• 画像: 写真/U.S.Army pictures(https://www.flickr.com/photos/35703177@N00/4055003959/)

    写真/U.S.Army pictures(https://www.flickr.com/photos/35703177@N00/4055003959/

     最近、われわれが耳にする報道には、聞き慣れない「ミサイル」が増えている。北朝鮮の列車や海中から発射されるミサイル、ロシアがウクライナ侵攻で使用した新型ミサイル、それに対抗するアメリカ軍から供与された対戦車ミサイルなど。

     そこで、世界におけるミサイルの動向と注目点を、フジテレビ上席解説委員の能勢伸之氏に解説してもらった。

    アメリカは極超音速ミサイル分野でロシア・中国に出遅れ?

    画像: 写真/U.S.Army pictures(https://www.flickr.com/photos/35703177@N00/48050025763/)

    写真/U.S.Army pictures(https://www.flickr.com/photos/35703177@N00/48050025763/

     アメリカは2009年からのオバマ政権のもと、「核兵器のない世界」を志向しており、その1つが、通常兵器としての極超音速ミサイルの開発だった。

     核兵器と同様の抑止力を発揮でき、地球上のいかなる目標に対しても1時間以内に打撃を与えられる兵器として計画されたが、難航ののち開発は放棄。トランプ政権に代わると、「低出力弾頭」(注1)やそれを搭載するミサイルを開発する計画を開始するも、4年後には、非核兵器を重視するバイデン政権に交代してしまった。

     アメリカでは政権交代に伴う軍事戦略の立て直しが続いたこともあり、極超音速ミサイル、そして低出力弾頭の分野では、ロシアや中国に先を越されてしまった。今後は、ミサイル関連技術の開発を急ピッチで進めていくことが予想される。

    注1:広島型原爆の10分の1以下の出力とされ、戦闘地域や敵基地だけをターゲットにできる小型の核

    北朝鮮はミサイル発射を活発化。ロシアとの関係にも注目

     2022年に入ってから、立て続けにミサイル発射実験を繰り返している北朝鮮。確認されているだけでも短~中距離の弾道ミサイル、極超音速滑空ミサイル、巡航ミサイル、そして「偵察衛星開発のための実験」と称し、長距離弾道ミサイル「火星17」の可能性があるものを発射している。

     北朝鮮はここ数年、中距離以上の射程を持つ弾道ミサイルの発射を控えていたとされるが、22年に入って長射程の弾道ミサイルの発射実験を再開。さらにはロシア・中国のみが開発成功した「極超音速ミサイル」と北朝鮮が自称したミサイルも発射、全方位的にミサイル発射能力の強化を図っている。

     ウクライナ侵攻以降、旧西側諸国との関係が急速に悪化したロシアが北朝鮮に接近しているとの報道もあり、ミサイル技術などがロシアから流れている可能性も考えられ、両国の動きに注目が集まっている。

    ロシアは極超音速ミサイルで先行。ウクライナ侵攻の情勢が今後のカギに

    空中発射弾道ミサイル・Kh-47M2キンジャル

     ロシアは国際的な地位の確保や核戦力の均衡を取る必要、さらにはアメリカを含むNATO諸国に対して通常戦力で劣るのを補うため、核戦力の整備を重視してきた。当然、運搬手段であるミサイルの開発にも力を入れており、近年では新型ICBM(注2)や、命中精度が大幅向上したとされる巡航ミサイル(艦艇から陸地に向けて発射される海上発射型)の開発・配備を進めている。

     また極超音速兵器の分野では世界をリード。空中発射型の弾道ミサイル「キンジャル」、そしてICBMに搭載して発射される極超音速滑空体「アバンガルド」を開発。特にアバンガルドは最高速度がマッハ27にも達するとされ、現在の技術では迎撃が困難だといわれている。ICBMに搭載される「アバンガルド」はアメリカにとって、「キンジャル」は海を挟んで隣国の日本にとって非常に脅威。ウクライナ情勢も併せ、今後の状況を注視していく必要がある。

    注2:重量級大陸間弾道ミサイル「サルマト」のこと。ロシアの報道によれば、最大15の弾頭を搭載でき、射程は世界最長の1万8000キロメートルに及び、アメリカのミサイル防衛網では迎撃できないとされている

    中国は中距離弾道ミサイルに注力。極超音速ミサイルも自力開発

    準中距離弾道ミサイル・DF-17

     ロシア・アメリカに次ぐミサイル大国・核大国になった中国。短~長距離弾道ミサイル、各種巡航ミサイル、そしてロシア同様に極超音速ミサイルを開発するなど、多種多様なミサイルを保有する。

     中でも特徴的なのが、準中距離または中距離弾道ミサイルを多数配備していること。アメリカ・ロシア両国は、2019年まで「INF条約」を結んでおり、その距離に対応した弾道ミサイルを持てなかったため、この距離のミサイルは中国の独壇場ともいえる。射程的に中国本土から日本全域を捉えることができ、日本にとっては大きな脅威。

     また極超音速ミサイルの分野でも、極超音速滑空体「DF−ZF」を搭載した「DF−17」(東風−17)というミサイルを開発している。現在は通常兵器として公表されているDF−17だが、核戦力としても用いることができるよう開発が進められていると伝えられている。

    ロシアの艦を沈没させたウクライナの対艦ミサイル

     ロシアによる侵攻の中で、ウクライナが独自に開発した対艦ミサイル「ネプチューン」の戦果には世界が驚いた。

     2022年4月14日(現地時間)、ロシア海軍の巡洋艦『モスクワ』が沈没。ウクライナの発表によると、13日、「ネプチューン」2発を命中させたという。

    「ネプチューン」は、ソ連時代に設計されたKh−35対艦ミサイルをベースに開発されたもので、射程は300キロメートル程度、敵に発見されづらい海面上3~10メートルの超低空を飛ぶ「シースキマー」と呼ばれるタイプのミサイル。今回の件で、各国の防衛関係者から注目が集まるのは間違いないだろう。

    意外な核保有国・フランス

     フランスは、アメリカ追従ではない独自外交を追求してきたことから、抑止力としての核兵器を独自に保有し続けている。その保有数はロシア、アメリカ、中国、フランス、イギリスの順で、世界4位である。

     核を運搬する手段としてのミサイルは、潜水艦発射型弾道ミサイルが中心で、加えて航空機に搭載して発射する空中発射核巡航ミサイルも配備している。その後継として、極超音速核巡航ミサイルの開発も進めているといわれている。

    北朝鮮への対抗上開発を進める韓国

     核保有国となった北朝鮮の脅威にさらされているのは、日本だけではない。陸上で軍事境界線を挟んで接する韓国も同様で、抑止力を必要としている。

     韓国には、弾道ミサイル・巡航ミサイルの「玄武」シリーズがあり、玄武−1、2は地上発射型の短距離弾道ミサイル、玄武−3は巡航ミサイルだ。近年では、潜水艦発射型弾道ミサイルの開発にも注力していて、2021年9月には「玄武4−4」型を潜水艦から水中発射することに成功したといわれている。

    ドローンもミサイルの一部?

    アメリカのドローン「スイッチブレード」は、1人で射出できる 写真/U.S.Army pictures(https://www.army.mil/article/169916/army_develops_critical_components_for_lethal_miniature_aerial_missile_system

     ロシアの侵攻に関し、アメリカがウクライナに供与した徘徊型ドローン「スイッチブレード300」。人が背負って運べる小型のドローンで、迫撃砲のようなランチャーから射出された後、翼を広げて上空を徘徊、外部からラジコンのようにコントロールする。

     搭載されたカメラで目標を偵察し、映像で敵を確認して指令を送ると、敵に向かって突入、自爆する。現地ではすでに戦果を上げているというこのドローンだが、メーカーの資料には「視界を越えた(視界の先にいる)ターゲットに対して使用するための、理想的な徘徊ミサイル」と書かれているそうだ。

    ミサイルに関しては国際的な規制も

     国際的な軍縮や核兵器などの大量破壊兵器不拡散の観点から、ミサイルに関してもさまざまな国際的取り組みが行われてきた。その一部を紹介しよう。

    INF条約(中距離核戦力全廃条約)
    1987年にアメリカとソ連(当時)の間で結ばれた軍縮条約で、射程500~5500キロメートルまでの地上発射型弾道ミサイルと巡航ミサイルの廃棄を定めたもの。ソ連崩壊後はロシアが引き継いだが、2019年2月、アメリカのトランプ政権が破棄を通告。同年8月に失効した。

    新START(新戦略兵器削減条約)
    2010年、アメリカとロシアの間で結ばれた条約。両国の戦略核弾頭の配備数やミサイル、爆撃機など核兵器の運搬手段の総数を制限することを定めている。21年に期限切れを迎え、交渉が難航していたようだが、両国が26年までの延長で合意。

    MTCR(ミサイル技術管理レジーム)
    核をはじめ大量破壊兵器の運搬能力を持つミサイルの拡散防止を目的に作られた、諸国の非公式な集まり。各国間でミサイルおよび関連品や技術など合意されたリストの品目に基づいて輸出の管理を行っている。日本を含む35カ国が参加するが、中国は加わっていない。

    【能勢伸之】
    フジテレビ上席解説委員。防衛・安全保障関連の取材歴が長い。著書に『極超音速ミサイルが揺さぶる「恐怖の均衡」』(扶桑社)、『ミサイル防衛』(新潮社)などがある

    <文/臼井総理 イラスト/松岡正記>

    (MAMOR2022年8月号)

    世界のミサイル百科事典

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