•  自衛隊には国を守るために、小銃からミサイルまで、さまざまな“飛び道具”がある。

     さらにその射撃訓練に必要なのが、標的。

     中には人が標的に乗り込んで操縦したり、人そのものが標的になったり、またはコンピュータでシミュレーションされた、第一線の疑似環境で狙える標的など、ちょっと変わった標的もある。その一例を紹介しよう。

    哨戒機が潜水艦を捜索する対潜戦訓練

    画像: 海の忍者といわれる潜水艦を探知するには哨戒機や艦船などによるチームワークが重要になる。また哨戒機の中でも操縦士をはじめ音響員など各種の専門搭乗員がいて、ソナーによる音響情報を分析しながら連携して対潜戦にあたる

    海の忍者といわれる潜水艦を探知するには哨戒機や艦船などによるチームワークが重要になる。また哨戒機の中でも操縦士をはじめ音響員など各種の専門搭乗員がいて、ソナーによる音響情報を分析しながら連携して対潜戦にあたる

     敵潜水艦の捜索・探知・撃破などを行う任務を対潜戦と呼ぶが、海に潜む潜水艦を発見するのは25メートルプールの中から1本の針を探すほど難しいという。

     海上自衛隊が行う大規模な訓練では、敵役の潜水艦をP‐1P‐3Cなどの固定翼哨戒機のほか、回転翼哨戒機、護衛艦といった装備品で捜索する。哨戒機に搭載されたソノブイつり下げ式ソナー、護衛艦のソナーなどを使い、潜水艦の音響情報を収集。針路、速力などを分析して潜水艦の位置などを割り出すのだ。

     優れた隠密性を持つ海自の潜水艦部隊が敵役となって訓練するため、捜索を行う側にも高いスキルが求められる。そのため、海自の対潜戦の能力は世界でもトップクラスといわれている。

    敵役に徹してパイロットを鍛える訓練

    画像: 「敗北は死」という強い信念が隊員の誇りの源となる。現役の戦闘機を使ったアグレッサー部隊は世界でも日本とアメリカ、イスラエルくらいしかない

    「敗北は死」という強い信念が隊員の誇りの源となる。現役の戦闘機を使ったアグレッサー部隊は世界でも日本とアメリカ、イスラエルくらいしかない

     戦闘機部隊の空中戦の訓練の際に敵戦闘機役を務めるのが、小松基地(石川県)の飛行教導群、通称「アグレッサー(侵略者)」部隊である。

     戦闘機パイロットを実戦の場で指導する立場であるため、訓練では各国の戦闘機の戦技を模して飛行するなど、空自でも傑出した力量を持つパイロットが集まっている。上空での敵味方の識別を容易にするため、使用する機体は通常よりも目立つように各機違う塗装を施している。

     仮想敵機として使用されるのはF−15で、年間約100日も各地の部隊で訓練を行っている。部隊旗はドクロ、シンボルマークにコブラをもつ、最強の標的である。

    実弾の代わりに光線で撃ち合うバトラー訓練

    画像: レーザーを受けると隊員の左胸につけたディスプレイが判定結果を表示する。訓練や競技会では、重症や死亡判定が出た場合退場となり、その部隊の生存率が記録される

    レーザーを受けると隊員の左胸につけたディスプレイが判定結果を表示する。訓練や競技会では、重症や死亡判定が出た場合退場となり、その部隊の生存率が記録される

    「バトラー」とは、戦闘訓練や競技会などのときにデータを収集・分析する機動訓練評価装置の1つで、隊員が鉄帽に装着するレーザー送受信装置のこと。実弾を発射する代わりに小銃に取り付けられた送信機から発せられたレーザーが隊員に当たると、受信装置が被弾した場所と軽傷、重傷、死亡などの損耗状況を自動的に判定する。

     つまり隊員そのものが、標的になっているのだ。陸上自衛隊では、「バトラー」を装着した隊員が参加する競技会が行われている。地上戦闘の骨幹となる、普通科部隊が対抗戦をすることによって練度を向上させている。

     また最前線での攻防を模した戦闘訓練も行われ、こうした訓練にバトラーを導入することでよりリアルな戦いを体験できるとともに、損耗の程度や戦闘の勝敗が可視化され、誰もが納得いく形で訓練を進めていくことができる。これほど、実戦に即した標的はないといえよう。

    自衛隊にもバーチャルな標的が登場

    画像: 立体スクリーン上で迫撃砲の着弾観測を行う隊員。目標標定機という器材で、標的となる場所と自分の位置関係を正確に測ることができる。訓練では、射撃効果の確認を行い練度向上を図る

    立体スクリーン上で迫撃砲の着弾観測を行う隊員。目標標定機という器材で、標的となる場所と自分の位置関係を正確に測ることができる。訓練では、射撃効果の確認を行い練度向上を図る

     静岡県の陸上自衛隊富士学校特科部には「統合火力誘導シミュレーター」が導入されている。

     これは、幅約5~6メートル、奥行き約4メートルの室内に、視野角約200度の大型立体スクリーンを設置、ここに場所、季節、時刻、天候などさまざまに想定された環境や、水陸両用車の上陸、F−2戦闘機からの爆弾投下などのシチュエーションの立体CG映像が映し出される。

     この映像を使って海上自衛隊や航空自衛隊による海上、上空からの攻撃と、迫撃砲などを使った陸自の火力を組み合わせた統合火力教育が実施される。各自衛隊が参加する統合演習の準備、実施には膨大な時間とコスト、手間が必要となるが、このVR訓練によって効果的に隊員のスキルアップが図れることになる。

    (MAMOR 2024年5月号)

    <文/古里学 写真/防衛省提供>

    自衛隊射撃訓練の標的にロック・オン!

    ※記事内容は上記掲載号の発売時点のものです

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