•  一般的に戦闘機は、ほかの航空機に比べて搭載燃料が少なく長時間飛ぶことができない。空に給油所があれば、基地に戻らず給油でき、長時間任務を継続できるわけだ。

     そこで、飛行中に給油しようと登場したのが空中給油・輸送機。さらに輸送機へ空中給油すれば、輸送距離を延ばすことができる。航空自衛隊にはKC-767のほか、KC-130H 、新型のKC-46Aの3機種の空中給油・輸送機がありますが、最近、ウクライナやスーダン関連の報道にも登場し、現在メインで活躍するのが日本のKC-767です。

     高度約6000メートル上空を、時速約700キロメートルで飛びながら、約15メートル離れて飛ぶ受給機の直径約20センチメートルの給油口に、給油ブームを差し込んで給油する。

     そんな神業とも思える任務をこなす各クルーに話を聞いた。

    機長:正確なポイントを維持しながら飛行する

    「クルーの呼吸が合うように操縦」

    画像: これまで日米豪共同訓練に参加したり、ジブチやポーランドへの輸送任務にも就いた鬼束3佐。2016年の熊本地震のときには災害派遣で現地に飛んでいる。

    これまで日米豪共同訓練に参加したり、ジブチやポーランドへの輸送任務にも就いた鬼束3佐。2016年の熊本地震のときには災害派遣で現地に飛んでいる。

     操縦士歴26年。これまでF-1戦闘機、C-130H輸送機、T-7初等練習機などさまざまな飛行機に乗ってきたというベテランの鬼束泰寛3等空佐をもってしても、KC-767の操縦はなかなか難しいという。

    「C-130Hなどの戦域内の輸送を行う戦術輸送機は胴体の上に翼があるのですが、KC-767は胴体の下に翼があるため、機体の重心よりも下にエンジンがついています。そのせいで、出力レバーで推力を加減したときに、それに対する反応が強くなるので、着陸時の接地直前のコントロールが特に難しいですね」

     さらに空中給油は、受油機にも気を配らなければならない。戦闘機と大型輸送機では、時間と場所を決めて落ち合う手順が異なり、パイロットの技量にもばらつきがある。

     また、高速で飛行しながらの給油となるため、直線で飛ぶと給油エリアからすぐ外れてしまうので、大きく旋回しながら給油しなければならない。そうした状況で給油作業全体のマネジメントを行うのが、機長に課せられた任務だ。

    「ブームオペレーターとの呼吸が合うよう常に気を付けています。オペレーターは極度の集中下で作業しているので、旋回するタイミングなど、先を見越しながら操縦するようにしています」

    副操縦士:機長のサポート役を担う

    「判断力を養うために訓練を重ねる」

    画像: 「KC-767が旋回するときは、慣性が働いてなかなか水平に戻らないので、先行した操縦が必要です」と秋山2尉。写真は同じく副操縦士の岩井智志2等空尉。

    「KC-767が旋回するときは、慣性が働いてなかなか水平に戻らないので、先行した操縦が必要です」と秋山2尉。写真は同じく副操縦士の岩井智志2等空尉。

     自衛隊の輸送機の一部には、航空機の位置・針路の測定などを行うナビゲーターが搭乗しているが、KC-767には搭乗していない。

     機長は運航の責任者として主に操縦を行い、それを補佐する副操縦士は管制官とのやりとりや機体の状態を計器でチェックするが、KC-767の場合は、ナビゲーションも機長と副操縦士が分担して行う。

     操縦士になって7年目、KC-767の副操縦士を務める秋山啓2等空尉は、「操縦士は場数を踏まないと一人前にはなれない」と言う。

    「空は生きています。その日の状態によっては、以前と同じ判断が正しいとは限りません。さまざまな状況に対応できるよう経験を積むことと、事前の準備が大切だと思っています」

     そんな秋山2尉は、週に3、4回は飛行訓練を行っている。

    「KC-767は自機で使用する分も含めた燃料をほかの航空機に給油しているので、自機が基地に戻るための燃料を残しておかなければなりません。どこでどれだけ給油が可能か、常に判断を迫られるのです」

     その判断力を磨くためにも訓練は欠かせないのだ。

    ブームオペレーター:臨機応変にオペレーションを行う

    「どんなときも焦らず、確実に」

    画像: 任務中、常に手元に置いている作業の手順書が全て英語で書かれているので、オフのときでも英語の勉強は欠かせないと語る杉本2曹。

    任務中、常に手元に置いている作業の手順書が全て英語で書かれているので、オフのときでも英語の勉強は欠かせないと語る杉本2曹。

    「ブームオペレーターという職種をひと言で表すと、空飛ぶガソリンスタンドの給油係ですね」

     そう笑いながら語る杉本資幸2等空曹は、F-15の整備員からC-130Hの空中輸送員を経て、5年前にKC-767のブームオペレーターになった。

    「日本ではまだ、空中給油が十分浸透しているとはいえません。その中で、新たな世界に飛び込みたいと思い、ブームオペレーターを希望しました」

     とはいえ、操作の難しさもさることながら、自機のパイロットや受油機からの通信を聞き、それに対応して指示を出すという一連の流れに、最初はひどく戸惑ったという。作業中にはさまざまな情報が飛び込んでくるため、それを整理して的確に判断することは簡単ではない。

     また上空の天候は毎回違う上に、F-15は左翼、F-2とF-35はキャノピーの背後と、給油口の位置は機種によって異なり、パイロットの技量や経験にも差異がある。

    「とにかく焦らないこと、冷静に対処することを心がけています。レシーバーの声で相手の状況を推量し、給油位置指示灯で指示を出し確実に給油することが、自分に求められていることですから」

    (MAMOR2023年8月号)

    〈文/古里学 撮影/山田耕司(扶桑社) 写真提供/防衛省〉

    戦闘機に給油できるKC-767

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