•  航空自衛隊には、世界で唯一の電子戦機「EC-1」という機体がある。これは、現代の戦争においては電子戦が重要といわれているためだ。では、そもそも「電子戦」とはどんなものなのか。

     そこで、「見えない戦い」といわれている電子戦についてを軍事評論家の井上孝司氏に伺ってみた。 

    見えない戦い、電子戦とはなにか?

    画像: 迷彩柄の輸送機C‐1(写真手前)と電子戦の訓練を終えて入間基地に帰還するEC‐1。この日は珍しく改良元の機体と改良機が並んだ

    迷彩柄の輸送機C‐1(写真手前)と電子戦の訓練を終えて入間基地に帰還するEC‐1。この日は珍しく改良元の機体と改良機が並んだ

    「電子戦の発端となったのは、軍事作戦にエレクトロニクス、つまり電子機器が使用されるようになった第2次世界大戦です」と、井上氏は話す。

    「現在では作戦の指令や情報のやりとりに欠かせない通信機器、そして航空機の誘導や探知に必要なレーダーという電子機器の装備品が登場し、これらを活用することで戦闘が有利に進められるようになりました。逆に言えば、敵の通信機器やレーダーを無力化すれば、自軍の戦闘が優勢になるということであり、そこから電子戦という概念が生まれたわけです」

     その代表例が、第2次世界大戦でイギリス軍とドイツ軍が相互に展開した相手の都市への夜間爆撃だという。

    「視覚に頼れない夜間に爆撃を行う場合、正確な位置に爆弾を投下するには、航空機を誘導電波で誘導する必要があります。一方、爆撃される側としては、爆撃機の飛来の探知や、自軍の戦闘機で迎え撃つためにレーダーを使用します。

     また、戦闘機を管制するためには、地上のレーダー施設と無線で交信しなければなりません。そこで、イギリス軍とドイツ軍は、双方が敵のレーダーや通信を妨害するという、激しい電子戦を展開したんです」

    大きく3つに分類される電子戦

     こうして幕を開けた電子戦。それは大きく3つに分類されると、井上氏は説明する。

    「敵のレーダーや通信機器が発する電磁波をジャミング(妨害)してそれらを無力化するため、強力な電磁波や偽の電磁波を発射するのが『電子攻撃』。

     敵から電子攻撃を受けた場合、使用している電磁波の周波数の変更や、出力を増加することなどで相手の攻撃を低減したり無力化したりするのが『電子防護』です。

    『電子戦支援』は、敵が使用するレーダーや通信機器、電子攻撃用の装備品の電磁波に関する情報の収集活動や電子戦器材の設定のことを言います」

     そのなかでも電子戦にとって重要なのは電子戦支援だと、井上氏は指摘する。

    「敵が使用するレーダーや通信機器、電子戦用の兵器の発する電磁波の周波数などを把握・分析してデータを蓄積しておけば、電子攻撃を受けても対抗しやすくなります。そこで各国の軍隊では、電子戦のための仮想敵国の情報収集を積極的に行っています。日本の周辺に頻繁に現れるロシアや中国の航空機や船舶も、その多くは日本のレーダー施設などが発する電磁波に関わる情報の収集を目的としていると考えられます」

     電子戦ではまた、実戦のなかで得た電磁波などに関する情報がものをいうと、井上氏は力説する。

    「自衛隊では実戦経験のある同盟国や準同盟国との良好な関係を維持し、電子戦に関わる情報の共有を図る必要があります。そのうえで期待されるのが、空自の電子戦隊の活動です。世界でもまれなEC−1での実戦に近づけた電子戦の日々の訓練とそこで得られたデータが、今後ますます重要になると思います」

    電子戦訓練では空自の通信施設やレーダーにEC-1が妨害電波を発する

     電子戦機EC-1の電子戦訓練では、地対空ミサイルを誘導する空自のペトリオットレーダー部隊や、戦闘機などを管制する地上警戒管制レーダー部隊などが発する電磁波をEC-1が探知し、それぞれに妨害電波を発射し、ミサイル誘導や統制機能などを一時的に低減・無力化する、実戦に近い訓練などが行われている。

    【井上孝司氏】
    1966年、静岡県出身。マイクロソフト株式会社(当時)での勤務を経た後、軍事や航空、鉄道関連の執筆活動に入る。軍事評論家

    <文/魚本拓 写真/荒井健>

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    ※記事内容は上記掲載号の発売時点のものです

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