新型コロナウイルスへの対応で一躍、注目を集めた自衛隊中央病院
2020年2月、クルーズ船『ダイヤモンド・プリンセス号』で発生した新型コロナウイルス感染症患者をいち早く受け入れた自衛隊中央病院。医療従事者の感染ゼロを継続しながら、今も市中感染の患者を受け入れ続けています。
ここは“自衛隊員の病院”でありながら、日ごろは地域住民の診察・診療も行い、ひと度、大規模災害などが起これば、日本医療の“最後の砦”となり、国民を守るのです。
有事に備える、自衛隊中央病院の特徴的な設備
東京都世田谷区、陸上自衛隊三宿駐屯地に所在する自衛隊中央病院。現在、全国に16ある自衛隊病院の中枢であり、「最終後送病院」として重症の傷病者を受け入れる、まさに「最後の砦」たる医療機関だ。
同病院は1956年に自衛隊員のための職域病院として開設。93年には保険医療機関に指定され地域住民にも開放。さらに救急病院として、多数の救急患者も受け入れている。現在は利用者の約半数が自衛隊員以外の民間人だ。
自衛隊中央病院は、有事に備え、いかなる事態でも診療態勢を維持できるよう、ほかの病院にはあまり見られない珍しい設備を持っている。まずは自衛隊病院の持つ、有事に即応する特徴的な設備を紹介しよう。
大型ヘリコプターが離着陸可能な病院として都内唯一のヘリポート
地上10階建ての病院本館屋上には40×27メートルのヘリポートがあり、患者の搬送に対応している。病院としては都内で唯一、陸上・航空自衛隊が装備するCH-47J輸送ヘリコプターのような大型ヘリコプターが離着陸できる。ヘリポートは実際に患者搬送に利用されている。
体に付いた化学剤などを洗う専用のシャワー設備を設置
感染症以外に化学剤や放射性物質への対策も万全。救急外来入り口に、身体に付着した化学剤などを洗い流せるよう、専用のシャワー室がある。シャワー室は特別な空調設備があり、室内の空気圧をコントロール。ウイルスや化学剤などが外に漏れないよう陰圧になっている。
外部にウイルスが流出するのを防ぐ清潔な衛生環境を維持する洗濯施設
地下に専用の洗濯施設がある。大型洗濯機、乾燥機、プレス機などを備え、シーツなどのリネン類、白衣やスクラブ(Vネックの半袖で色の付いた医療従事者用の服)などを洗濯し、医療の現場を下支えする。クルーズ船からの大量の新型コロナ患者を受け入れた際も、フレキシブルに対応できた。
震度7の地震が起こっても半分程度に抑えられる免震装置
病院の地下には免震装置がある。地震発生時には最大で数十センチもたわんで揺れを吸収し、震度7クラスの地震があっても半分程度の震度レベルにまで揺れを抑えることができる。実際、2011年の東日本大震災では、発災当時手術が行われていたが無事終えることができたという。
医療活動を止めぬよう、灯油でも稼働できる自家発電装置を設置
外部からの給電が断絶したときにも医療活動が停止することがないよう、地下に自家発電装置を2基備えている。自家発電装置は平常時は都市ガスで運転しているが、非常時には灯油で運転することも可能だ。そのため自衛隊中央病院では常に必要量のの灯油を備蓄している。
(MAMOR2021年2月号)
<文/臼井総理 写真/村上淳>