•  長くGDP1パーセント以内に収められてきた日本の防衛費は、緊迫する安全保障環境の中で、2023年度から引き上げられた。

     予算を活用して装備を充実させるのが日本の急務だ。そこで、日本の防衛産業の将来の展望を防衛省防衛研究所の小野圭司研究官に聞いた。

    2020年代の日本の防衛産業について

    「安全保障3文書」の制定は防衛産業の大きな転換点になるか?

    画像: 防衛に関するこれまでの考え方(左)と「安全保障3文書」を比べたもの。これまでに比べ、より具体的な指針を「安全保障3文書」では示している

    防衛に関するこれまでの考え方(左)と「安全保障3文書」を比べたもの。これまでに比べ、より具体的な指針を「安全保障3文書」では示している

    「安全保障3文書」とは、日本の安全保障に関する政策文書である「国家安全保障戦略」、防衛の目標と方策・手段などを示した「国家防衛戦略」、自衛隊の編成や装備品の中長期の整備方針を定めた「防衛力整備計画」の3つの文書だ。

    画像: サイバー攻撃に対処するため2022年に陸・海・空3自衛隊の共同部隊として設立された自衛隊サイバー防衛隊。人材登用や育成などに予算があてがわれている 写真提供/防衛省

    サイバー攻撃に対処するため2022年に陸・海・空3自衛隊の共同部隊として設立された自衛隊サイバー防衛隊。人材登用や育成などに予算があてがわれている 写真提供/防衛省

     このうち5年間で必要となる防衛費を43兆円としたのが「防衛力整備計画」で、その数字的根拠として敵の脅威の圏外から発射可能なスタンドオフ・ミサイルなどの防衛能力整備、ドローンなどの
    無人アセット宇宙サイバー電磁波などの新領域を横断する作戦能力と、それを支える装備品など、新たに必要となる約10事業の予算を算出した。

     新たな分野、新領域の装備品なども取り上げられており、これにより既存の防衛産業企業だけでなく、部品製造などを請け負う中小企業や、新技術や、アイデアで急成長するスタートアップ企業などの参入の可能性が生まれてきた。

    「宇宙・サイバー・電磁波」 により注目されるデュアルユース

    画像: 2024年11月に打ち上げられた防衛省が保有・運用する通信衛星「きらめき3号」。日本電気やスカパーJSATなどが製造・運用に関わっている イメージ図提供/防衛装備庁

    2024年11月に打ち上げられた防衛省が保有・運用する通信衛星「きらめき3号」。日本電気やスカパーJSATなどが製造・運用に関わっている イメージ図提供/防衛装備庁

    「安全保障3文書」に基づく防衛費予算の増加などの現状を踏まえ、防衛産業が今後に期待しているのが宇宙、サイバー、電磁波、無人アセット、ロボットなどの最先端のIT技術分野だと小野研究官は話し、「これまでの防衛産業は大砲や弾薬、戦車、艦艇、航空機といったものが主流でした。

     ですが、SFの世界の話だったサイバー攻撃や宇宙空間への進出が現実のものとなり、これらは既存の装備品だけでは対応が難しい分野です。今後装備品にAIを使った技術が進んでいくのは間違いない傾向です。

     そうなるとこれまで防衛と関わりのなかった分野の産業や新興企業などが持つ技術が注目され、防衛産業にも参入してくるでしょう」と指摘する。また、このような最先端の技術は民間企業の開発力が必要不可欠で、そうなると軍事と民生の両方で使われるデュアルユースと呼ばれる技術がより一層求められるようにもなってくる。

    防衛装備品や技術の移転が防衛産業発展のカギになる

    画像: 2023年10月、国産の装備品として初めてフィリピンに輸出された三菱電機製の警戒管制レーダー 写真提供/防衛省

    2023年10月、国産の装備品として初めてフィリピンに輸出された三菱電機製の警戒管制レーダー 写真提供/防衛省

     日本と海外の防衛産業の違いとして、海外企業が武器を輸出しているのに対し、日本ではほとんど行われていないことが挙げられる。

     1967年に打ち出された「武器輸出三原則」以来、実質的に装備品の海外移転は行われてこなかったが、2014年に装備品の海外移転に向けて、新たに「防衛装備品移転三原則」とその「運用指針」を策定。

     ただ完成品の場合は、国際共同開発・生産およびライセンス生産品をのぞき基本的に対象となる装備の種類は救難、輸送、警戒、監視、掃海に関わるものと限定されている。

     これを受けて20年には日本とフィリピンの間で警戒管制レーダーを移転する契約が交わされ、22年10月には航空自衛隊がフィリピン空軍の依頼で警戒管制レーダーの整備や操作などの教育支援を行った。

    「装備品を移転、輸出するのは自国の防衛力を強化するとともに、民主主義を守るためだという議論をもっと深めなければならない」と小野研究官は語る。

    2030年代の日本の防衛産業について

    カネと技術の壁を乗り越えろ!進む防衛産業の協業体制化

    日本はF-2戦闘機、イギリスとイタリアはユーロファイター戦闘機の後継機として次期戦闘機の開発を目指す。技術力、開発力、情報収集力などお互いの強みを生かし開発が進む

     宇宙、サイバーなど最新の技術が求められる装備品においては、自国だけでは開発が難しいものが多い。また開発や製造に関する費用も年々巨額になっている。その対策として国境をまたいだ共同開発の動きが最近よく見られる。

    画像: 防衛省は2025年度予算の概算要求に次期戦闘機の開発費として1127億円を計上。実現に向かい開発が進んでいる イメージ図提供/防衛省

    防衛省は2025年度予算の概算要求に次期戦闘機の開発費として1127億円を計上。実現に向かい開発が進んでいる イメージ図提供/防衛省

     その例として挙げられるのが、2035年度の運用開始を目指す自衛隊の次期戦闘機の開発だ。将来的な航空優位を確保するためにはステルス性能やレーダーなどの技術に優れ、地上の基地や無人機などと連動したネットワーク戦闘能力も必要とされている。

     そのためのコストやリスクを分担するため、日本、イギリス、イタリアの3カ国が共同で開発にあたることとなった。「機密性の高い装備品の共同開発は単なるモノの製造だけにとどまらず、友好国との運用思想の共有にまで発展します。開発を通して国同士の結束もさらに強固になるでしょう」と小野研究官は多国間共同開発のメリットを説明する。

    小野圭司研究官

    【小野圭司研究官】
    防衛研究所理論研究部社会・経済研究室主任研究官。主な著書に『いま本気で考えるための日本の防衛問題入門』(河出書房新社)など

    (MAMOR2025年3月号)

    ※記事内容は上記掲載号の発売時点のものです

    <文/古里学>

    どうなるどうする日本の防衛産業

    This article is a sponsored article by
    ''.