• 画像: 実機と同じディスプレーや通信環境を用意し、改修したプログラムが正しく動くか、不具合はないか検査する隊員たち

    実機と同じディスプレーや通信環境を用意し、改修したプログラムが正しく動くか、不具合はないか検査する隊員たち

     海上自衛隊の航空プログラム開発隊(航プロ隊)では、AI研究・開発のほか、海自がもつ航空機のプログラムについて維持・改善を行っている。航空機や装備品の性能の向上や省力化のために、その任務はことのほか重要である。どのような役割を担っているのか紹介しよう。

    航空機のシステム全般を手掛ける「航プロ隊」

    画像: P-1哨戒機

    P-1哨戒機

     神奈川県厚木航空基地にある航プロ隊は、海自が運用、訓練に使用するコンピュータ技術のうち、航空機に関するプログラムの開発、改善、維持管理を担っている部隊だ。

     現在、航空機や多くの装備品はコンピュータを利用して稼働している。そのコンピュータはプログラムによる命令で動き、そのプログラムはプログラミング言語という数字と関数で構成された特殊な言葉によって記述されている。より使いやすく、良い性能を引き出すには、命令書であるプログラムを洗練、強化してバージョンアップしていかなければならない。もちろん新しい装備品には新しいプログラムが必要だ。

     部隊には隊司令以下、飛行機のプログラムの維持管理を担当するプログラム第1科、ヘリコプターのプログラムを担当するプログラム第2科があり、部隊からはさまざまな不具合の報告や改善の要望が航プロ隊に寄せられ日々プログラムの改修を行っている。

     第1科は、主力哨戒機であるP−1およびP−3Cが任務を行うのに必要なレーダーや音響機器、通信、各種兵装を使用する際のオペレーションプログラムや、本部との連絡や戦闘指揮を伝達するシステム「海上航空作戦指揮統制システムMACCS」のオペレーションプログラムを担当している。

     第2科は、主力哨戒ヘリコプターであるSH−60JSH−60Kのレーダーやソナーなどの操作や、掃海・輸送ヘリコプターMCH−101での掃海プランなどを立案するプログラムを担当している。

    森下幸弘2等海佐:プログラム第1科長として、第1・2係の統括を行う。昨今の情報通信技術の進化に合わせて、航空機と地上通信システムの連携を図っている

     第1科長の森下幸弘2等海佐によると、これまでP−1のオペレーションプログラムを修正、更新することにより、対艦ミサイルの連続発射本数を増加させたり、潜水艦が発する微弱な信号を解析することができるようになったという。

    北野満彦3等海佐:プログラム第2科長として、第3・4係の統括を行う。定期的なプログラムの更新のほか、重大な影響を及ぼす不具合が発生した場合は、緊急対応を実施

     また、第2科長の北野満彦3等海佐によると、機雷捜索に使用しているレーザー機雷探知システムからの情報は、以前は海面反射などの誤探知情報も表示していたが、プログラムの改修により機雷らしいと選別された情報だけを表示できるようになったという。

    「部隊から寄せられた事例に対して、ただ要望通りに修正するのではなく、実際に運用する人が使いやすくて理解しやすいよう、機能、操縦性の向上を目指して日々任務にあたっています」

    MACCSとは

     海上航空作戦指揮統制システム(Maritime Air-operation Command & Control System)。

     航空機や艦艇からの情報やデータを統合・分析し、本部にいる指揮官の意思決定や戦術支援を行うための情報処理システムの1つで、MACCSは海自の所有する哨戒機を対象に作戦指揮統制を行う。データの流れや通信を統括するプログラムを改修している。

    自衛隊の専属プログラマー、どのように育成している?

     プログラミングという高度で特殊なスキルを身につけさせるため、航プロ隊には独特の教育システムがある。海自のプログラマーをどのように育てているのか、紹介しよう。

     航プロ隊では、現場でプログラミングを担当できる人材の教育訓練も行っており、教育部隊としての側面もある。配属された隊員は配置後、すぐに学生として配属先のシステムに特化したプログラミング教育課程に進み、基礎を学んだ後にそれぞれの部署で実任務にあたる。

     教育課程と学生数は、1期(12~22週)あたり、合計十数人程度の少数精鋭の専門教育を行っているのである。全く素地のない隊員が配属されることもあるため、教育内容は、外部のプロ講師による10日間連続のコンピュータ言語教育や基本的な知識などの座学と、プログラムの不具合の修正を行う実習、それに伴う課題発表をくり返し、最終試験をクリアして修了となる。

    丸山征人3等海佐:教育係長として、学生の教育計画の策定や成績審査に関する業務を担当。実際のプログラムを教材として使用し、理解の深化を図っている

    「教育課程の教官は、基本的に学生が配属される部署の隊員が務めますので、学生だけでなく教えるほうも高いモチベーションがあります。教えれば教えるほど自分の隊の実戦力になるわけですから」。教育係長の丸山征人3等海佐はその点も航プロ隊の教育の特徴にあげる。

    伊藤竜太郎1等海尉:ヘリコプターの操縦士として勤務後、航空プログラム開発隊で学生として配属され、教育課程を経てプログラム第2科に

     また学生には、単に技術だけでなく、他者に論理的に説明できるコミュニケーション能力も求められる。

     SH−60Kの教育プログラム課程を修了したばかりの伊藤竜太郎1等海尉は、「われわれは運用者である搭乗員からの要望を具体的で実現可能な形で技術者に伝える立場にあります。運用者と技術者の両者の話を聞き、意見を言ってバランスを取っていかなければなりません」とコミュニケーション、プレゼン能力の重要性を語っている。

    松浦幸一1等海佐:航空プログラム開発隊司令として業務全般を統括・監督するほか、部隊内教育の責任者として人材育成に重点を置いた体制構築を図っている

    「航プロ隊は、航空機のプログラム開発、改善、維持管理を任務としていますが、それのみならず、海自航空部隊における『知性の府』という役割も担っています」

     隊司令であり学校長でもある松浦幸一1等海佐はそう話す。航プロ隊の隊員は、プログラム改修任務を通して現在の戦術のみならず将来構想などへの知見を深めていけるからだ。

    「ICT(情報通信技術)へのリテラシーが高く、インターネットによる情報収集が得意な1990年代中盤から2010年代前半に生まれたZ世代が世間の注目を集めていますが、航プロ隊にも間もなくZ世代の隊員が配置されます。若い世代から研究開発の経験豊富なベテランまで、いろんな隊員が活躍できるよう体制を構築していくのが私の務めです」

    航プロ隊が担当する海自の航空機を紹介

    P-3C

    画像: P-3C

    日本周辺海域における警戒監視を行う哨戒機。潜水艦の捜索・追尾には、水中の音を探知するソノブイを海に投下する。各種探知装置や操作系統のプログラムなど、不具合を改修している。

    <SPEC>全幅:30.4m 全長:35.6m 全高:10.3m 全備重量:約56t 巡航速度:約645km/h 最大速度:約730km/h

    P-1

    画像: P-1

    日本周辺海域において、不審船や外国籍艦艇などの探知を行う純国産の哨戒機。パイロットの操作を光信号に変換する、フライ・バイ・ライト・システムを実用機として世界で初めて採用した。コックピットの機器類や各種装置の操作プログラムについて改修を行っている。

    <SPEC>全幅:35.4m 全長:38.0m 全高:12.1m 全備重量:約80t

    SH-60K

    画像: SH-60K

    潜水艦探知用のソナーのほか、魚雷や対潜爆弾、空対艦ミサイルを搭載している。コックピットモニターやソナー、魚雷、ミサイルなどの各種システムを動かすプログラムを改修している。

    <SPEC>全幅:16.4m 全長:19.8m(寸法はローター回転時)全高:5.4m 全備重量:約10.9t 最大速度:約255km/h 乗員:4人

    SH-60J

    画像: SH-60J

    艦艇や潜水艦などを探す哨戒任務を行う。一部の機体は、赤外線監視装置や敵のミサイルを感知する自機防御装置などを追加装備している。SH-60K同様に、各種システムを動かすプログラムの改修を行っている。

    <SPEC>全幅:16.35m 全長:19.76m(寸法はローター回転時) 全高:5.2m 最大速度:約275km/h 乗員:4人

    MCH-101

    画像: MCH-101

    海自の掃海・輸送ヘリコプター。レーザー機雷探知システムとえい航式の機雷掃討ソナーおよび音響掃海具を搭載し、機雷の掃討・掃海を実施する。掃海計画などを立案するプログラムを改修している。

    <SPEC>全幅:18.6m 全長:22.8m(寸法はローター回転時) 全高:6.6m 最大速度:約280km/h 乗員:4人

    XSH-60L

    画像: XSH-60L

    SH-60Kのプログラムを発展・向上させた次期哨戒ヘリコプター。2021年5月に初飛行。ほかのソナーからのデータと連携してより精度の高い目標識別が可能になるマルチスタティック処理能力や探知識別能力の向上が図られている。技術実用試験におけるプログラム確認試験を実施中である。

    <SPEC>全幅:16.4m 全長:19.8m 全高:5.4m 乗員:4人

    (MAMOR2022年8月号)

    <文/古里学 写真/荒井健>

    自衛隊AI部隊、出動せよ!

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