2022年11月6日、大きな緊張関係をはらんだ安全保障情勢の中で行われた国際観艦式は、日本および参加国それぞれに目的があった。パレードの裏側にある観艦式の意義を元海将補の河上康博氏と共に読み解いてみよう。
士気の高揚、認知度の向上に加え、より大きな意義が
基本、自衛隊のみが参加する観艦式と違い、多くの国の海軍も参加する国際観艦式となると、その時々の国際情勢が反映されざるを得ない。元海将補で笹川平和財団主任研究員の河上氏は、そこには「戦略的コミュニケーション」の実施が大きな意義として加わってくると解説する。
河上氏いわく、戦略的コミュニケーションとは国益を意識した情報発信であり、国内外にわが国の戦略・戦術を示すことで国際的なプレゼンス(存在感)の向上を図ることである。
その目的は、自らの能力、技術、士気の高さを公開し、同盟国、協力国との団結、友好の深化を示すとともに、価値観の異なる国への抑止効果を上げることだ。この戦略的コミュニケーションの視点から今回の国際観艦式を見ていくと、何が浮かび上がってくるのだろうか。
戦略的コミュニケーション上、意味がある補給艦の参加
前回2002年の国際観艦式では11カ国、17隻が参加した。そして今回は12カ国、18隻と、規模はさほど変わりはない。だが前回は受閲部隊が動かない停泊式だったのに対し、今回は観閲、受閲両部隊がともに動く移動式が採用された。
観閲部隊のみが移動する停泊式と違い、移動式は両部隊が洋上の決められた相対的地点でスケジュール通りにすれ違わなければならないため、高い操艦技術を必要とする。さらに河上氏は、今回の式に補給艦が多く参加したことに注目する。
「オーストラリア、ニュージーランド、パキスタン、韓国が補給艦を参加させています。補給艦のみを参加させた韓国は、現在の日韓関係を示す別の意味がありますが、補給艦が加われば、海上部隊は途中で給油のために寄港しなくても太平洋やインド洋へ展開できるので、行動範囲は大きく広がります」
そのほかインド、インドネシア、マレーシア、ブルネイなど、台頭する中国に対する日本の外交方針である「自由で開かれたインド太平洋」戦略のパートナーとなる各国が参集した。
「あれもこれもと見栄えのいいイベントを詰め込むのではなく、シンプルな内容にしたことで、より戦略的コミュニケーションとして世界に対して有効なメッセージを発することができたのではないでしょうか」
【河上康博氏】
元海将補。防衛大学校卒業後、海上自衛隊に入隊。海上幕僚監部などに勤務後、防衛大学校国防論教育室長兼教授を経て、現在は笹川平和財団安全保障研究グループ主任研究員
(MAMOR2023年3月号)
<文/古里学 撮影/村上淳>