•  現場を離れた隊員のパイロットとしての技量を保持するための教習所ともいえる「中部航空方面隊司令部支援飛行隊」(以下:中司飛)。管理職などの操縦者の飛行訓練の支援を実施して “生涯・臨戦態勢”を誇り、精強さを維持する「中司飛」の任務につく自衛官たちのコメントを紹介しよう。

    入間基地から他基地への人員輸送

    多用途支援機U-4で人員や貨物を空輸

    「仕事に満足したことはありません。満足してしまったら、それは航空機を降りるときであり、仕事の引き際でしょう。つねに次のフライトに対して誠実に向き合い、課題を抱えて仕事をすることが大事だと思っています」と語る榎本空曹長

     中司飛の任務には、T-4という練習機による飛行訓練のほか、多用途支援機U−4を使用した人員や貨物の空輸などを行う支援飛行がある。

    「指揮連絡のために司令官などのVIPを国内各地の空港や空自の各基地へ送迎したり、空自の各部隊の運営状況を調査する監察団などを送迎したりする人員輸送を行っています。指揮連絡のための文書の送達や、各種貨物を空輸する任務もあります」と語る安土2佐。

     U−4は、中司飛のパイロット2人と民航旅客機の客室乗務員のような任務を持つロードマスター1人の、最低3人で運用。

    画像: 【多用途支援機U-4】SPEC→乗員:21人 全長:約27m 全幅:約24m 全高:約7m エンジン搭載数:2基 最大速度:マッハ約0.88 航続距離:約6500km

    【多用途支援機U-4】SPEC→乗員:21人 全長:約27m 全幅:約24m 全高:約7m エンジン搭載数:2基 最大速度:マッハ約0.88 航続距離:約6500km

     航行中は、ロードマスターがキャビン(客室内)の乗客の安全を守り、確実に目的地まで運ぶことが求められる。

     ロードマスターは、目的地の到着予定時刻や上空での揺れなどの情報をパイロットから受け取り、それら飛行情報などの現在の状況を乗客に伝える。また、乗客の様子をパイロットに伝える役割も担う。

    キャビンの点検から接客まで1人で対応

    画像: 埼玉県の入間基地に所在する中部航空方面隊司令部支援飛行隊の隊舎前。ここから今日もパイロットたちが飛行訓練へと向かって行く

    埼玉県の入間基地に所在する中部航空方面隊司令部支援飛行隊の隊舎前。ここから今日もパイロットたちが飛行訓練へと向かって行く

     ロードマスター任務の重要な点を榎本徳和空曹長に伺った。

    「装備品の準備から接客まで、U−4のキャビン内にかかわることは、1人で任務を行うため、業務に“抜け”のないよう、各種の点検作業をフライト前に入念に実施しています。緊急事態への対処もロードマスターの仕事です。つねに危険を察知することができるよう、視覚と聴覚、嗅覚を研ぎ澄ませるようにしています」

     では、VIPへの気遣いについてどのように行っているのかを聞いてみた。

    「人員輸送任務ではVIPへの対応が多いので、“十人十色”といわれる個々の人にとっての“いいサービスとは何か?”をいつも考えています。それぞれの人が今、何を求めているのかを察することが重要なんです。たとえば、VIPが何かを飲みたいと思うまさにそのタイミングで、飲み物を提供したい。全ての人に適切なサービスを提供するために、次のフライトではもっとうまくできるように、つねに課題を抱えて仕事をすることが大事だと思っています」と語った。

     U−4の運用では、こうしたクルー一丸となる連携が必要となる。飛行訓練の任務と同様、密なコミュニケーションが重要となる任務だ。

    「当隊では、ふだんから皆がワイワイとオープンにコミュニケーションをとっている、風通しのいい部隊です」。そう語る飛行隊長の安土2佐が指導方針に掲げているのは「チームワーク」だ。

    「ベテランが多い部隊なので、各自がプライドを持ちながらも、連携しあって大変な任務にあたっています。航空機の運航に際しては、準備を周到に行い、油断せず、慢心せずに任務にあたり、今後も無事故での部隊運営を継続していくことが目標です」。

    航空自衛隊の主力であるパイロットの技量維持を担う

    画像: 航空自衛隊の主力であるパイロットの技量維持を担う

    連日訪れる管理職などの操縦者の飛行訓練を支援するとともに輸送任務も実施している中司飛。ハードワークを日々、こなしている同隊の隊司令は何を思い、部隊をどう統率しているのか。有馬隊司令に、中司飛の任務の意義や、隊員たちとのかかわり方について伺った。

    “現場感覚を保持する”それが組織を支える

    自衛官はつねに「凛」として行動し、その結果に責任を取れる人物であってほしいと語る有馬1佐

    「航空自衛隊の主力となるのは、その名のとおり航空機であり、それを操縦するパイロットです。そして、空自では基本的に、パイロットは定年まで飛び続ける、生涯現役である、という体制を整えています」。隊司令の有馬元1等空佐はそう語る。

     だが、空自のパイロットは、階級が上がるにつれて、組織の中枢での業務に従事するようになる。そこで、戦闘機パイロットの資格を持つ管理職などの操縦者は、技量維持のために中司飛で飛行訓練を行っているわけだ。

    「多くの管理職などの操縦者は、久しぶりの飛行で緊張感や恐怖の感覚を味わいます。それは、それぞれが戦闘機に乗っていたときの感覚、つまり現場の感覚を思い出すということでもあります。この経験が、ふだんはフライトを行わないパイロットにとっては重要なんです」

     一般企業の会社員でも、年次が上がり、組織の上層部で仕事をするようになると、現場の感覚を忘れがちになるものだ。その結果、上層部と現場とのズレが生じて仕事を停滞させ、それがひいては組織を弱体化させる要因にもなりうる。

    「定期的に航空機を操縦することで、空自のパイロットはいくつになっても、役職がついても、現場の感覚を保持することができます。それが各自の現在の仕事にもフィードバックされ、活かされることで、空自という組織の下支えになっていると、私は思っています」

    部隊を円滑化するため意見を言える環境に

    画像: 練習機T-4の正面に立ち、エンジンの点検を行う整備員。操縦席からサインが見やすいよう、きびきびとした動作で合図をおくっていた

    練習機T-4の正面に立ち、エンジンの点検を行う整備員。操縦席からサインが見やすいよう、きびきびとした動作で合図をおくっていた

     中司飛のパイロットは、「ベテランによる少数精鋭の部隊」だという有馬1佐。経験豊富な隊員と、整備員などの若手の隊員たちをまとめるため、隊司令として、隊員たちが気持ちよく仕事ができるような雰囲気づくりに努めているという。

    「日ごろから階級に関係なく、誰にでも声をかけ、ときには冗談を言うなど頻繁にコミュニケーションをとるようにしています。仕事に対する厳しさとの緩急をつけた関係性を大事にしているんです」

     また、朝礼などの際には、要望事項である「死ぬな。考えろ。言え」という言葉を隊員たちに伝えている。

    「『死ぬな』とは、任務上でのことにかぎらず、健康管理を含め、自分の命は自分で守れ、ということ。『考えろ』とは、自分本位ではなく、相手の立場になり、相手は自分をどう見ているかを考え、そこから自分の意見は正しいのかに思いを致せ、ということ。

    『言え』とは、黙っていたら自分の考えは通じない、相手にはわからないので、自分の意見は口に出して言え、ということです。とくに任務において危険な事態が発生したときは、口に出して注意喚起することが大事なんです」。

     隊司令としての指導方針は「凛々しくあれ」。「中司飛の隊員として意志が強く、頼りがいのある人であってほしいですし、また社会人として恥ずかしくない行動をしてほしいと思っています」と語った。

    (MAMOR2023年4月号)

    <文/魚本拓 写真/村上由美>

    空自パイロットは生涯・臨戦態勢

    ※記事内容は上記掲載号の発売時点のものです

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