自衛隊発足以来、映画やマンガなどのエンタメ作品に自衛隊は多く登場している。かつては怪獣に手も足も出なかった自衛隊は、やがて頼れる組織として実力を発揮し、自衛官が主人公となる作品も登場するようになった。
防衛大学校の相澤輝昭准教授に、今後のエンタメ作品で自衛隊はどのように描かれるか聞いてみた。
今後のエンタメには強い自衛隊が登場する?
正体不明の組織のように扱われた時代と比べ、最近の自衛隊が登場する作品では自衛隊や自衛官が好意的に描かれています。『シン・ゴジラ』では「国民を守るのがわれわれの仕事」、「礼にはおよびません、仕事ですから」といった自衛官が発する力強い言葉も印象的でした。
警察や消防を舞台にしたエンタメ作品のように、職業の1つとして自衛官や自衛隊が登場し、頼れる存在としてこれからも描かれ続けることを期待したいです。
一方で現実世界の情勢に目を向けると、北朝鮮のミサイル発射事案や中国の海洋進出、ロシアとウクライナの問題など、日本周辺の安全保障環境が注目を集めています。
これらの情勢が今後の作品に影響を与える可能性もあります。こうした脅威に対抗する強い自衛隊が描かれる作品も登場するのではないでしょうか。(相澤輝昭氏談)
自衛隊の存在そのものに踏み込んだ、映画『シン・ゴジラ』
自衛隊の行動や戦い方がリアルに描かれる
シン・ゴジラ(DVD)
発売・販売元:東宝 4180円
配給:東宝
総監督:庵野秀明
監督:樋口真嗣
出演:長谷川博己、竹野内豊、石原さとみほか
<作品解説>
東京湾で不審な事故が次々発生。やがて謎の巨大生物が出現、上陸しゴジラへと変態。東京を破壊していく。政府は対策本部を設置し、自衛隊による防衛出動を検討するが、ゴジラの破壊は止まらない……。
登場する主な装備品
護衛艦『いずも』
5機のヘリが同時に発着艦できる海上自衛隊最大級の多機能型護衛艦。劇中で都民が避難をするシーンで登場
10式戦車
2010年に配備された国産4代目の戦車。多摩川沿いでゴジラに対処する作品屈指の名場面などで活躍した
EC-225LP
主に国賓などの輸送に使用される陸上自衛隊の航空機。劇中では閣僚を乗せて離陸した際にゴジラに撃墜される
F-2
戦闘機F-16をベースに、日米共同で開発・製造された戦闘機。多摩川沿いでゴジラと対峙し、爆弾を投下している
防衛出動の手順も分かる名作
過去の怪獣映画では類をみないほど自衛隊の活動が描かれた。強力な巨大生物の侵攻を受けた場合、自衛隊の出動方法は?災害派遣なのか、防衛出動なのか?といった点にまで言及し、自衛隊の存在そのものにエンタメ作品が踏み込んでいる。
自衛官も統合幕僚長、副長、陸・海・空各幕僚長など、自衛隊を動かすトップの人間が登場。組織としての性格や役割がより明確に描かれた。自衛隊の出動決定のプロセスは報道番組などでも引用されるほどリアルに描かれている。
防衛省・自衛隊が登場する作品を紹介
『シン・ゴジラ』以外にも、防衛省・自衛隊が登場するエンタメ作品は数多くある。その一部を紹介しよう。
映画
ジェットF-104脱出せよ(1968年)
(監督・主演:村山三男、倉石功)
戦闘機のパイロットを目指し厳しい訓練を積む隊員が主人公。脱落者や仲間の事故死を乗り越え、パイロットになるまでの物語が描かれる。
BEST GUY≪ベストガイ≫(1990年)
(監督・主演:村川透、織田裕二)
F-15戦闘機の若きパイロットたちが最高の栄誉である「ベストガイ」を目指し、隊員同士の友情や争いを描く日本版『トップガン』。
ゴジラ×メカゴジラ(2002年)
(監督・主演:手塚昌明、釈由美子)
東京湾に出現したゴジラとゴジラの細胞が組み込まれた「対特殊生物自衛隊」のメカゴジラ(3式機龍)が対決。激闘を繰り広げる。
ULTRAMAN(2004年)
(監督・主演:小中和哉、別所哲也)
空自パイロットがフライト中に赤い飛行体と衝突し、ウルトラマンに変身。同じく自衛官が変身した怪獣「ザ・ワン」が出現し対決する。
日本沈没(2006年)
(監督・主演:樋口真嗣、草彅剛)
大規模な地殻変動で日本列島が沈没する可能性が高まった日本を舞台に、災害に立ち向かう主人公たちを描く。災害派遣などで自衛隊が登場。
ミッドナイトイーグル(2007年)
(監督・主演:成島出、大沢たかお)
日本の山中で消息不明となった特殊爆弾が搭載されたアメリカ軍機をめぐる自衛隊と工作員の攻防などを壮大なスケールで描く。
テレビドラマ
リコカツ(2021年)
(出演:北川景子、永山瑛太ほか)
主人公が空自救難隊の自衛官と運命的な出会いを経て結婚するも、早い段階で反りが合わず離婚を決意。離婚に向けた水面下の活動(リコカツ)を描くラブストーリー。
漫画・小説
光はるかに(1979年)
(作者:三浦朱門)
外車輸入会社の社長の息子が防衛大学校に入学。教育隊の区隊長を努める天麻3等陸尉が仕事などに悩み、成長する姿を描く。
ライジングサン(2012年〜)
(作者:藤原さとし)
18歳の新隊員たちを主人公に、自衛隊の訓練や日常など細部までとことんリアルに熱く描く、笑いと涙の青春ストーリー。
GATE 自衛隊 彼の地にて、斯く戦えり(2014年〜)
(作者:柳内たくみ)
白昼の東京銀座に突如現れた「異世界への門(ゲート)」と軍勢たち。陸上自衛隊はこれを撃退し、門の向こう側へと足を踏み入れ、異世界の住人たちと交流する。
雑誌
MAMOR(2007年〜)
防衛省が編集協力をしている唯一の広報雑誌。防衛省・自衛隊の活動を分かりやすく紹介し、自衛官の素顔に迫るオフィシャルマガジン・
注:『光はるかに』以外は防衛省が制作協力をしている
【相澤輝昭】
海上自衛官として掃海艦 『はちじょう』の艦長などを務めた。退官後は、外務省アジア大洋州局地域政策課専門員、笹川平和財団海洋政策研究所特任研究員を歴任。2020年より防衛大学校准教授
(MAMOR2022年7月号)
<文/古里学>