総理指示からセンター開設まで、わずか1カ月。防衛省を含む各省庁、自治体、民間企業が協同して推し進めた自衛隊ワクチン大規模接種「作戦」の内幕を、大規模接種センターの統括リーダーを担った、防衛省人事教育局の日下英司衛生官に聞く。
大規模接種の実現に欠かせなかった自衛隊
まず、なぜ自衛隊に今回の任務が与えられたのか、改めて聞いた。
「予防接種法では、ワクチン接種の実施主体は市区町村と定められています。しかし、新型コロナウイルスの感染状況は、ある種の有事。自衛隊は有事でも円滑に活動できるよう、自前で医官・看護官を持ちます。国が自治体を支援するには、自衛隊の投入しかないという結論に至ったのでしょう」
大規模接種会場の運営には、防衛省・自衛隊のほか、感染症対策を主管する厚生労働省、関係自治体、それを管轄する総務省、さらには予約システムや会場での受付業務などに協力した民間企業と、多くの関係機関との連携が必要となった。
「設置まで時間のない中で行われた関係各所との調整では、苦労もありました。しかし、全ての関係者がスムーズな接種進行という目的の下、一致団結し、どこまでできるかを念頭に努力した結果、非常に良い成果が得られたと考えています」
運営面での課題も
会場運営の面では、自衛隊内部での調整にも苦慮する場面があった。その1つが人材不足。自衛隊の医官・看護官も通常業務をおろそかにはできず、各自衛隊病院や部隊から派遣された人員をフル稼働させても不足ぎみ。また、自衛隊には災害派遣の経験こそあれど、大勢の民間人の受け付けや誘導には不慣れだった。
「民間からの看護師派遣や、旅行業者との協力なくして、スムーズな接種実施は不可能でした。彼らのノウハウ、マンパワーは重要でした」
最後に、異例のオペレーションとなった今回の大規模接種について、統括リーダーとしての感想を聞いた。
「民間の力を活用した今回のオペレーションは、自衛隊としても異例ずくめであり、不安もありました。しかし、各方面の協力でスムーズに実施することができました。結果、民間との協同によって自衛隊ができることの幅がより広がったことは、防衛省としても自信につながりました。運営に携わった全ての隊員と民間の方々に深く感謝いたします」
(MAMOR2021年11月号)
<文/臼井総理(インタビュー記事) 写真提供/防衛省>