陸上自衛隊の「施設科」とは軍隊における工兵部隊を指す。陣地の構築、地雷などの障害の構成・処理、道路や橋の構築などを行う技術者集団だ。
勝田駐屯地(茨城県)にある施設学校には、施設科部隊の任務に必要な技術、知識を習得するための教育訓練と部隊運用のための調査・研究を行う唯一の専門教育機関として、年間約1000人が入校する。
今回は施設学校の教育のなかから、「陣地を作る」過程と「道を開く」過程を紹介しよう。

部隊の司令部にもなる「掩体」。適切な場所に迅速に構築するには高度な技術が必要で、重機で形を作り、人力で仕上げる
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陣地構築には重機のほか隊員による手作業も必須

警戒監視を行う隊員が立てこもる掩体を構築する訓練。余計な力を入れずに効率よく穴を掘るには意外とコツがいる
陣地構築は施設科の基本中の基本となる任務だ。大がかりな土木作業にはブルドーザーなどの重機も投入されるが、人力による手作業は避けることはできないため、隊員は1から機器の使い方を習う。
陣地構築は、敵の攻撃から部隊や装備品を守るため地面を掘り、上にライナープレートと呼ばれる鋼鉄製の半円筒形の覆いをかぶせて「掩体」を作り設置。
どこにどの程度の規模の掩体・掩壕を作るかは、周辺の地形情報を把握する測量次第だ。場所が決まれば油圧ショベルなどで掘削し、ブルドーザーなどで整地し陣地を構築する。
身を守りながら監視をする個人用の掩体は、シャベルなどを用いて手堀りで作製。こうした作業を迅速かつ正確に行うためには、重機への習熟や隊員同士の連携が求められる。
教育のデジタル化にも取り組むと話す佐藤1佐。「ドローンなどは器材研究と並行で教育も実施中です」
教育部長の佐藤1等陸佐は「施設学校が力を入れているのは、個々の部隊が行っていた築城、擬装、警戒などを作戦部隊単位、地域・施設単位として包括的にとらえる教育です。個人の技術力と部隊の連携力、それぞれの強化を目指します」と解説する。
災害派遣、海外派遣でも求められることが多い「道を開く」技術

土砂の運搬作業は街中の道路工事と同じだが、敵が存在し、作業の進行が作戦に影響を与えるため、迅速さが重要だ
敵の攻撃を受けて道路が陥没したときや、土砂崩れなどで部隊が目的地に前進できない場合などに施設科は道路を構築する。
重機を使い障害を取り除き、荒れた地面をならす作業は作戦展開上の重要任務だ。
敵の攻撃などで破壊された道路などの整備、構築、維持などは「道路啓開」と呼ばれ、施設科部隊の重要な作業だ。これまでに培ってきた技術は大規模災害時の支援でも発揮され、海外からも道路構築の技術指導を要請する声が寄せられている。

油圧ショベルやグレーダーが道を切り開く。整地だけではなく、戦車や戦闘車両なども走行できる堅固な構築が求められる
道路を作るには倒木などを取り除き、荒れた地面の整地から始まる。そのために活躍するのがブルドーザーや油圧ショベルなど重機類だ。
施設科の精神は不変と話す長岡1佐。「自分たちが部隊を支えているというプライドが大切です」
その後は状況によってアスファルト舗装などの整備を行う。投入される装備品に目が行きがちだが、施設教導隊長の長岡1等陸佐は最終的には人が機械を動かしていることを強調する。
「ロシアによるウクライナ侵略でもドローンなどが使用されるとともに、昔ながらの伝統的な持久戦も行われています。最後は人の力であることを自覚し、練度を維持するための訓練・教育支援に取り組んでいます」
<文/古里学 撮影/村上淳 写真提供/防衛省>
(MAMOR2024年9月号)
※記事内容は上記掲載号の発売時点のものです