•  航空自衛隊の戦闘機パイロットは、基本的に階級が尉官以上の幹部自衛官が担っている。幹部自衛官は約2年ごとに人事異動があり、航空機の操縦をともなわない、「飛行(操縦)」以外を任務とする部署へ配属されることもある。

     また、年齢を重ね、階級が上がるに従って、航空幕僚監部など空自の中枢でデスクワークに
    従事することが多くなる。だが、パイロットの資格を持つものは誰であれ、有事に備え、いつでも現
    場に復帰できるようパイロットとしての技量を維持していなければならない。

     そこで、普段はデスクワークなどに従事する管理職などのパイロットの操縦技量を維持するために
    必要な飛行訓練、年間で一定の飛行時間を達成することや、計器飛行証明の試験に合格するための支援を担っているのが、支援飛行隊なのだ。

     今回、取材したのは、入間基地(埼玉県)にある「中部航空方面隊司令部支援飛行隊(以下: 中司飛)」。現在、関東で勤務する空自の戦闘機パイロットのうち、管理職などのパイロットは数百人。これだけの数の隊員が入れ替わり毎日、スケジュールを調整して飛行訓練を行うために入間基地を訪れている。

     そして、このパイロットの技量維持のための飛行訓練は、階級に関係なく課されている。つまり、
    航空幕僚長など、VIPと呼ばれる管理職などの操縦者も、同隊でフライトを実施しているのだ。

     中司飛の主要な任務は2つある。T-4という練習機による飛行訓練の実施とU-4という多用途支援機を使用した人員や貨物の空輸任務だ。その任務や装備について解説しよう。また、統括する隊司令をはじめ、飛行隊長やそのほかの隊員たちに、話を伺った。

    中司飛が管理職の飛行訓練を行っているワケ

    管理職などの操縦者の資格維持に貢献

    「部隊がある入間基地の周辺は航空機のトラフィック(交通量)が過密な状態にあるため、管制官などとの情報のやりとりを慎重に行いながら飛行訓練を事故なく安全に行う必要がある」と語る安土2佐

    「中司飛では管理職などの操縦者の飛行訓練の支援を実施していますが、教官のパイロット全員が『検定操縦士』と『教官操縦士』と呼ばれるの2つの資格を保有しています。そして、飛行訓練支援のほかにも操縦者としての資格を維持するための技量チェックを行っています」

     そう話すのは、部隊運営や航空機の運用に関する監督指導などを行う中司飛の飛行隊長であり、自らも飛行訓練の教官パイロットとして日々任務に就いている安土剛生2等空佐だ。

    画像: 管理職などの操縦者の資格維持に貢献

     そもそもなぜ、中司飛はこれらの任務を担っているのかをたずねると、「管理職などの操縦者が持っている空自の操縦士の資格を維持するには、条件があるから」だという。その条件について安土2佐は次のように語った。

    「操縦士の資格を維持するためには、定められた一定の条件があります。これらの条件をクリアするためには、これまで飛行した実績に加えて、年間で一定の飛行時間を達成することや計器飛行証明の試験に合格することが必要となります。

     操縦者としての資格を維持するために飛行時間を確保し、操縦の技量を維持するための飛行訓練を行うことが、当隊の役割なんです。飛行訓練は、実施するミッションや飛行時間、訓練を行う空域などを記載した、『ミッションカード』に基づいてブリーフィングが行われ、緊急対処などを含めて安全に訓練が行われるようしっかり管理されています」

    中司飛の任務を遂行する隊員たち

    画像: 密なコミュニケーションを取りながら、飛行前点検を行う整備員とパイロット。支援部隊は一丸となって訓練に訪れるパイロットたちの安全に配慮して任務を行う 写真/SHUTO

    密なコミュニケーションを取りながら、飛行前点検を行う整備員とパイロット。支援部隊は一丸となって訓練に訪れるパイロットたちの安全に配慮して任務を行う 写真/SHUTO

     中司飛では、任務で使用するT−4を「オートバイ」に、U−4を「マイクロバス」に例えて、それら異なる2つの機体を同時に運用する唯一の部隊であることを誇る。

     オートバイの免許の更新をサポート(=管理職などの操縦者の操縦資格と技量の維持)する一方、マイクロバスで乗客を遠隔地に運ぶ(=人員と貨物の輸送)という、異職種ともいえる仕事を同時にこなしているというわけだ。

     ただし、別種の機体を運用しながらも、この2つの任務には共通点がある。いずれも部隊外の隊員、ときには要人を相手に任務を実施しているということだ。そこで必要とされるのが、隊員のコミュニケーション能力。

     自分よりも階級が上の幹部自衛官を相手にするとなれば、言動にはとくに気を付けなければならない。それでいて、井川3佐の言うように、安全な航行のためには、主張すべきところは主張する「アサーション」の能力も求められる。

     今回、取材した隊員たちの多くが語っていたのが、航空機の運航にかかわる全ての人への感謝の気持ちだった。航空機を飛行させるためには、それだけ多くの人がかかわり、知力と体力を注いでいるということを実感しているのだろう。

     中司飛で働くこうしたプロフェッショナルたちは、どのような意識で任務に臨み、同隊を訪れる人たちと接しているのか——。彼ら・彼女らの話を聞いてみよう。

    操縦者のスケジュールを気遣い、サポートする

    【支援パイロット 島谷篤也 3等空佐】

     管理操縦者のなかには、統合幕僚監部航空幕僚監部などの部署で勤務し、飛行訓練の時間を確保することが難しいほど多忙な方もおられます。ですから、効率的な飛行のための準備をし、訓練に集中できるよう部隊全体でサポートすることが大切です。

     航空機から降りるその日まで、向上心をもって任務に臨む姿勢を持ち続けようと努力しております。

    操縦者の体型の記録も仕事の1つ

    【救命装備品整備員 中園大輔 2等空曹】

     パイロットが装着するヘルメットや酸素マスク、緊急用のパラシュートやサバイバルキット(保命用品)の点検整備を行っています。救命胴衣などは、各管理操縦者の体型の変化に合わせて貸し出しているので、それぞれの体型の記録のデータ化も仕事の1つです。

     フライト前は緊張しているパイロットもいるので「行ってらっしゃい!」と明るく送り出すように心掛けています。

    隊員が抱える悩みをフィードバック

    【准曹士先任 久米村貴三 准空尉】

     先任の任務は、隊司令が隊員たちに求めている服務指導などを准曹士にしっかり伝えること。またその逆に、隊員たちが抱える不満や悩みを見聞きし、それを隊司令にフィードバックすることです。

     任務を遂行する上で大事なのは、コミュニケーション能力です。「ワンフォアオール・オールフォアワン」の精神で部隊をまとめていきたいです。

    パイロットに視認されやすい動作を意識

    【整備員 丸山慈希 空士長】

     日々航空機の点検・整備などを行っています。留意している点は、私はほかの隊員と比べて小柄なので、パイロットへの手信号は動作を大きく行い、視認されやすいようにしています。

     また、幹部自衛官であるパイロットの方に整備上の間違いを伝えるなど、年齢や階級に関係なく指摘することもありますが、言葉遣いには気をつけるようにしています。

    中司飛の主な装備品を紹介!

    画像: 練習機T-4

    練習機T-4

    <SPEC>
    乗員:2人 全長:約13m 全幅:約9.9m 全高:約4.6m エンジン搭載数:2基 最大速度:マッハ約0.9 航続距離:約1300km

    画像: 多用途支援機U-4

    多用途支援機U-4

    <SPEC>
    乗員:21人 全長:約27m 全幅:約24m 全高:約7m エンジン搭載数:2基 最大速度:マッハ約0.88 航続距離:約6500km

    (MAMOR2023年4月号)

    <文/魚本拓 写真/村上由美>

    空自パイロットは生涯・臨戦態勢

    ※記事内容は上記掲載号の発売時点のものです

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