ロシアによるウクライナ侵攻はなぜ世界中から非難されるのでしょう。それは戦争や紛争に関する国際社会の法律・ルールを破っているからです。
えっ? 戦争に法律・ルールがあるの? もし、日本が侵略されたら、わが国の自衛隊も法律・ルールを守って戦うの? そんな基本的な疑問を、MAMOR1月号にて表紙をつとめた南里美希さんが、国際法・防衛法制の研究者である稲葉義泰先生に聞きました。
【南里美希】
1988年9月20日生まれ。沖縄県出身。2008年にデビューし、ファッション雑誌の専属モデルのほか、テレビCMやドラマ、映画などに出演するなど多方面で活躍中。最新情報は公式HP【https://www.ikushimakikaku.co.jp/nanri-miki/】をチェック
【稲葉義泰氏】
国際法や自衛隊法などを中心に研究を進める一方、軍事ライターとして専門誌において法的側面から多くの記事を寄稿。主な著書に『ここまでできる自衛隊』(秀和システム)、『「戦争」は許されるのか?』(イカロス出版)などがある
Q. ロシアのウクライナ侵攻はどんなルールに違反しているの?
ニュースなどを見ていると、ロシアのウクライナ侵攻が悪いことと理解しているのですが、どんなルールに違反しているのか教えてください。
A. 明確な国際法違反です
今回のロシアの武力行使は国際法違反となります。193カ国が加盟している国連の国際連合憲章第2条4項では、「武力による威嚇または武力の行使」を禁じています。その例外として認められている武力の行使には①国連による集団安全保障措置(第42条)と②自衛権の行使(第51条)の2つがあります。
①は平和に対する脅威、破壊、侵略行為を行っている国に対し、国連安全保障理事会の決議により軍事的措置を行うこと。②は他国から武力攻撃をうけた場合、安保理が必要な措置をとるまでの間に認められる武力行使で、個別的自衛権と集団的自衛権の2種類があります。
今回の侵攻に対しロシアは、ウクライナのドンバス地域の親ロシア派からの要請により自衛権を行使したと主張しています。しかし、親ロシア派は国際的に国家として認められていない「自称国家」集団で、その支援要請による武力介入は国際法上の集団的自衛権の行使にはあたりません。
Q. 戦争にはルールがあるの?
国連憲章で認められている武力の行使があるということは分かりましたけど、そもそも戦争にはルールや法律があるのですか? 例えば戦争でこれはやったらダメとか、具体的に決められているのですか?
A. 武力紛争法でルールが決められています
戦争に関するルールとしては武力紛争法あるいは国際人道法と呼ばれるものがあります。武力紛争法は戦闘の手段と方法に関する規則であるハーグ法と、武力紛争の犠牲者保護に関する規則であるジュネーブ法とがあり、武力行使の目標と手段を規制したものです。
民間人や軍事目標以外のインフラ施設、原発などへの攻撃の禁止、無差別的・不必要な苦痛を与える毒ガス、細菌兵器、対人地雷、ダムダム弾などの武器・兵器の使用が禁止されています。
武力紛争法は、もともとは全ての国を拘束する慣習国際法として成立し、その後19世紀以降に条約という形で発展してきました。ウクライナのインフラ施設を攻撃した際にロシアが近くに軍事目標があったと主張しているのも、慣習国際法である武力紛争法を意識しているからです。
Q. 自衛隊にはどんなルールがあるの?
日本が他国に侵略されたら、国を守るために自衛隊が戦うと思うのですが、その場合、自衛隊の行動も、法律やルールで決められているのでしょうか?
A. 日本国憲法、防衛2法などがあります
自衛隊が国を守るにあたって関わる法律としては、日本国憲法と主に防衛2法(自衛隊法、防衛省設置法)などがあります。
日本国憲法では前文と第9条で戦争放棄や戦力の不保持、交戦権の否認などがうたわれています。一方で第13条では全ての国民は幸福追求権を持っており、国はこれを最大限尊重しなければならないと定めています。国連憲章で自衛権の行使が認められており、そのために一定の手段を持つことは憲法上ありうるとされています。
そのため、防衛2法によって、自衛隊の全ての行動に根拠を与え、国会で承認を得られた範囲内でのみ行動できるようになっています。
自衛隊は必要最小限の実力のみを保持できますが、どの程度が必要最小限かは時代や世界の状況によって変化していくので、これからもさまざまな議論がされていくでしょう。
Q. 自衛隊が防衛するのはどんなとき?
他国に侵略されるとか、攻撃を受けるとか、有事といいますが、自衛隊はどんな状況になったら出動できるのですか? またその際にどのような手続きが必要なのでしょうか?
A. 想定されたケースごとにどう対応するか決められています
有事には、①日本に対する武力攻撃が発生した、または発生する明白な危険が切迫しているという「武力攻撃事態」、②日本と密接な関係のある他国が武力攻撃を受け日本の存立が脅かされる「存立危機事態」、③放置すれば日本に対し直接武力攻撃に至るおそれがあるといった事態をはじめとする「重要影響事態」があります。
「防衛出動」ができるのは、①と②の2つで、さらに自衛権の行使として自衛隊が武力の行使を行うには「武力の行使の3要件」という条件を満たす必要があります。
内閣総理大臣は防衛出動を命じることができますが、その場合、「対処基本方針」を作成して閣議決定し国会に提出して承認を得なければなりません。
政府見解では武力の行使は、「基本的には国家の物的・人的組織体による国際的な武力紛争の一環としての戦闘行為」と定義され、国家またはそれらに準ずる組織ではないテロリスト集団や犯罪集団に対しての武器使用は武力の行使とはなりません。
国際法・国内法に照らすとルールが見えてくる
南里:戦争のルールについてよく分かりました。日本の防衛のために、国際法や憲法を知っておくことは大切ですね!ありがとうございました。
稲葉:戦争に関する国際法・国内法に照らして考えると、どのような場合に軍事力を行使することが許されて、どのような場合は許されないのか見えてきます。
(MAMOR2023年1月号)
<文/古里学 写真(南里美希)/鈴木教雄 写真(稲葉義泰)/山川修一(扶桑社)>