•  2021年3月17日、埼玉県・入間基地で戦後初の旅客機として半世紀以上にわたり活躍した「YS−11FC」が、ラストフライトを行い有終の美を飾った。長きにわたりこの「YS-11FC」を運用し続けたのは航空自衛隊飛行点検隊という部隊だ。いったいどのような部隊なのか、解説しよう。

    航空機が安全に航行できるワケ

    画像: 入間基地でラストフライトに臨むYS-11FC。入間基地の隊員たちが整列し、機体に別れを告げた

    入間基地でラストフライトに臨むYS-11FC。入間基地の隊員たちが整列し、機体に別れを告げた

     航空機のパイロットは、山や建物などの地形・地物を目視で確認しながら飛行や離着陸を行う。だが、雲が発生したり雨が降ったりしてパイロットの視界が遮られていても、航空機は安全に飛行し、離着陸している。

     なぜか?それは、管制官の指示や電波を使用した各種搭載機器によって航空機が正確な飛行コースへと誘導されているからだ。そのため、それら管制施設や誘導電波を発する航空保安無線施設などが正常に機能しているかどうかを定期的に点検する必要がある。

    年間フライト300回。航空自衛隊飛行点検隊とは

    画像: 年間フライト300回。航空自衛隊飛行点検隊とは

     全国の飛行場にある各種の航空保安無線施設などは、防衛省、国土交通省、アメリカ連邦航空局がそれぞれで管轄する施設の点検を担当している。その中で、防衛省が管轄する陸・海・空の各自衛隊が保有する航空交通管制施設や航空保安無線施設などの点検を実施しているのが、航空自衛隊の飛行点検隊だ。

     航空保安無線の点検を行う自衛隊で唯一の部隊として、北海道から南鳥島までの42基地163施設の点検を実施。年間のフライトは優に300回を超えるという。

    さまざまな飛行パターンで不具合をチェック

    画像: さまざまな飛行パターンで不具合をチェック

     自衛隊が所有する各種の航空保安無線施設などの検査は、点検器材を搭載した航空機で各施設の周辺を実際に飛行して行われる。規定のコースで飛行するだけでなく、変則的な飛行を行い、航空機の航行を誘導する電波が、コースや方位、高度などで正常に機能しているかどうかを評価する。

     その結果から、検査した施設の機能の合格・不合格を判定。不合格の場合は不具合の是正を促すのが飛行点検隊の任務だ。飛行点検隊はその任務を遂行するため、日々、拠点となる入間基地から点検対象の基地へと飛び立っているのだ。

    飛行点検隊の対象施設とその役割を解説

    1:TACAN(戦術航空ナビゲーションシステム)

     TACAN(Tactical Air Navigation)は、電波を利用して、航空機の位置を測定する装置とそれを装備した施設のこと。飛行中の航空機がTACANまでの距離と方位を測定することで、正確な現在位置を知ることができる。これにより、悪天候時や夜間など、パイロットが目視で飛行場を確認できない場合でも安全な飛行ルートを進むことが可能となる。

    2:TCOM(ターミナル通信施設)

     飛行場からの離陸後の上昇、着陸のための降下や通過のための飛行が行われる空域の管制用に設置された、地上の管制官と航空機のパイロットが連絡を取るための通信機器を装備した施設。この施設に設備された通信機能により、航空機と通信することができ、レーダーと併せて管制官による航空機への助言や誘導が可能となる。

    3:ILS(計器着陸用施設)

     ILS(Instrument Landing System)は、雲の発生や降雨などで視界不良のときに、航空機を滑走路に安全に着陸させるための施設。飛行場の近くに設置された同施設から、着陸しようとしている航空機に対して指向性誘導電波を発信し、滑走路に向かって正しい角度で進むように誘導する。

    4:PAPI(進入角指示灯)

     PAPI(Precision Approach Path Indicator)は、滑走路への正しい進入角度を示すために、滑走路の両端に設置された表示灯。4つの灯火の色の組み合わせをパイロットが目視し、自機が適正な角度で滑走路へ進入しているかどうかを確認することができる。

    5:PAR(精測進入レーダー)

     PAR(Precision Approach Radar)は、滑走路に進入する航空機を地上誘導着陸装置で管制するレーダー。滑走路に向けて着陸体勢に入った航空機の進入するルートや高度を下げるペースのずれを探知するほか、モニターに映し出し、地上の管制官が無線で上下左右を指示して安全に着陸させるように誘導するために使用される。

    6:ASR(飛行場監視レーダー)

     ASR(Airport Surveillance Radar)は、飛行場から半径60~80マイルの空域に位置する航空機の場所や高度を探知するレーダー。探知結果は飛行場の管制室に送られ、航空機の誘導などに使用される。また、同空域内で飛行する複数の航空機の間隔を測定する際にも用いられる。

    7:NDB(無指向性無線標識)

     NDB(Non Directional Radio Beacon)は、電波を全方位に発信するための装置。発信された電波を航空機上のADF(自動方向探知機)で探知することで、NDBが設置された飛行場の方向を知ることができる。また、2個以上のNDBを探知することで航空機の現在位置を知ることも可能だ。

    8:VOR(超短波全方向式無線標識)

     VOR(VHF Omni-directional Radio Range Beacon)は、電波を利用して航空機に進行方向を示す施設。地上に設置されたVORに向けて進む航空機が、正しいルートから外れているのかそうでないかを判断するために利用する。

    (MAMOR2021年7月号)

    <写真/荒井健 文/魚本拓 イラスト/土田菜摘>

    新・飛行点検機デビュー!

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