•  ごく普通の若者たちが、大切な人や国の平和を守るため、日々、奮闘している姿を知ってほしいと考え、創刊当初から雑誌『MAMOR』は「自衛官」個人に焦点を当てた連載を多く掲載してきた。

     2023年10月号で200号を迎えた記念として、過去の連載で紹介した自衛官たちの「今」と、「今につながる歴史」を紹介したい。

    坂本美惠1等空尉:現在は航空救難団整備群本部に配属

    航空救難団の整備群本部(愛知県)に勤務している坂本1尉。航空救難団が保有する航空機「U-125A」、「UH-60J」などの品質管理を担当

    「戦力発揮の基盤は基地や家族にある」。上司の教えを受け任務と育児を両立

     防大を志望したのは、原爆を経験した祖母の話を聞き、「大切な人たちが戦争被害を受けずにすむように国を守りたい」と思ったから――。

     広島県出身の坂本(旧姓・宮澤)1尉は、防大時代の『MAMOR』の取材でそう語っていた。

    「グライダー部だったほど大の飛行機好きだけあって、防大卒業後は航空自衛隊での勤務を志望しました。

     ですが、空自入隊後に航空機整備幹部になってみると、仕事のやり方が分からず戸惑うばかり……。

     しかも防大時代のように気軽に相談できる同期もいなくて、悩みを1人で抱え込んで、一時は心が骨折したような状態になったんです」

    vol.66〜75(2012年8月~13年5月号)防衛大学校60期女子学生の12カ月 いつもポケットに志をより宮澤美惠学生

     そこで、坂本1尉は、思い切って隊長に相談してみることにした。

    「それまではこんな個人的なことを隊長に相談してはいけないと思っていたのですが、いざ話してみると親身になって話を聞いてくれたんです。それで、分からないことや悩みがあるときは、ちゅうちょせずに相談すればいいんだと、マインドチェンジできました。

     この経験から、部下からの相談に真剣に対応することはもちろん、自分からも積極的に声掛けするよう、心掛けています」

    坂本美惠1等空尉の「今」

     坂本1尉は、築城基地(福岡県)勤務時代に知り合った隊員と2019年に結婚。現在は1歳の女の子を育てながら、小牧基地(愛知県)に配置された航空救難団の整備群本部に勤務している。

    「彼は家事や育児を積極的にやってくれる人で、育児休暇を7カ月もとってサポートしてくれたんです」

     長期の育休をとれたのは、もともと自衛隊の育児のための勤務制度がしっかりしていることに加え、理解のある上司だったからだと、坂本1尉は言う。

    「有事の際には、負傷などによって人員が不足した場合でも部隊を運営しなければならない。だから育休などが必要な隊員は、自分がいなかったら部隊運営に支障をきたすなどと考えず、遠慮せずに休みなさい――そういう考えの上司だったんです」

     自身もその考えを受け継ぎ、子どもの入学式や参観日、結婚記念日などには迷わず休暇をとるよう、部下に推奨している。

    「普段から、仕事がないときは定時に帰って家族との時間を過ごすよう部下に伝えていますし、私自身もそうしています。航空自衛隊では、『戦力の基盤は基地にある』といわれています。ですが、私はそれだけでなく、自衛官の戦力発揮の基盤は家族だと思っているんです」

    高橋良和2等陸尉:現在は第2偵察隊の班長に配属

    北海道の名寄駐屯地にある、第2偵察隊に勤務している高橋2尉。写真の装備品は高橋2尉が偵察や連絡の任務を行う際に使用する偵察用オートバイ

    争いのない世の中にするために1人の自衛官として貢献したい

     通っていた小・中学校の目の前に旭川駐屯地があったという高橋2尉。

    「子どものころから陸上自衛官の活動を近くで目にして憧れていましたし、大切な人たちを守りたいという強い思いがあったので、大学卒業後に入隊しました」

     入隊して新隊員の教育課程を経た後、第2偵察隊に配属。以後、10年間偵察隊一筋の人生を歩む。

    vol.76〜103(2013年6月~15年9月号)自衛隊Rookies! より第2偵察隊第3小隊の高橋良和1等陸士

    「偵察隊は、事前に作戦地域の地形や敵の状況を調べて主力部隊に報告するという、指揮官の状況判断に資する情報を提供する部隊です。任務を達成するには、さまざまな地形に対処するなど、多くの困難を克服しなければなりません。そのため、斥候や監視、水路での潜入、空路での潜入、積雪地訓練などの各種訓練を行います。

     また、偵察用オートバイ軽雪上車などの車両や火器、通信機器を駆使するため、習得すべきことがたくさんあります」

     第2偵察隊は「最北の駐屯地」といわれる名寄駐屯地(北海道)に配置されている。冬は最低気温がマイナス30度近くにまでなり、夏季は最高気温が26度になるという自然環境が厳しい場所だ。

    「一歩間違えれば大きな事故につながりかねない状況なので、訓練を行う際には安全管理を徹底し、各隊員の錬度を把握して訓練内容を綿密に練ってから行っています」

    高橋良和2等陸尉の「今」

    「自衛隊Rookies!」に掲載されたときには1等陸士だった高橋2尉は、なぜ幹部の道を目指したのだろうか。

    「陸士・陸曹のときに、幹部の方々の状況判断能力の高さや知識の豊富さに驚くことが多く、自分もそうした能力を持ちたいと思いました。あるときまでは、陸士や陸曹として働くことが性に合っているし、自分の性格は幹部向きではないと思っていたのですが、自分の可能性や視野を狭めたくないと考えはじめ、幹部を目指したんです。

     今後は幹部として上官から与えられた任務の目的や意図を理解して小隊や班の人員を掌握し、一丸となって任務を完遂しなければなりません。そのため、自身の状況判断や隊員への指揮能力を向上させる必要があります。ですが、おごることなく今まで自分を支えてくださった上司、まだまだ未熟な自分を慕ってくれる部下に対して感謝の気持ちを忘れず、飛躍していきたいです。

     私の大きな夢は、争いのない平和で幸せな世の中の実現です。そのためにも、これからも1人の自衛官として平和に貢献できるよう努力していきたいと思います」と語った。

    窪島大地海曹長:現在は海上自衛隊護衛艦『たかなみ』に配属

    画像: 横須賀市にある第6護衛隊『たかなみ』に勤務する窪島曹長。写真は音波探知装置で海中の音波を聴き取り、計算して潜水艦の位置を割り出している姿

    横須賀市にある第6護衛隊『たかなみ』に勤務する窪島曹長。写真は音波探知装置で海中の音波を聴き取り、計算して潜水艦の位置を割り出している姿

    より優れた自己を常に追求しながら任務に臨むようにしている

    「Rookies!」に掲載された当時は横須賀教育隊第35分隊の体育班長、衛生班長として、学生の体力練成のためのトレーニング・プログラムの作成や体調管理などを行っていた窪島曹長。現在は?

    「護衛艦『たかなみ』で勤務しています。そこで私は水測員(ソナーマン)として、ソナー(音波探知装置)によって海中の音波を聴き取り、潜水艦の位置を探知する仕事をしています。

     海中に潜む潜水艦を探し出すには、事前のデータ収集や行動予測の考察が重要となるので、日ごろからそのための知識向上に努めています」

    vol.76〜103(2013年6月〜15年9月号)自衛隊Rookies! より横須賀教育隊教育1部第35分隊窪島大地3等海曹

     訓練も欠かせないと、窪島曹長。

    「護衛艦は1度出港すると、航行に必要な全てのことを全乗員で行い、完結しなければなりません。ですので、戦闘訓練はもちろんのこと、洋上での火災や浸水などに対処する艦内防御訓練、救難訓練、武器や機器の保守整備などを徹底しています」

     その際、安全の確保に、細心の注意を払っているという。

    「洋上での訓練は、常に危険と隣り合わせです。部隊の原動力である『人』がけがを負ってしまうと、任務に支障をきたしてしまう。与えられた任務を完遂するためにも、安全の確保を徹底しています」

     窪島曹長がこれまでの任務で印象に残っているのは、東日本大震災での災害派遣任務だ。

    「その任務に就いたのは、護衛艦『はるさめ』で勤務していたときです。1分1秒を争うなかで全乗員が一丸となり、被災者の救出と支援に当たりました。そのときの経験は、人生において私が大きく成長できた出来事の1つです」

    窪島大地海曹長の「今後」

     今後の目標を聞いてみた。

    「より優れた自己を常に追求することです。自分自身を磨くことで、任務をより効果的に遂行し、国や家族を守ることができると信じています。将来的には、自衛官としての知見をもとに、国際平和活動などに参加することも夢の1つですね」

     家庭では、3人の子どもの父親としての顔を持つ。

    「任務や訓練を完遂できるのは、両親や家族など、周りの人々の支えがあってこそ、です。だから、健康な状態で帰宅することはとても大切で、私の信条は『家に帰るまでが任務』。

     家族に『ただいま』という言葉を届けるまでは、気を抜かないように心掛けています。私を含め、皆が健康でいるから家でリフレッシュすることができ、次の任務に備えることができるんです」

    (MAMOR2023年10月号)

    <文/魚本拓 写真提供/防衛省>

    それぞれの自衛官ヒストリー

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