•  国連が紛争地域の平和維持を図る手段として行ってきた活動が「国連平和維持活動(United Nations Peacekeeping Operations 略称PKO)」。国連平和維持活動や人道的な国際救援活動に、自衛隊などが参加することを可能にした「国際平和協力法(PKO法)」が成立した1992年に、カンボジア派遣から本格的に始まった自衛隊によるPKOは、2022年で30周年を迎えます。この30年間に、自衛隊はどのような活動で世界に貢献し、各国はどう評価しているのでしょうか? 関わった人々の声、送られたコメントを基に検証します。

    イスラエル・シリア

    国連兵力引き離し監視隊(United Nations Disengagement Observer Force 略称UNDOF)
    ●1996年1月〜2013年2月
    ●派遣隊員延べ1501人

    PKOの背景:ゴラン高原が中東戦争の地に

     1948年のイスラエル国家成立により始まった、パレスチナの領土獲得をめぐるアラブ諸国とイスラエル間の武力衝突は、中東戦争と呼ばれ、73年に発生した第4次中東戦争では、ゴラン高原がイスラエルとシリアの戦闘地帯となった。停戦となったが、軍事的に不安定な状態が続いたことから、74年、ゴラン高原に両国の兵力を引き離す地帯を設置することと、停戦監視部隊を派遣することを目的に、国連がUNDOFを設立した。

    UNDOFとは?:派遣輸送隊が物資を届けた

    画像: 派遣輸送隊の隊員が、拠点に到着した日常生活物資などを追送品リストと照らし合わせながら確認

    派遣輸送隊の隊員が、拠点に到着した日常生活物資などを追送品リストと照らし合わせながら確認

     UNDOFとは、中東のゴラン高原地域におけるイスラエルとシリア両国間の停戦監視などを行う国連ミッション。1996年から派遣された自衛隊の派遣輸送隊は、UNDOFの活動に必要な日常生活物資などを、イスラエル、シリア、レバノンの港湾、空港、市場などから各国の宿営地まで輸送した。また、道路の補修や、標高2800メートルを超える山岳地帯での除雪作業なども行った。

    「信頼される日本人」たることを意識し任務を遂行

    【陸上幕僚監部監理部総務課広報室 坂本幸治2等陸佐】
    2010年8月より半年間、輸送班長としてゴラン高原の国連管理地域の東西(イスラエル側とシリア側)にて勤務

    画像: 各国の派遣隊員らとも打ち解け、和気あいあいと笑顔で記念写真におさまる自衛隊員たち

    各国の派遣隊員らとも打ち解け、和気あいあいと笑顔で記念写真におさまる自衛隊員たち

     装甲車をレバノンにある整備工場まで輸送する際は、多くの調整や書類作成がある上、直前でキャンセルになったり、輸送ルートが急きょ変更になったりと、国内での輸送任務との違いに苦労しました。調整相手も、インド、シリア、オーストリア、イスラエル、フィリピンなどと、実に多様。考え方が違う上に英語での調整であるため、常に「本当に意図が正しく伝わっているのか」を確認しながらの業務でした。

     やりがいを強く感じたのは、物資を輸送した際に各国の軍人から感謝されたときです。特に、飲料水を各部隊に配るときは、各国軍人が荷降ろしに協力してくれることが多くありました。同じ事務所で働くインド軍人は「日本人はアジアの誇り」だと言ってくれていました。彼らは欧米を強く意識しているためか、会話の中でよくアジアという言葉を発していたのが印象的でした。

    PKO任務は入隊時からの夢。任務後の充実感と誇りは宝です

    【統合幕僚監部首席後方補給官付後方補給室 和田浩二3等海佐】
    2010年8月より半年間、派遣輸送隊の総務厚生幹部として、日本隊が行う行事などの企画から実施までを担当

    画像: UNDOFの懇親会では日本の文化も紹介。オーストリア兵士にすしを振る舞う自衛隊員(左)

    UNDOFの懇親会では日本の文化も紹介。オーストリア兵士にすしを振る舞う自衛隊員(左)

     日本隊が実施する主要な行事には、指揮転移式(注1)およびレセプション、日本文化紹介行事、UNDOFメダル授与式(注2)などがあり、これらの行事の企画、準備作業、調整などを行いました。現地では、日本隊員は常に真面目で勤勉、とても緻密な仕事をするプロフェッショナル集団だという高い評価を耳にしていました。

     1次隊の派遣から、先輩方が苦労しながら長年地道に積み上げてこられた日本隊の評価を、われわれが汚すことのないよう、皆で力を合わせて任務にあたることが励みになっていたと思います。PKOで派遣されるということは、常に日本の自衛官としての看板を背負って活動するということです。派遣前から身の引き締まる思いで事前訓練に励みましたし、派遣期間中は自分のやるべきこと、やれることを全力でやり遂げるという覚悟と心構えで任務にあたりました。

    ※(注1)これまで任務にあたっていた派遣要員から、この先任務にあたる派遣要員に業務を引き継ぐ式典
    ※(注2)UNDOF司令官から派遣隊員に功績をたたえるメダルが贈られる授与式

    南スーダン

    国連南スーダン共和国ミッション(United Nations Mission in the Republic of South Sudan 略称UNMISS)
    ●2011年11月~
    ●派遣隊員延べ3959人(2022年3月現在)

    PKOの背景:内戦を経て南部が分離独立

     1956年にイギリス植民地支配から独立したスーダン共和国は、イスラム教徒が多く占める北部と、民族宗教やキリスト教が根強い南部の間で、2次にわたる内戦を繰り広げていた。2011年、住民投票を経て、北部スーダンから分離独立した南スーダン共和国。国連は、その平和維持活動を目的とし、UNMISSを設立した。日本のNGO(非政府組織)は、野菜の栽培法から加工の仕方なども教え、農産物の生産性を上げるための活動も行っている。

    UNMISSとは?:かつては部隊も派遣

    画像: ショベルカーで整地を行う自衛隊員。この後、施設を構築するまでは施設部隊の得意分野だ

    ショベルカーで整地を行う自衛隊員。この後、施設を構築するまでは施設部隊の得意分野だ

     UNMISSは、平和と安全の定着および南スーダンにおける発展のための環境構築の支援を任務として、2011年7月9日の南スーダン独立に伴い設立。現在、自衛隊からは司令部要員(注3)を派遣し、兵たん、情報、施設、航空運用の各業務の企画・調整などを行っている。12~17年までは、施設部隊などとして延べ約4000人を派遣し、道路などのインフラ整備などを行った。

    ※(注3)ミッションを統括する組織で計画づくりなどを行う

    道路整備を通じ、治安の改善や人的交流を促進

    【UNMISSミッション支援部施設課 有薗光代3等陸佐】
    2021年8月より勤務。全域における幹線道路整備に携わっている

     南スーダン全域における援助物資の補給に使われる幹線道路の整備は、UNMISSの最優先案件の1つです。私は2013年にも派遣されているのですが、その際には、住民から「日本隊がジュバ市内に造った道路の排水溝が、自宅に雨水が流入するのを防いで住環境を改善し、地域の交通の便を良くした」と聞いていました。

     今回の派遣で、現地のスタッフから、「日本が造った道路だけゴミが少ないのは、日本人が良い仕事をした証拠だ」と言われたときには胸がキュンとしました。当時の勤勉で丁寧な自衛隊の仕事ぶりを評価し、親しく話しかけてくれる関係者はいまだ多く、とてもうれしく感じています。

    国際社会における日本の評価を高める存在

    【在南スーダン日本国大使館参事官 外山光弘】
    2018年より南スーダンの日本大使館で外交に当たる

     自衛隊の参加するPKOは警察などの治安部門を有している点で、とてもユニークな存在です。また、ほかの援助組織ではできないさまざまなニーズにも対応できることから、その意義は非常に高いと感じています。実際、南スーダンの政府関係者や民間企業関係者と話をする際にはしばしば、施設部隊の派遣についての感謝の意を受け取っています。

     国際社会からの日本に対する期待感は、以前にも増して強くなっています。UNMISSのようなPKOにおける日本の協力活動の経験をより多く積むことが、結果的に日本の世界における評価につながっていくことを期待しています。

    自衛官の真摯な対応と優しさに励まされた

    【独立行政法人 国際協力機構(JICA)アフリカ部 木村真樹子】
    JICA本部にて平和構築支援に関する業務に従事したのち、企画調査員として2011年より約2年半、南スーダンへ派遣。陸自と共に活動

     私が独立前の南スーダンに着任した当時の空港にはターンテーブルもなく、ホテルもプレハブやコンテナを活用した部屋でした。私の業務は、JICAプロジェクトの活動と自衛隊施設部隊の活動が連携し、ジュバ市内の道路整備が促進されるよう調整することでした。自衛官はとても真摯に説明に耳を傾けてくださり、和やかな雰囲気で意見交換をすることができました。いつも丁寧に対応していただき、心強い気持ちになったことを覚えています。

    かつて現地にまいた種がもたらした大きな実りに感動

    【UNMISS軍事部門司令部兵站課 田原快3等陸佐】
    2022年1月より勤務。食料や水、装備品などの補給支援などを行う

     南スーダンは雨季になると道路が冠水し、車両がほとんど通れなくなってしまいます。そこで、必要な物資はナイル川を使って輸送するのですが、この調整を担当しています。私にとって、今回の派遣は2回目。前回から約10年の歳月がたちましたが、かつて日本の部隊が造った道路や橋を、現地の方々が今も大事に使ってくださっていることに感動しました。

     また、友人となったカンボジア人からも、「日本がPKOで私たちの国を助けてくれたことは今でも忘れていない」と言われました。私たちがここで築く信頼や実績が、後輩や日本のために残っていくことを励みに、頑張っていきたいと考えています。

    自衛隊で培った経験を生かし情報分析・情報提供を行う

    【UNMISS統合ミッション分析センター(JMAC) 原田寿幸1等陸尉】
    2021年8月より勤務。データベースの管理などを担当

     現在、アドバイザーの役割を果たす組織JMAC(注4)から提供される情報が、あらゆる活動に影響を与えるため、責任は重大です。勤務している軍人の中で情報科の隊員は私だけなので、自衛隊で培った情報に関する知識、能力をほかの隊員と共有すると非常に感謝され、業務に反映してくれます。日本のやり方が受け入れられるのは非常にうれしいです。

    「なぜ日本人はこんなに繊細な仕事ができるのか?」と、カナダ陸軍大尉から言われました。これまで先輩方が積み重ねてきた努力が今の信頼につながっていることを実感します。

    ※(注4)UNMISSの活動に必要な情報資料を収集・分析し、ミッション長などに提供

    UNMISSでの活動から「多様性への理解」を学びたい

    【UNMISSミッション支援部航空課 森克仁1等陸尉】
    2022年1月より勤務。主に航空機運航計画の作成などを担当

     南スーダンの、特に雨季における道路状況は非常に悪く、冠水することもあるため、航空輸送は非常に有効です。さまざまな部署から寄せられる航空輸送の要望に対して、限られた航空機で最大限に応えられるよう調整を行い、効率的な航空機運航計画を立案しています。

     所属する航空課の合言葉に“TeamA”というものがあります。「プロとして先頭に立ち、傍観者になることなく、積極的に任務に貢献する」といった趣旨なのですが、自分も“TeamA”の一員として、同時に日本の代表として、各国からの信頼を勝ち得るよう、一生懸命職務にまい進したいと思っています。

    (MAMOR2022年6月号)

    <文/真嶋夏歩 写真提供/防衛省、内閣府>

    30年にわたるPKO派遣からVOICE&COMMENT

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