航空機が安全に飛ぶために必要な空の地図、「航空図」。自衛隊にはこの航空図を作成する専門の部隊がある。それが、航空自衛隊の飛行情報隊だ。
全ての自衛隊の航空機の運用に関わる情報の収集・提供を一手に引き受けるこの部隊は、いったいどのような部隊なのだろうか。隊員数は20人ほどの少数精鋭だというが、まずは部隊の沿革や編成、後方支援部隊としての役割などについて紹介しよう。
航空情報の提供を行う自衛隊唯一の部隊

府中基地にある飛行情報隊の隊舎。鮮やかな緑の外壁が特徴的
1973年に航空自衛隊に新設された保安管制群飛行情報隊を前身とする飛行情報隊。府中基地(東京都)に所在する、航空支援集団・航空保安管制群隷下の部隊だ。全ての自衛隊の航空機が安全に運航するために必要な情報の提供を行う唯一の部隊で、隊員数は約20人。
総括班と、飛行情報に関する出版物の編集・校正業務を行う図誌班、航空機を運航する際に必要な航空情報の1つであるノータムを審査するノータム班で編成されている。
飛行情報隊では、以上の業務のほかにも、訓練や国際緊急援助活動などで空自の航空機が国外で運航される場合には、航行に必要とされる現地の航空情報の収集を実施。飛行管理隊が運用する「飛行管理情報処理システム」やアメリカ連邦航空局のウェブサイトなどで収集した情報を関係部署に提供している。
これらの業務を行うため、防衛省・自衛隊だけでなく、航空関連事業を管轄する国土交通省やそのほかの関係機関など、さまざまな機関と情報交換を頻繁に行っていることもこの部隊の特徴だ。
航空機の安全な運航のため正確な情報を提供

「今後は航空情報のデジタル化が進んでいくと思いますが、全体の概要をひと目で把握しやすいアナログ=印刷物の重要性はしばらく変わらないでしょう」と語る田中3佐
「飛行情報隊では平時、有事を問わず、全ての自衛隊の航空情報に関する処理を一元的に担っています」と話すのは隊長の田中3等空佐だ。飛行情報隊が収集・提供する航空情報は、自衛隊の全てのパイロットにとって必須となるため、その情報を扱う部隊の長としての責任を感じているという。
「飛行場から離陸し、フライトする航空機を操縦するパイロットは立ち止まってものを考えることができません。ですから、航空機を運航する前に、いかに多くの情報を集めてフライトに臨むかが重要です。
その情報に間違いがあると命に関わるので、情報を提供する側としては、ダブルチェック、トリプルチェックを行う必要があります。そうして正確な情報を提供することで、パイロットの縁の下の力持ちになれれば、と思っています」
そのため、業務は、いわば「パイロット・ファースト」で実施されている。
「例えば、2021年に、航空路図誌(※)の構成を大幅に見直し、改訂。ユーザーであるパイロットを中心に聞き取りを行い、試行錯誤して『使いやすさ』に徹底的にこだわった誌面にしました。これからも関係者のさまざまな意見を反映して、ユーザー満足度ナンバーワンの情報提供を目指していきます」
隊長としては、円滑な部隊運営にも気を配る必要がある。田中3佐は、「指導方針として掲げているのは、『明るく、楽しく』です。各隊員がやりがいを感じ、仕事に満足して業務を遂行できるよう、活気のある部隊にしたいと思っています」
※航空路図誌:年に6回発行される自衛隊の空の情報誌
<文/魚本拓 写真/星亘(扶桑社)>
(MAMOR2024年10月号)
※記事内容は上記掲載号の発売時点のものです