• 「音楽に救われた」という災害被災者の声を聞くことがある。大きな紛争が起きたとき、「音楽になにができるだろう?」と自問する音楽家がいる。

     はたして音楽で人を守ることができるのか? 人と人をつなぐことができるのか?

    「できる」と信じた4人の“歌姫”。私たちに圧倒的な歌の力を示すアーティスト、May J.さんと、陸・海・空各自衛隊のボーカリストが、航空自衛隊航空中央音楽隊の新庁舎に集結し、語り合った。

    「音楽ができることとは?」その力を信じる4人が立場を超えて共感!

    画像: 「音楽ができることとは?」その力を信じる4人が立場を超えて共感!

     片や絶対的な人気を誇り、ショービズの世界でトップを走り続けるシンガー、May J.。対するは、自衛隊で、任務として音楽を奏でる音楽隊員。全く立場が違う彼女たちには、共通することがあった。

     国歌独唱である。多くの国民の前で『君が代』を独唱した者だけが感じる「音楽の力」を話していただいた。

    【May J.(メイジェイ)】
    神奈川県出身。圧倒的な歌唱力が魅力のアーティスト。ディズニー映画『アナと雪の女王』の主題歌を担当したことは誰もが知るところ。

    【森田早貴(もりた・さき)】
    愛知県名古屋市出身。航空自衛隊航空中央音楽隊所属、3等空曹。ボーカル&ピアノを担当。作詞作曲活動にも注力している。

    【三宅由佳莉(みやけ・ゆかり)】
    岡山県倉敷市出身。海上自衛隊東京音楽隊所属。2等海曹。ボーカル担当。「顔晴る」がモットー。自衛隊初の「歌姫」として活躍。

    【鶫 真衣(つぐみ・まい)】
    石川県金沢市出身。陸上自衛隊中央音楽隊所属、3等陸曹。声楽(ソプラノ)担当。陸上自衛隊では初のボーカル要員として入隊。

    4人に共通する“大舞台”である国歌独唱について語る

    2014年5月31日、旧国立競技場で行われたファイナルイベント『SAYONARA国立競技場 FINAL “FOR THE FUT
    URE”』のファイナルセレモニーで国歌独唱する三宅3曹(階級は当時)

    ――皆さんに共通する国歌独唱の経験について伺います。どんな思いで、『君が代』を歌いましたか?

    May J.(以下M):私の場合、スポーツのイベントで歌うことが多いのですが、毎回すごいプレッシャーを感じます。『君が代』は歌詞が難しいですよね。毎回、必ず歌詞をゆっくり読んで、どんなふうに歌うのがその場に一番良いのかしっかりイメージして、本番に臨むようにしています。例えばその日が野球のイベントだったら、参加選手の皆さんが日々コツコツ重ねてきたものが1つの形となって、ここで全てを出し切れるようにという思いを込めて歌っています。

    三宅:私たちが歌うのは、やっぱり式典が多いですね。例えば海上自衛隊では、艦艇の命名進水式という、新造艦の命名儀式の場で歌うとか。そういうとき、私は国の繁栄を願いながら歌います。

    鶫:私は『君が代』には「千代に八千代に」、つまり永遠に国が続いていきますようにという祈りが込められていると教わったので、その気持ちを込めて歌います。でも、ブレス(息継ぎ)が、難しくて……。

    M:そうそう! 私も聞きたかったんですけど、『君が代』の「さざれいしの」(と、一節歌うMay J.)という部分、「さざれ」で一度切って「いし」と歌いたくなってしまうんです。ブレスが大変だから。私、それで1回そこで切って歌ったら「切らないで」と注意されたことがあって。それからは絶対ワンブレスで歌うようにしてます。

    鶫:はい、私もそうしています。

    M:やっぱりそれで正しいんですよね。

    鶫:私も「細石」で1語だよ、って言われたので。でも、そこでブレスできたらいいなあって思いますよね(笑)。

    森田:私は、緊張しながらも、歌詞の意味をよくかみしめながら歌います。今まで長い時代をかけてご先祖さまが築き上げてくださった「今」に、さらに1つ小さな石を積み上げていって、何十年、何百年、何千年先も幸せで生きていけたらという思いを込めて歌っています。

    M:(深くうなずく)国歌独唱のプレッシャーは、ものすごいですよね。私はまだ歌いながら手振りとかできますけど、自衛官の方たちは直立不動で歌うじゃないですか。すごいと思います!

    4人ともに転機となった東日本大震災のこと

    画像: 2023年3月25日、第2次世界大戦末期に激戦地となった硫黄島にて行われた「第24回日米硫黄島戦没者合同慰霊追悼顕彰式」で国歌独唱を行う鶫3曹

    2023年3月25日、第2次世界大戦末期に激戦地となった硫黄島にて行われた「第24回日米硫黄島戦没者合同慰霊追悼顕彰式」で国歌独唱を行う鶫3曹

    ――ところでMay J.さんにとって自衛隊はどんな存在ですか?

    M:昔、霞ヶ浦駐屯地でライブをさせていただいたことはあるのですが、私にとって自衛隊はちょっと遠い「テレビで見る存在」ですよね。災害救助や被災地の支援活動とか、本当にいろいろ活躍されているな、と感じています。ですので今日は皆さんにどうして音楽隊に入ったのか、きっかけを聞きたいと思っていました。

    画像: 2021年5月7日、横浜スタジアムで開催された、DeNA×阪神戦での女性向けイベント『YOKOHAMA GIRLS☆FESTIVAL 2021 Supported by ありあけハーバー』で雨の降る中、国歌独唱をするMay J. 写真/ⒸYDB

    2021年5月7日、横浜スタジアムで開催された、DeNA×阪神戦での女性向けイベント『YOKOHAMA GIRLS☆FESTIVAL 2021 Supported by ありあけハーバー』で雨の降る中、国歌独唱をするMay J. 写真/ⒸYDB

    ――ではせっかくですので、一言ずつ音楽隊に入った動機を。

    三宅:自衛隊で初めてボーカリストの募集があると聞いて、説明会に行きました。そこで、海上自衛隊には遠洋練習航海という練習艦で世界を回る実習があって、そこに音楽隊も乗って各地で演奏すると聞いて、私もしてみたいなと。

    鶫:私は音大生時代に東日本大震災があって、それまでは歌手になりたいという思いだけだったんですが、歌うことで何ができるかということを考えるようになりました。そのころ、海上自衛隊の演奏会で、三宅2曹が歌われているのを見て、自分もやりたいと思いました。

    M:すごーい!

    森田:私も鶫3曹と一緒ですね。東日本大震災のときに大学1年生で、ボランティア演奏など、自分に何ができるか考えていたのですが、まだ10代ではできることもあまりなく、もどかしい思いをしていたんです。そんなときにテレビで自衛隊の音楽隊が慰問演奏をしているのを知り、音楽隊の活躍だとか、三宅2曹が活躍されている姿を見て、もし募集があったら受けてみよう、と思いました。

    M:私も、今の活動は東日本大震災が1つのきっかけになっているんです。当時、デビューして5年くらいだったんですけど、私自身「今できることは何なんだろう」ってすごく悩んだ時期があったんですよ。今、歌は被災者に求められていないんじゃないかとか。でも、被災地にいるファンの方から、生の歌声を届けに来てほしい、それが一番の励みになるっていう言葉をいただいて、その後は被災地でのライブを再開しました。歌を聴いて、少しでも元気になってもらえればと。

    画像: 2020年11月28日、航空自衛隊入間基地にて行われた「令和2年度 航空観閲式」にて国歌独唱を行う森田早貴士長(階級は当時)

    2020年11月28日、航空自衛隊入間基地にて行われた「令和2年度 航空観閲式」にて国歌独唱を行う森田早貴士長(階級は当時)

    ――三宅2曹は当時を思い出していかがですか。

    三宅:(言葉を詰まらせて目に涙を浮かべ)May J.さんと同じような……。

    M:(三宅の肩に手を置いて)もらい泣きしちゃいそう!

    三宅:きっと当時もMay J.さんの歌声で、多くの人が元気をもらったと思うので……(涙声だが笑顔で)今日はお会いできてうれしいです。

    M:それまでは、自分の夢をかなえたいという思いで音楽をやっていた部分が強かったと思います。震災で初めて、音楽を通じて誰かの役に立てるというのを肌で感じ、歌との向き合い方が変わった時期でもありました。

    三宅:歌うっていうこと自体が、当時すごく勇気のいることでした。被災地の方々の前で歌うという行為も、誰かを傷つけてしまうかもしれないとか、いろんなことを考えながらも、何かの力になれたらという思いでずっと歌を届けてきました。なので、May J.さんがお話しされているのを聞いて、もうすごく共感しました。

    歌うことで伝えたい。音楽に込めた4人の思いは

    画像: 「歌」を武器に日本全国、そして世界に活動の翼を広げる4人のディーバたち。彼女たち全員の共通点である「歌」の話題で対談は盛り上がりを見せた

    「歌」を武器に日本全国、そして世界に活動の翼を広げる4人のディーバたち。彼女たち全員の共通点である「歌」の話題で対談は盛り上がりを見せた

    ――皆さんにとって「歌う」とはどういうことでしょうか。

    森田:私は歌っているときが一番幸せで、一番喜びを感じる瞬間です。歌を聴いてくださる方と、歌を通して何か通い合うものがあると感じる、あの瞬間、一番生きてて良かったと思います。

    鶫:私も歌うことが幸せで、コロナ禍で歌う場が少なくなったときには、久しぶりに歌を歌うと、何か自分の中で血が通ったような。歌うっていうことがこんなに幸せなことだと感じました。歌うことで誰かを元気づけたり幸せにしたりということができるよう思い続けて歌いたいです。

    三宅:私の歌うことの使命は、国民に寄り添うこと、人と人をつなぐこと、国民と自衛隊をつなぐこと、国と国とを歌でつないでいくことだと感じています。特に、東日本大震災での経験を経てそう感じました。

    M:私は歌がすごく好きで、ずっと楽しく歌っていたいという気持ちが一番にあります。自分自身、歌からたくさんの夢をもらってきました。今では、歌がないと生きていけないという存在になっています。歌は「universal language」で、言語以上のものを持っていると思うので、歌の力を信じて、世界を1つにできる何かを、平和を祈りながらこれからも歌い続けていきたいですね。

    <文/臼井総理 写真/鈴木教雄 写真提供/防衛省>

    (MAMOR2023年8月号)

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