人の立ち入りの有無や上空の風向き、風力などをチェックする安全係2人で構成される。

    画像: 現場にはいくつか模擬の不発弾が置かれ、ドローンの映像で不発弾の個数や位置を確認した後、専門部隊が安全に処理する

    現場にはいくつか模擬の不発弾が置かれ、ドローンの映像で不発弾の個数や位置を確認した後、専門部隊が安全に処理する

     安全係の「現場、よし」の声に続いて、いよいよ指揮官よりドローン飛行の命令が発せられた。8つのプロペラを回転させたドローンは、模擬滑走路を見下ろす位置にある指揮所の脇から、あっという間に上空に舞い上がる。ドローンによる飛行は3回。1回目は自動航行で現場上空を飛び、地上の模様を撮影する。2回目はその後に行われるレーザー計測のために姿勢制御の確認・微調整を行う飛行で、3回目はレーザー測量機器を搭載して飛行・測量する。各飛行は短時間、現場上空を航行。得られた測量データは、すぐに解析係の手で3D画像に加工され、各部隊に共有された。

    画像: ドローンの飛行後、航空施設隊の隊員が現場に入り、弾痕の大きさや被害の規模を調査して、復旧作業の段取りを詰めていく

    ドローンの飛行後、航空施設隊の隊員が現場に入り、弾痕の大きさや被害の規模を調査して、復旧作業の段取りを詰めていく

     今回、ドローンの操縦を担当した南西航空施設隊の本吉大2等空曹は、ドローンを扱い始めて3年目。訓練の内容を次のように振り返った。

    「風の影響を受けやすいドローンを、どの高度で航行させるのか設定に悩みました」と現場での難しさを語る本吉2曹

    「現場が凹地であったため、風向き風速が安定しないこと、また天候の急変、さらには山中で木が多いので機体と色がまぎれやすいことなど、部隊で訓練するときよりも難しかったですね。ドローンは天候による影響を受けやすい。さまざまなことに気を配りながら操縦しました」

    画像: ドローンの導入で迅速で安全、確実な調査が可能に

    【小型無人航空機(ドローン)】

    <SPEC>全長:1.1m 全幅:1.1m 全高:0.45m

    被弾した滑走路を速やかに復旧せよ!

    <文/古里学 写真/荒井健>

    (MAMOR2021年12月号)

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