2022年3月17日、新設の自衛隊病院としては17年ぶりに、入間病院が開院した。空自ならではの医療分野である「航空医学」機能を有する病院として、日本初の診療科・航空医学診療科を設置し、航空業務従事者などの検査と治療を一元化して行うことができる。
入間病院では、三沢・岐阜・那覇の各自衛隊病院に在籍していたスタッフのほか、民間出身の医療従事者を技官として採用している。開院準備に当たったメンバーも含め、どんな人たちによって支えられているのかを紹介しよう。
民間出身の医療従事者も活躍
入間病院で働くスタッフは、総勢約270人。入間病院開院と同時に統廃合された三沢病院、岐阜病院、那覇病院、ほかの空自部隊から異動した看護技官や医官、看護官、歯科医官、薬剤官(医師、看護師、歯科医師、薬剤師の資格を持つ自衛官)などに加え、新たに民間出身の医療従事者を「防衛技官」として採用している。
「防衛技官」は、看護師や臨床工学技士、作業療法士などの専門資格を持つ人を防衛省の職員として採用する制度で、自衛官ではないため、戦闘訓練などは行わない。特別職の国家公務員として、入間病院でそれぞれの専門分野に応じた任務を行っている。
また、入間病院には教育部があり、航空医官(医師免許を持つ航空医学分野の研さんを積んだ自衛官)や准看護師・救急救命士などの資格を持つ自衛隊員を養成する、各種教育を行う。
航空医学、患者空輸、大規模災害拠点、新たな医療従事者の学び舎、さまざまな役割を持った入間病院の運営は始まったばかりなのである。
入間病院で働くスタッフの声
各プロが集まった入間病院。皆を1つにするべく腐心
【高畑智文2等空佐】
中部航空警戒管制団司令部衛生班長。2021年4月より入間病院準備室長として従事。開院にむけて準備の最終段階を担った
「準備室長として、開院まで医療機器の搬入や、組織づくりにまつわる調整、地元自治体や医師会、防衛医科大学校との調整役を担当しました。入間病院準備室には、自衛官、事務官、技官、そして民間から新たに採用した方々、それぞれ経歴の違うスタッフが集まりました。
皆が一丸となり任務に取り組めるようまとめるのに苦労しました。『自衛隊のため、国民のためにすばらしい病院を作る』という目的意識を共有することで気持ちを1つにできたと思います。なんとしても成功させねばというプレッシャーもありましたが、無事開院を迎え今は少しほっとしています」
研修で敬礼指導も。自衛官の礼儀正しさに感激
【藤田凛防衛技官】
手術室担当看護師。過去に民間病院で終末期医療などを担当していた。父・姉とも航空自衛官という自衛隊一家
「姉が自衛官なので、自衛隊病院の存在は知っていました。入間病院で新しいスタッフの募集があると聞き、志願しました。自衛隊といえば災害派遣、というイメージがあります。今後お役に立てるよう、成長していきたいと思っています」
救急対応も学び、安全・安楽な環境を提供したい
【羽柴夕貴防衛技官】
病棟担当看護師。以前は民間の急性期病院や回復リハビリ病院で勤務。入間病院の開院にともない埼玉県に移住
「災害派遣や大規模接種などで活躍する自衛隊の姿を見て興味を持ち、志願しました。救急対応やトリアージについてはさらに勉強が必要ですが、看護師としての仕事は変わりません。笑顔で対応して『安全・安楽』な医療提供を心がけて励んでいきたいです」
自衛隊と国民のための病院へ。スタッフとともに医療の未来を創る
【加藤圭空将補】
自衛隊入間病院病院長。航空医学実験隊司令などを歴任。構想初期から、空幕首席衛生官付として入間病院事業に携わり、院長として病院を統括する
「この病院のビジョンとして、私は『未来創生』を掲げました。医療を通じて隊員やその家族のため、地域医療や災害派遣を通じて国民の皆さまのため、そしてここで働く職員自身のため、一丸となって病院の未来を創っていこうと考えています。
また、病院経営にあたっては『ESなくしてCSなし、CSなくして未来なし』というスローガンを掲げています。ESとは『職員の満足』。CSは『患者の満足』です。
きちんとした医療をお届けするためには、個々のスタッフがやりがいを持って生き生きと活躍でき、きちんと能力を発揮することが重要。そのためにはスタッフが働きやすいような環境整備も大切です。スタッフの満足が患者の満足につながっていくと考えています。
さらに、空自独自の能力として、同じ入間基地に所在している航空医学実験隊とも連携し、航空医学の臨床面でのシンクタンクとしての役割も果たしていきたいと考えます。当病院の力が、空自衛生の強化、より強靱な自衛隊のために役立つよう、そして国民の負託に応えられるよう、取り組んでまいります」
(MAMOR2022年7月号)
<文/臼井総理 写真/増元幸司>
ー空飛ぶ自衛隊病院ー