自衛隊に関わったことのある、各界で活躍する方々に、国防を考えるきっかけとなった映画、小説、アニメなどのエンターテインメント作品について教えてもらった。
自分の大切な人、国を守るというのはどういうことなのか。作品を通して感じてみてはどうだろうか。
岡田朋峰さん「家族や友人に同じ経験をしてほしくない」
【岡田朋峰さん】
1998年、東京都生まれ。「2019ミス・インターナショナル」日本代表などモデル・タレントとして活躍。父は俳優の岡田眞澄さん。24年9月より、防衛省広報アドバイザーを務める。横浜のコミュニティラジオ局FM Salusの番組に出演中。特技はカロリー計算、英会話、遠泳など
本『父の詫び状』(文藝春秋・1978年)
向田邦子/小説やテレビドラマの脚本家として活躍しながら飛行機事故により51歳で急逝した向田邦子のエッセイ集。タイトルのエッセイも収録。各エピソードで、「父」のいる懐かしい家庭の姿、家族の思い出、あたたかさそして人間味を独特のユーモアを交えて描き出す。戦前・戦中・戦後にわたる生活者の昭和史としても貴重な作品
人の生き方を変えてしまう戦争から国防の大切さを学ぶ
私が中学生のころに国語の先生が『父の詫び状』を贈ってくれたのがこの作品との出合いです。
特に印象に残っているのは、戦争に突入して、東京では空襲が始まるころ世間に不穏な空気が流れるようになると、それまでは靴の脱ぎ方やそろえ方にとても厳しかった登場人物の「父」が、しょんぼりと靴を脱ぎ、家の中での威勢の良さがすっかり消えてしまった――という描写です。
作中の「父」は、家長としての威厳があり大胆に振る舞うキャラクターとして登場しますが、国が衰退するとそんな人の性格をも変えてしまうことを10代の私はとても切なく思いました。
戦後80年となり、戦争を経験した世代の声を直接聞くことは少なくなりました。しかし、『父の詫び状』のような作品を通じて、私は家族や友人に同じ経験をしてほしくないと思いますし、そうならないために自国を守ることの大切さを痛感しています。
日々国を守るために尽力されている自衛隊の皆さんに感謝の気持ちです。
トッカグン 小野寺さん「己を磨く大切さを再確認させてくれた」
【トッカグン 小野寺さん】
1983年、宮城県生まれ。お笑い芸人。登録者数37万人を誇る自身のYouTubeチャンネル「トッカグンの東京サバイバル」でも活動中。本人が元陸上自衛隊の特科隊員出身であることから「トッカグン」というコンビを組んでいたが、2020年2月からはソロユニットとして活動している
映画『プライベート・ライアン』(UIP・1998年)
1998年公開/アメリカ。スティーブン・スピルバーグ監督、トム・ハンクス主演による映画。第2次世界大戦中のノルマンディー上陸作戦を舞台としている。物語は、4人兄弟で3人の兄を失ったライアン2等兵を救出するため、ミラー大尉率いる8人の兵士が敵陣深く送り込まれる――。本作は第71回アカデミー賞で監督賞ほか5部門を受賞
仲間を助けるために命を懸ける主人公の姿に感動
17歳のときに、周りの友人たちが「すごくリアルで面白いぞ」と言っていたのを聞いて、DVDで観ました。
クライマックスシーンで、主役のトム・ハンクスが、迫ってくる敵戦車に対して瀕死の状態のなか拳銃を撃つシーンにはしびれました。
作品を通じ、「命の重さ」や「選択」がどれだけ未来に影響を与えるかということについて、深い感銘を受けるとともに、同じ国の仲間を助けるために、誰かが必死に頑張るというところに、強い「使命感」を感じたことを今でもはっきりと覚えています。
私がのちに自衛隊に入ったあとも、「いつか後に評価されることをしているのだ」と思いながら日々自らを鍛えていました。厳しい訓練の日々のなかで、ときにあの映像を思い起こしては、己を磨く大切さを再確認させてくれたのがこの作品でした。
国を守るために不断の努力を続ける決意は、あのときに覚えた感動に支えられていましたし、私の人生観を大きく変える転機に。
今は芸人という、違う立場からではありますが、次世代に平和をつなげ、国を守ることの大切さを、自分なりのスタイルで伝えていくことができたらと思っています。
ちっぴぃちゃんズさん「理不尽に耐え、国を守る姿勢に感銘を受けた」
【ちっぴぃちゃんズさん】
1987年、高知県生まれ。お笑い芸人。頭に乗せている小鳥は“相方”のぴぃちゃん。人間の「ちぃちゃん」と2人あわせて「ちっぴいちゃんズ」。元自衛官という経験を生かしたネタで「元陸上自衛隊芸人」として活躍中。即応予備自衛官で災害派遣活動などの経験も
コミック『ライジングサン』(双葉社・2012年)
藤原さとし/『漫画アクション』(双葉社)2012~18年連載/コミック全15巻。物語は、18歳の新隊員たちを主人公に、陸上自衛隊の訓練生活をリアルにかつ熱く描いたもの。作者自身の自衛隊経験と取材に基づき、細部まで忠実に再現されたドラマが魅力だ。笑いと涙の青春ストーリー。続編である『ライジングサンR』が18年より連載中
自分を試そうと入隊したあと、国防の意識に目覚めた
私は小さいころから芸人になりたいと思っていました。高校を卒業したらNSC大阪(吉本の芸人養成所)に入りたかったのですが、その気持ちが本物かどうか確かめようと、自分を試すために陸上自衛隊に入隊しました。
国防を意識せず入隊した私が、国を守る意識を強く持つきっかけになったのが『ライジングサン』です。
この作品には、いろんな境遇の新隊員が登場し、教育の様子が克明に描かれています。私自身の経験と照らし合わせながら「こんなことあるある! こんな隊員おるおる!」とうなずきながら読んだものです。
一般の会社とは違う、身を挺して国民を守る自衛隊だからこそ、ときには「理不尽」に耐えることが求められます。
自衛官1人ひとりが理不尽に耐えながら、自分の育ってきた所を守りたいという思い、国を守る姿勢を『ライジングサン』から感じ取り、私も自衛隊で頑張ろう、国を守ることに貢献しようとより強く思えました。
自衛隊を辞めて芸人となった今も、自衛隊で同じ仲間が頑張っていると思うと、私も頑張れる。そんな原動力となった作品でもあります。
雷ジャクソン 高本さん「日本や自衛隊に誇らしさを感じさせてくれた」
【雷ジャクソン 高本さん】
1976年、大分県生まれ。相方の黒木ジョージボンドとともに「雷ジャクソン」のコンビ名でボケを担当。ピン芸人としても活動、R-1ぐらんぷり2013ファイナリストの実績を持つ。元海上自衛官であり、自身のYouTubeチャンネル「雷ジャクソン高本の護衛艦たかもと」でも活動中
コミック『沈黙の艦隊』(講談社・1988年)
かわぐちかいじ/『モーニング』(講談社)1988~96年連載/コミック全32巻。日本初の原子力潜水艦「シーバット」の艦長・海江田四郎が、独立国家「やまと」を宣言し、国際社会と対峙する姿を描く。リアルな軍事描写と政治的テーマが話題を呼んだ。単行本累計発行部数は3200万部を超え、アニメ化や実写映画化もされている
この作品と出合ったことが海自を志願するきっかけに
17歳のころ飲食店で読み、スリルある展開に、すぐのめり込みました。
作中では、独立国となった「やまと」を危険な国とみなし、すぐさま攻撃しようとするアメリカ、それに対し、日本は攻撃されても反撃せずに話し合いで解決しようとします。
独立国の海江田艦長はそんな日本の姿を見て「やはり 日本は銃を持っていても撃てぬ国らしい…… いい国……だ ぜひとも同盟を結ばねばならん」というセリフを言いますがそれが印象に残っています。
ともすれば日本の弱腰をやゆした言葉にも聞こえますが、実はそこにこそ平和に対する熟考や葛藤が込められているようで、日本や自衛隊に対して誇らしさを感じさせてくれた言葉です。
この作品との出合いで一気に海自のカッコよさや魅力を知り、海自に志願するきっかけになりました。その後入隊して、護衛艦の乗組員となりましたが、隊員になってからも何度も見返した作品であり、まさに海自時代のバイブルでした。
今でも、いつか作者のかわぐちかいじ先生にインタビューするような仕事ができたらと、大きな目標を持たせてくれる作品です。
(MAMOR2025年6月号)
<文/臼井総理>
※記事内容は上記掲載号の発売時点のものです