MAMOR 最新号

6月号

定価:780円(税込)

画像: 自衛隊の航空機クルーに学ぶ「チーム力を高める」5つのスキル

 わが国の領海に侵入する潜水艦を阻止するため、365日24時間、哨戒部隊が実任務として、警戒監視活動を行っている。潜水艦や不審船舶の監視を行う哨戒機P-3Cの搭乗員たちはそれぞれの役割を担いながら、チームプレーで任務にあたっている。そんな息の合ったチームプレーを隊員はどのように身に付けるのか。

 海上自衛隊では、CRM(Crew Resource Management)という、搭乗員たちの技術や知識、情報、状況判断などのリソース=人的資源を最大限に活用するという考え方を導入しており、徹底的に教育される。

 CRMは航空機を運用する海自の部隊で取り入れられ、座学や実習訓練によってCRMの概念をマスターしようと、定期的に講習会が開かれている。

 CRMは、海自だけでなく航空分野で広く導入されている考え方だが、どのような内容か紹介しよう。

CRM教育とは?

航空機搭乗員の業務効率の最適化や、安全な航行のためのヒューマンエラーを減少させるスキルであるCRM。左図の5つの要素を主軸としている

(1)情報の伝達:情報発信者と受信者が互いにその内容を確認

 任務を安全・確実に遂行するには、隊員同士が正確に情報を伝え合う必要がある。

 そこで、情報の発信者と受信者の双方が、間違った情報を伝え、受けとってしまうことを防止するため、内容を確認し合うことが重要となる。発信者は誤解を与えない話し方に努め、その内容を相手が理解しているかを確認。受信者は偏見や先入観、予断なく与えられた情報を解釈し、それが正しい理解なのかを確認する。

 また、危機回避などに関わる重要な情報伝達では、階級差などに関係なく、しっかりと自分の意見を主張する「アサーション」も求められる。さらに、搭乗員全員が情報を共有し、意思統一するためのブリーフィングを実施することも必要だ。

(2)効果的なチーム作り:能力を発揮できるチームづくりを目指す

 航空機の安全確保のためには、搭乗員全員が能力を発揮できるチームを形成し、それを維持することも重要だ。そこで、互いに信頼し合い、切磋琢磨できる場の雰囲気を醸成すること。

 機長や上官など、ほかの搭乗員からの指示待ちや後追いの行動をするのではなく、それぞれの役割や業務を自発的に遂行すること。

 チーム内で意見の相違があった場合は、それぞれの立場や経験を尊重しながら、客観的な分析のもとに話し合い、論理的かつ合理的な解決に導くこと。

 これらがハイパフォーマンスを発揮するチームの要件となる。

(3)状況認識の共有:異変を察知する態勢と状況認識の共有が必要

 航空機の飛行中に、ささいなことでも異変に気付いたら、それを全搭乗員に確実に伝達。そして、どこに問題があるのか、それがどういう事態に発展する可能性があるのかを分析・予測し、共有する。

 その態勢を整えておくためには、常に周囲の状況に対して適度な警戒心を持ち、また客観性を持って監視する必要がある。

 航空機事故を防止するには、異常を示す状況が発生した際、直感に頼ることなく、認知バイアス(偏見や思い込み)を排して、状況認識や意思決定を行うことが重要なのだ。

(4)意思の決定:トラブル対処のため人的リソースを活用

 トラブルが起きた際、その対処法をどう決定するのか。

 こうした場合に求められるのは、解決策をチーム全員で検討し、決定されたことを確実に実行すること。そしてその結果を振り返る場を設けることだ。

 現在の状況を把握した各搭乗員が意見交換し、それぞれが蓄積してきた情報や経験知などのリソースを活用して解決策を検討。合意形成をした後に行動方針を決定し、実行に移す。

 そして、その結果について振り返り、良かった点・悪かった点を洗い出すことで、トラブル対処のためのチーム・パフォーマンスを向上させることができるのだ。

(5)ワークロード管理:効率的な遂行のためワークロードを管理

 航空機を安全かつ滞りなく運航するには、全搭乗員の効率的な業務の遂行のために、ワークロード(仕事量や作業負荷)の適正な管理が必要となる。

 特定の業務や特定の時間帯、特定の搭乗員にワークロードが集中したり、その逆に極端に少なくなったりすると、パフォーマンスが低下してしまうからだ。

 そこで、役割や業務を各搭乗員に適切に配分すること。また、業務の優先順位を決め、段取りを明確化して作業に当たることが重要となる。

 これらの実施によって、搭乗員のヒューマンエラーを減らし、任務遂行能力を向上させることができる。

CRM講習に参加した講師・受講生のコメント

受講生:CRMを知識でなく技術として活用

岡本清伸1等海尉 第3航空隊第32飛行隊の戦術航空士

「CRM講習を受講したことで、私の日ごろの業務における問題点が浮かび上がりました。例えば、P−1の搭乗員として機長と戦術航空士を兼務していて、業務をもう1人の戦術航空士と分散する際、自分の処理能力を過信してワークロードのバランスが私に偏りがちになることが認識できました。

 また、機内での情報伝達では、『あれ』や『これ』などの曖昧な言葉を使ってしまうことで、コミュニケーションエラーを起こしていたという気付きも得ました。今後は、密にコミュニケーションをとり、その実行を推進していきたいと思っています」

講師:チームの能力を発揮するための教育

竹田知明3等海佐 第51航空隊 訓練指導隊 訓練指導班 CRM・MRM指導掛長

「現在、哨戒機の機器やシステムの技術は大きく進歩しており、任務遂行をサポートしてくれます。ですが本来、それを操作しているのは『人』です。講習では、理論的な座学に加え、課題やロールプレイングを通じて、哨戒機を運用する『人』のパフォーマンスを最大限に発揮できる環境づくりをするためのスキルを学びます。

 複雑な気象・海象という環境下で、限られた飛行時間内に潜水艦を捜索するという困難な任務を達成するには、チームで合理的に意思決定へと導くCRMスキルが必要です。学んだことを実任務に生かしてほしいですね」

(MAMOR2023年7月号)
※記事内容は上記掲載号の発売時点のものです

<文/魚本拓>

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