•  国を守る。そんな重たいテーマに、一歩踏み出すきっかけは意外なところに転がっているもの。

     実は「たまたま触れた映画や漫画、漫画に心を動かされて入隊を決めた」という自衛官も少なくない。最初は単なる憧れだったけれど、気づけば「国を守る」ことの意味を深く実感していた…。そんなエピソードも。

     現役の自衛官たちが「背中を押してくれた作品」を紹介してくれた。

    ゲーム『艦隊これくしょん -艦これ-』

    画像: 海上自衛隊公式サイトより(https://www.mod.go.jp/msdf/equipment/ships/ddg/atago/)

    海上自衛隊公式サイトより(https://www.mod.go.jp/msdf/equipment/ships/ddg/atago/

    この作品から艦艇の歴史を学び、自衛官になった(海自/3曹/男性・20代)

     高校時代、友人に誘われて「艦これ」のゲームに触れました。この作品をきっかけに艦艇の名称や装備品などを知ることができ、そこからさらに歴史に興味を抱いて、第2次世界大戦時、実際に運用されていた艦艇に関するさまざまなエピソードを学びました。

     現代でも当時と同じ名前の艦艇が活躍していることから、自分もその一乗組員として勤務したいと思うようになり、海自に入りました。

    「艦これ」はゲーム、アニメと幅広いファンのいる作品なので、広報実施時など、艦これを知っている見学者と「推しキャラ」の話で盛り上がることもでき、ゲームやアニメが国を守る自衛官の生活にも生きているなと思っています。

    作品解説

    2013年リリース/艦隊育成型シミュレーションブラウザゲーム(DMM GAMES、「艦これ」運営鎮守府)。プレイヤーは提督として、第2次世界大戦期の軍艦を擬人化した「艦娘」を指揮し、「深海棲艦」と呼ばれる敵勢力と戦う。高い人気を誇り、TVアニメ化、アニメ映画化やコミカライズなど、多岐にわたるメディアミックス展開が行われている

    映画『戦場のピアニスト』

    家族に同じ思いをしてほしくないと入隊(海自/3佐/男・30代)

     物語の舞台がナチス・ドイツ侵攻下のポーランドであり、ユダヤ人が残酷な迫害を受けていました。まるで1つの民族が滅ぼされていく過程を追体験するような感覚で、とてもショッキングな内容でした。

     戦争に関する映画といっても、本作は戦地の軍人ではなく、一市民の視点から戦争の悲惨さを描いています。

     私は、家族に同じ思いをしてほしくないと強く感じるとともに、そうならないためにも自分は自衛隊に入ったのだ、あんな悲惨な思いを家族や友人たちがするのなら自分の命を捧げてでも、戦わねばならない、と思えた一作です。

    作品解説

    2002年公開/フランス・ドイツ・ポーランド・イギリス合作。ロマン・ポランスキー監督による。実在のユダヤ人ピアニスト、ウワディスワフ・シュピルマンの自伝を基に、ナチス・ドイツ占領下のポーランドでの彼の過酷な体験と生き抜く姿を描いた作品。主演のエイドリアン・ブロディは第75回アカデミー賞主演男優賞を、作品自体も同賞の監督賞、脚色賞を受賞

    映画『ガメラ2 レギオン襲来』

    陸上自衛隊に対する憧れが大きくなった(陸自/2尉/男性・30代)

     昔から怪獣映画が好きで、この作品はもちろん「ガメラシリーズ」は通して観ています。本作は中学生のときに観ました。

     全編を通して陸上自衛隊の活躍がとてもかっこよく描かれていて、自衛隊に対する漠然とした憧れのようなものが大きくなり、入隊につながる影響を受けたと思っています。

     作中、戦車大隊の隊員たちの「怖いか?」、「……はい」、「いざとなったら逃げればいい」、「……」という会話シーンが人間くさくて印象に残っています。

     任官後に本作を再び観たとき、このシーンから隊員の命を預かること、隊員の士気を上げることについて、もう一度考えを巡らせるきっかけにもなりました。私にとって大切な作品ですね。

    作品解説

    1996年公開/日本。「平成ガメラシリーズ」の第2作。宇宙から飛来した怪獣レギオンとガメラ、そして自衛隊の戦いを描く特撮映画。監督は金子修介、特技監督を樋口真嗣が務め、リアリティーある描写と特撮技術が高く評価された。映画作品として初めて日本SF大賞を受賞するなど、特撮映画の名作として知られる

    映画『プラトーン』

    困難に立ち向かう主人公に憧れ自衛官を目指した(陸自/1尉/男性・40代)

     もともとミリタリー系映画に興味があり、高校時代にレンタルショップで見かけて借りたのがきっかけで鑑賞。

     戦争の非情さ、兵士たちの人間性と葛藤、戦場での生き残りをかけた選択など、戦争の過酷さと非情さを感じたうえで、自分も困難なことに立ち向かい、それを打開していく主人公のカッコよさに引かれ、自衛官を目指すきっかけになりました。

     作品内で主人公が葛藤や精神的な苦悩を抱え、戦争の中で自分を見つめ直し、友情と信念について深く考える場面が特に印象に残っています。

     私が自衛官になった後には、どんなにつらく厳しい訓練に臨んだときでもこの映画を思い出して自分のモチベーションを上げてきました。自衛官生活のバイブルのような作品ですね。

    作品解説

    1987年公開/アメリカ。オリバー・ストーン監督が、自身のベトナム戦争従軍体験を基に製作した戦争映画。1967年、大学を中退し志願兵としてベトナムに赴いた青年クリス(チャーリー・シーン)が、戦場の過酷な現実と部隊内の対立に直面する……というストーリー。第59回アカデミー賞では作品賞・監督賞など4部門を受賞。戦争映画の金字塔的作品だ

    映画『BEST GUY』

    画像: 航空自衛隊公式サイトより(https://www.mod.go.jp/asdf/chitose/second/gallery.html)

    航空自衛隊公式サイトより(https://www.mod.go.jp/asdf/chitose/second/gallery.html

    自衛官を目指した夢の出発点。今もなお原動力となっている(空自/2佐/男性・50代)

     私が航空自衛隊を志した原点がこの映画にあります。

     和製『トップガン』などと言われたこともあった本作ですが、作中で描かれるF−15J戦闘機の迫力ある空中戦や、パイロットたちの熱い友情には心を奪われました。

     特に、主人公を演じた織田裕二の格好良さ。あんなふうに、私も日本の空を守る一員になりたいと強く感じました。

     時折、初心を思い出すために『BEST GUY』を見返して、当時の情熱を再確認しています。この映画は、私にとって夢の出発点であり、今もなお原動力となっています。

    作品解説

    1990年公開/日本。村川透が監督を務めた日本のアクション映画。物語は、航空自衛隊千歳基地を舞台に、F-15J戦闘機のパイロットたちが最高の称号「ベストガイ」を目指して奮闘する姿を描く。主人公・梶谷英男を人気俳優の織田裕二が演じ、ライバルや仲間との関係、そして恋愛模様を展開。航空自衛隊の協力により、実機を使用した迫力ある空中戦が見どころだ

    映画『シン・ゴジラ』

    この作品を観て自衛隊がカッコいいと思えた(陸自/1士/男性・20代)

     15歳のとき、当時とてもはやっていたので友達と一緒に観に行きました。

     この作品では自衛隊が大活躍しますが、後に職業としての自衛隊が自分の選択肢となったときに、「自衛隊のカッコいいイメージ」としてこの作品が思い浮かび、自衛隊を志望する後押しになりました。

     特に印象に残っているのは作中でゴジラを水際で足止めする「タバ作戦」が失敗したとき、落ち込む部下に対して戦闘団長の発した「気落ちは不要。国民を守るのがわれわれの仕事だ。攻撃だけが華じゃない。住民の避難を急がせろ」というセリフ。これに、プロとしてのプライドを感じたことを覚えています。

     私も国防の「プロ」を目指して訓練を頑張ります。

    作品解説

    2016年公開/日本。日本を代表する特撮映画。庵野秀明が総監督を、樋口真嗣が監督・特技監督を務めた。突如として東京湾に出現した巨大生物「ゴジラ」と、それに立ち向かう日本政府や自衛隊の対応を描く作品。長谷川博己、竹野内豊、石原さとみらが出演。現代社会の危機管理をリアルに描いた作品として高い評価を受けた

    映画『ライトスタッフ』

    画像: 航空自衛隊公式サイトより(https://www.mod.go.jp/asdf/special/)

    航空自衛隊公式サイトより(https://www.mod.go.jp/asdf/special/

    自分の資質を信じ、精進したい(陸自/3佐/男性・30代)

     小学生のころ、父親が勧めてくれたのがこの作品でした。

     7人のパイロットが、アメリカ初の宇宙飛行士として選抜され、宇宙への道を仲間たちと進む中、さまざまな事情から選抜されなかったイェーガー。

     ライトスタッフ(正しい資質)を信じ「世界最速の飛行機乗り」として孤独な挑戦を続ける姿に感銘を受け、空自の戦闘機パイロットになりたいと思いました。

     残念ながらパイロットにはなれませんでしたが、別の意味のライトスタッフ(軽い人)にならないよう、自分に与えられた任務を一生懸命こなしていきます。

    作品解説

    1983年公開/アメリカ。トム・ウルフの同名ノンフィクション小説をもとにフィリップ・カウフマンが監督・脚本を務めた。物語は、1947年に音速の壁を破ったテストパイロット、チャック・イェーガーと、50年代の有人宇宙飛行計画「マーキュリー計画」に参加した7人の宇宙飛行士たちの挑戦を描く。宇宙開発の歴史をリアルに描いた作品として高い評価を受けた

    コミック『ファントム無頼』

    空自戦闘機乗りのバイブルともいえる(空自/2佐/男・50代)

     数年前まで空自も装備していたF−4ファントムが大活躍する作品で、少年時代に出合って以来大好きな漫画です。

     特に最終回は印象深く、予想以上に劣化が進んでいた680号機のラストフライトの日に機体が空中分解寸前に陥り、パイロットの神田とナビゲーターの栗原が脱出する緊迫のシーンが鮮明に思い浮かびます。

     私の戦闘機乗りになりたいという思いの原点であり、深い信頼関係でつながった2人の搭乗員の活躍に胸躍らせ、いつかはこんなパイロットになりたいと思ったものでした。

     今でも『ファントム無頼』はいつでも手に取れる所に置いてあり、つらい思いをしたとき、疲れたとき、初心に返るために読み返しています。

    作品解説

    史村翔原作、新谷かおる作画/『週刊少年サンデー増刊号』(小学館)/1978~84年連載/コミック全12巻。航空自衛隊を舞台とした漫画作品。百里基地に所属するF-4EJファントムII戦闘機のパイロット・神田鉄雄2等空尉と、ナビゲーターの栗原宏美2等空尉のコンビが、数々の任務や困難に立ち向かう姿を描く。リアルな航空機描写と人間ドラマが融合した本作は、航空漫画の金字塔として名高い

    コミック『MASTERキートン』

    元特殊部隊の活躍に可能性を感じて入隊(陸自/2佐/男性・40代)

     同じ浦沢直樹作の『20世紀少年』(小学館)を読み、ほかの作品も気になって読んでみました。

     主人公が軍隊、特に特殊部隊で経験を積み、大切な人を守りながら活躍するのをワクワクしながら読み、自分でもそのような経験ができれば……と思って自衛隊に興味を持ちました。

     実際、作中で紹介されているサバイバル術などの知識が役立つこともありましたし、主人公の恩師の言葉「人間はどんな所でも学ぶことができる。知りたいという心さえあれば」に、人間の可能性を信じさせてくれる、そして諦めない心が大切であることを教わるなど、自分の人生のなかでもMASTERキートンは重要な「1作」になっています。

    作品解説

    浦沢直樹/『ビッグコミックオリジナル』(小学館)1988~94年連載/コミック全18巻。主人公の平賀=キートン・太一は、考古学者でありながら、イギリス軍の元特殊部隊教官としての経験を生かし、ロイズの保険調査員として世界各地で起きる保険金にまつわる事件を解決していく。2012年には続編『MASTERキートン Reマスター』も発表された

    (MAMOR2025年6月号)

    <文/臼井総理>

    どうして国を守るのか?

    ※記事内容は上記掲載号の発売時点のものです

    This article is a sponsored article by
    ''.