最前線の戦いを支えているのが後方に控える補給や輸送部隊。軍隊ではこれらの任務を「兵站(へいたん)」と呼ぶ。兵站の重要性はどの国でも認識しているようだが、国力や国情が違えば兵站の取り組み方にも違いがある。
世界の軍隊の兵站事情について、防衛研究所の石津朋之研究官に話を聞いた。
各国軍隊のモデルとなるアメリカ軍の兵站のあり方
防衛研究所の石津研究官によると、世界の中でもアメリカ軍の兵站が優れているという。
「アメリカ軍が重要視しているのは、人命尊重と科学至上主義、そして物量作戦です。アメリカ軍は前線で戦う兵士よりもサポート部隊に多くの人員を配置しています」
第2次世界大戦後もアメリカ軍の兵站重視の姿勢は進化。最前線と補給拠点の部隊がネットワークでつながれ、必要な物資をすぐに輸送できる体制を構築した。さらに電子タグを導入し、リアルタイムな物流状況や在庫の把握も容易になった。
このようなアメリカ軍の物量作戦、IT戦略は中国もモデルとしており、太平洋やインド洋など各地の小国や島々に補給・物流拠点を作っている。
島国であるイギリスは、第1次世界大戦のころから「商船海軍(マーチャント・ネイビー)」という制度を運用している。これはイギリス軍が有事の際に民間の施設や装備を優先的に借り上げるシステムだ。
デジタル化で変わる兵站も変わらず人の力が重要に
自衛隊が兵站に関して世界から賞賛されているのが、隊員の士気の高さと任務に対するまじめさだと石津研究官は語る。
「各国軍隊を悩ませているのが、物資の管理のずさんさや軍人による盗難です。それがない自衛隊は世界的に見てもまれです」
その一方で兵站の世界もデジタル化が進み、変化に対応する時期と石津研究官は続ける。
「これまでの兵站は主権国家同士の争いが前提でした。しかし今後はテロやゲリラとの戦いが増え、物資の補給を細かく調整する管理力が問われそうです。
全てをデジタルに頼るのもリスクがあります。ネットワークをかく乱された場合、人の力のみで物流を行わなければなりません。デジタル化は時代の流れですが、従来の人力のノウハウは持っておくべきです」
【石津朋之研究官】
防衛省防衛研究所国際紛争史研究室主任研究官。『リデルハートとリベラルな戦争観』(中央公論新社刊)、『名著で学ぶ戦争論』(日経BP刊)など著書多数。
(MAMOR2024年3月号)
<文/古里学 写真提供/防衛省(特記を除く)・AFP=時事>
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