• 画像: 飛行の前にYS-11FCのコックピットの機器を点検する機上整備員。飛行中にはパイロット2人の操縦を補佐する

    飛行の前にYS-11FCのコックピットの機器を点検する機上整備員。飛行中にはパイロット2人の操縦を補佐する

     切れ目なくほぼ1年中、全国の自衛隊の航空保安施設を検査している飛行点検隊。隊員にとってどのような任務なのか、その実像に迫った。

    飛行点検は対象施設が正しく機能しているか検査する

    飛行点検で使用されるセオドライト。上部に取り付けられたカメラをのぞき、点検機の進入角度を計測する

     飛行点検隊では4種類の飛行点検を実施している。運用中の航空保安無線施設などを定期的に検査する「定期飛行点検」。改修や修理などで施設が大きく変更され運用を再開する前に行う「特別飛行点検」。新たに建設する施設の位置を調査する「設置位置調査」。そして、施設が完成した際、運用開始に先立って行う「初度飛行点検」だ。

     飛行点検隊の任務は、部隊から飛行点検の依頼を受け、その概要を書類で確認・計画するところから始まる。次に、依頼した部隊の過去の飛行点検のデータや同部隊の飛行場の進入経路、その飛行場の運用規則、周辺の航空地図などをもとに飛行点検計画書を作成。任務にあたるクルーと飛行点検の内容について事前にブリーフィングを行う。飛行点検の当日はフライトが可能か天候を判断。フライトが可能となれば、現地へと出発する。

     点検対象の施設に到着すると、計画に応じて多岐にわたる項目を検査する。例えば、精測進入レーダー(PAR)の場合、各飛行場で規定されている航空機の進入角度で着陸できるよう、レーダーが正しく機能しているかを点検する。そのため、点検機は進入角度の直線上の上下を波を打つように飛ぶ「縦振り飛行」や、左右にジグザグに飛ぶ「横振り飛行」を行う。

     それに対し、現地の管制官と機上無線員はそのポイントが実際に規定の角度の位置を飛んでいるのかを自動飛行点検装置でチェックする。なお、この検査は飛行場に隊員を配置して行うこともあり、その場合はもう1人の機上無線員がセオドライトという測量計のような器材を地上に設置し、進入角度を測定する。

     このようにして装置の状態を評価し、合格・不合格の判定をする。不合格の項目があれば飛行場を管理する部隊に修正などを実施させ、再度点検を実施することも。それらを終えたら、点検を受けた部隊とのミーティング、ミッションに参加したクルーとのブリーフィングを経て、飛行点検報告書を作成すれば任務終了となる。

    クルーや管制官と連携して安全・確実に遂行する

    パイロット

    土屋3佐はパイロットの指導教官として後継者の育成にも力を注いでいる

    「飛行点検をする上で一番重要なのは、綿密な計画を作ることです。具体的には、必要な点検項目の抽出、航空地図を用いた点検経路の作図、経路付近の飛行禁止空域(原発施設など)や障害物(山、アンテナなど)の確認、効率を考えた点検順序の選定、考えられるリスクの整理です」と、土屋正義3等空佐は話す。

    「フライトの際は、機内では副操縦士に飛行要領を、機上無線員に電波の解析の指示などを、機外に対しては、管制官および管制器材整備員やセオドライトオペレーターとの交信を頻繁にしています。多いときには4者と無線交信することもあり、飛んでいる間は非常に忙しいです。天気がいいときはまだ気持ち的には楽ですが、一番悩むのは、天気が悪いときにどこまで継続するかの判断です」

     飛行点検中のパイロットは多忙を極め、点検によっては1週間かかるものもあり、精神的にも体力的にもくたくたになるという土屋3佐だが「任務を完遂したときはすごくやりがいを感じます」と語る。

    正確なデータ解析と明確な伝達を心掛ける

    機上無線員

    「自衛隊機だけでなく民間機にも影響がある任務。しっかり全うしたい」と室井2曹

    「機上無線員として、機内では飛行点検装置の操作や無線電波の解析などを行い、地上ではセオドライトオペレーターとして作業しています」

     そう話す室井大輔2等空曹が任務で気を付けていることは、施設や設備のデータを正確に解析することだ。

    「飛行中は点検機が揺れる中、限られた時間内でしっかりデータ解析をするため、特に集中して作業をする必要があります。また、解析したデータをパイロットへ報告する際には、パイロットに誤解を与えないように『明確な発声』と『適切なタイミング』、『分かりやすい説明』を心掛けています」

     飛行点検を終えた空港施設の保安無線情報は、国が発行する「航空路誌(AIP)」という出版物に掲載され、その空港施設を利用する民間機やアメリカ軍のパイロットが参考にすることもある。

    「自分が飛行点検に関わった施設がAIPに載り、その情報を世界中の航空関係者が利用することを考えると、重要な任務だと思います」

    第三の目耳として機体の内外を監視

    機上整備員

    緊迫状況でのコミュニケーションでは「簡潔な言葉で話すことが大事」と語る新保2曹

     新保宣和2等空曹の主な仕事は、飛行点検時の機内・機外の監視だ。

    「制限速度をオーバーしないように計器を見たり、パイロットが操作を間違えないようにダブルチェックを行ったりします。また、機外を監視して、近くのクレーン車など、障害物となる地物に注意を払います。鳥との衝突の回避も私の仕事です。

     それと、飛行前後や飛行中の機体、機器を点検し、油漏れなどをチェックします。航空機の燃料補給も行っています」。飛行点検中は多忙を極めるパイロットとは違う視点で機内外を監視することが大事だと、新保2曹は言う。「一点集中せず、コックピットの第三の目や耳として任務にあたっています」

    ナビ役として飛行の安全を守る

    航法幹部

    「計画書に目を通し、確認事項などに抜けがないように注意しています」と 江夏3佐

    「航法幹部は言ってみればカーナビのような役割です」と言う江夏勝馬3等空佐。

    「点検対象施設の周囲の地形や地物について事前に調べておき、点検当日はそれに基づいてパイロットに助言を行います。航空機の現在位置を把握しながら、障害物やほかの航空機など、安全を阻害する恐れのある事象を未然に排除するのです。また、燃料消費が少ない効率的な目的地への飛行経路を割り出してデータベース化するなど、飛行計画に必要なリストの作成も行っていますが、フライト前の地上での事務作業も航法幹部の重要な仕事です」と江夏3佐。

     そうして、パイロットが正しい判断を下すため的確な助言ができるよう努めている。

    明るくたくましく前向きに、を指針に部隊を運営

    隊司令

    「道なき空の安全確保に努めるのがわれわれの仕事です」と、新崎1佐は力説する

     陸・海・空全自衛隊機の安全な飛行と効率的な航空交通の確保を任務とする部隊の隊司令として、新崎秀樹1等空佐は「明るくたくましく前向きに」を指導方針に掲げている。

    「私が着任した2020年6月は、U−680Aの運用試験の真っ最中で、隊は多忙を極めていました。多くの作業を進める中で、階級や先輩・後輩に関係なく、皆が何でも言い合える関係を築けるような明るい部隊にしたいのです」

     その一方、飛行点検の任務には、航空施設を運用する部隊に合格・不合格を言い渡す厳しさも求められる。

    「飛行点検隊は優秀なベテランぞろいの部隊ですが、われわれにはそうしたたくましさも必要です。さらに、このコロナ禍にあって、衛生管理の徹底など、以前よりも作業に制約がある中でも前向きに任務を遂行してほしいと思っています」

    (MAMOR2021年7月号)

    <写真/荒井健 文/魚本拓>

    新・飛行点検機デビュー!

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